第15話

―――謁見の間


アルヴィンは玉座に座り、その両脇には側近が立つ。

そして、数段高い場所から跪いているラッセル公爵を見下ろしていた。

当の本人は何故呼ばれたのかもわからないようで、視線を忙しなく泳がせている。


「さて、公爵。何故ここに呼ばれたのか、見当もつかないという顔をしているな」

「は、はい」

「先ほど、公爵の娘が騎士を振り切り、私と王妃がいた庭へと許可なく現れた」

「・・・え?クララが?」

「そうだ。自分はいつ側室になるのか、子供が産まれたら夫婦ではなくなるのだろうと騒いでいた」

公爵はハッとしたようにアルヴィンを見た。

「どうやら、心当たりがあるようだな」

「え・・・いや・・・・その・・・」

バレた事の重大さに今気づき、ダラダラと冷や汗を流す公爵。

例え叔父だろうと何だろうと、やったことは許されない。

「王妃との初顔合わせの件は、箝口令を言い渡したはず。それは例え家族でも漏らしてはいけない事。公爵が行った行為は、背任行為に当たる」

「そんな!私も娘も、王家には何も損害を与えてはいないはず!」

「いや、漏らしたことが既に罪だ。それに、損害を与えてからでは遅いのだよ。実際、お前たちがしたことで王妃と子供の命が危機に晒されたのだからね」

どこまでも能天気な公爵をひと睨みすれば「ひっ!」と声を上げ真っ青になった。

「お前が娘に王妃が出産すれば側室になれると言ったようだが、そのままを王妃にも叫んだのだよ。その所為で、王妃は精神的にショックを受けて一時は母子共に危険な状態になった。お前は王家に損害を何も与えていないと言ったが、先程も言ったように与えてからでは遅い。そして、損害を与える寸前だったのだ。・・・・いや、王妃が倒れたのだから損害を出したことになるな。それを背任行為と言わずして何という」

ガタガタ震えはじめる公爵に、アルヴィンはまさに凍れるほどの眼差しで彼を睥睨した。

「あぁ・・・王家反逆罪か?」

その言葉に弾かれるように公爵は叫んだ。

「それは!絶対にありません!王家に弓引く行為などするはずもない!」

「そうか?だが、未来の国王を害すような事をしたではないか」

「それは・・・・」

と言い淀み、今度は反対にアルヴィンを睨み付けてきた。

「もとはと言えば、陛下が王妃様と仲違いしたことが原因ではありませんか!世継ぎが産まれたら離縁などと言うから!」

「確かに、あの時はその予定だった。だがな、子ができたとて翌日に生まれるわけではないのだ。人の気持ちなど、時間と共に変わっていくものだ。私は王妃を愛しているのだからね」

「王妃を、愛している?」

「そうだ。例え離縁しなくてはいけなかったとしても、側室も愛妾も持つつもりはない」

アルヴィンがフィオナを愛している事が意外だったのか、公爵は間抜けな顔で呆然としている。

此処にマリアがいたならばきっと「誰が見てもわかったでしょ!」と、怒っていたかもしれない。

それほどまでに分かりやすかった、アルヴィンの表情と態度。

公爵以外の側近や騎士達は、マリア同様アルヴィンがフィオナに一目ぼれした事に気付いていたのだから。


アルヴィンが扉の前にいる近衛騎士に合図を送ると扉が開かれ、拘束されたクララが騎士と共に入ってきた。

「クララ!!」

「お父様っ!!」

騎士はクララを公爵の隣に座らせ、横に控えた。

「陛下!これはどういうことですか!!まるで罪人の様なこの扱い!」

間抜けな呆け面から一変、娘の扱いに激怒した。

だがアルヴィンは、あっさりと「罪人だろ?」と一言。

「先ほど話した事を、もう忘れてしまったのか?」

そう言って、不快そうに顔を歪めた。

「しかし、まだ十五の子供です!悪気など何もなかったのです!クララは純粋に陛下をお慕いしていました。その娘の気持ちを少しでも汲んでいただければこんな事にはならなかったのに!」

そう叫びながら、後ろ手に拘束されているクララを抱きしめた。

「公爵・・・お前は何か勘違いをしていないか?」

まるで自分らが被害者であるかのように振る舞う彼等に、侮蔑のこもった幾つのもの視線が向けられる。

「その娘の年齢だとか気持ちだとか、関係あるのか?」

「そ、それは・・・・」

「十五ともなれば、貴族令嬢令息は翌年成人となる。貴族教育も受けていると思うのだがな。まぁ、私にいきなり「アル兄さま」と叫んで飛びつく程度の進み具合なのかもじれないが」

それに・・・と続ける声は、一段と低くなる。

「箝口令に対し違反したのは、お前だろ?ある意味お前の甘言に惑わされた娘も、被害者なのではないのか?」

ハッとしたように、抱きしめた娘を見た。

愛する娘の目は真っ赤で、恐怖の為か小さく震えている。

「だからと言って、やってしまった事は消えない。王妃は今も絶対安静の状態なのだから」


叔父であろうが十五の少女であろうが、彼に慈悲という言葉は無い。

何をしても、何を言ってもアルヴィンの怒りは収まる事がないのだから。

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