第3話
二人の結婚式は、共に王位譲渡に伴う戴冠式も行われた為、それはもう盛大なものとなった。
お披露目式も各国の王族が参列し、にこやかに対応する王妃に誰もが心奪われた。
そう、愛想さえあればフィオナは傾国レベルなのだから。
フィオナは早めにお披露目式から中座し、初夜の準備へと向かう。
侍女達から磨かれ揉まれ、ツルピカに仕上げられ、少し透明感のある寝間着を着せられた。
準備が終わりマリア以外の侍女達が寝室から出ていったのを確認してからフィオナは、うすっぺらなそれを脱ぎ捨て、普段仕様ではあるがちょっと高級な寝間着に着替えた。
「何であの男を、こんないかにもな格好で出迎えないといけないのよ!」
肌を隠す機能すらないそれをクローゼットの中に投げ込み、ソファーに座り不機嫌全開で林檎の果実酒をあおる。
「全くですわね。あんなクズ男はお嬢様に相応しくありませんわ」
本日、国王になったアルヴィンに対し、二人しか居ないとはいえ堂々と『クズ』呼ばわりする侍女マリア。
それを咎めるわけでもなく「全くよね!」と相槌を打つフィオナ。正に似た者同士である。
ローレン公爵邸で働く使用人達は皆、フィオナの性格を熟知しており、邸内では自由にさせていた。
よって、一番近しいマリアに至っては、口調までフィオナに似てきて、時折、フィオナが二人いるのではと思う時がある。
「お嬢様、無理して初夜を迎える事は無いのでは?お断りすればいいですよ」
庭での会話を思い出したのか、マリアは苦々しい表情でフィオナに進言するも、彼女は溜息を吐きながら首を緩く振った。
「正直、結婚すること自体嫌だわよ。でも、世継ぎ産まないと離縁してくれないんなら、嫌なことは先に済ませた方が良いじゃない?」
「確かに・・・でも、どうするんですか?」
「私に良い考えがあるのよ。何のためにアレを用意してもらったと思ってるのよ」
「お嬢様・・・お可哀想ですわ。政略結婚とはいえ、初夜は誰もがロマンチックなものに憧れるというのに・・・あの男、本当ムカつくっ!―――・・・まぁ、お嬢様が決めたのであれば、全てがうまくいくように、ご武運を祈っておりますわ」
「ありがとう」
まるで戦場かどこかに行くような会話をし、マリアは渋々寝室を出ていった。
フィオナだとて、ただの女だ。結婚や初夜にも多少の夢を見ていた。
だが、まさかこんな結婚をしなくてはいけないとは・・・憂鬱以外の何ものでもない。
兎に角、世継ぎを産まなくてはいけない。そうすれば、自分は開放される。
今夜の一発で妊娠出来たらいいんだけど・・・
女性に大人気のフィオナは、結構な耳年増だったりする。
初めては痛いと聞く。そして男にあちこち触られるのだと。
思わず想像してぶるりと鳥肌を立てた。
無理!あの男にあちこち触られるなんて、何の拷問よ!
其処で用意したのが、痛みが少なく処女でも比較的スムーズに初夜を迎える事が出来るという、高額だが大人気の潤滑油だ。破瓜の痛みを抑えるための媚薬が少々入っている。
それを取り敢えず、寝間着のポケットに忍ばせる。
あぁ・・・憂鬱だ・・・本当に憂鬱だ・・・気持ち悪い・・・・
フィオナは別に処女を大事にしていたわけではない。
単に機会が無かっただけで、誰かに捧げても良かったのだ。この世は、あまり処女性は重視されていないから。
ただ、王族に嫁ぐならその方が良いだろうと言うくらいで、絶対に処女でなくてはいけない事はない。
「こんなだったら、経験しといた方がスムーズに事が進めたんじゃないかしら」
そんな事を考えても、後の祭りである。ちょっとでも愛想を振りまけば、きっと男には困らなかったはずだ。
だが、媚びてまで好きでもない男が欲しいと思わなかったのだから、仕方がない。
今回の初夜は、兎に角速攻で突っ込んでもらって、速攻で出してもらおうという計画の元に、高額の潤滑油を用意した。
最小限の接触。今のフィオナの頭にはそれしかなく、初夜への緊張や不安というより、何とか一回で妊娠出来ないだろうかという願望しかない。
子供が出来るまで何度も肌を重ねなくてはならないなど、まさに嫌がらせとしか言いようがないと、数え切れないほど大きな溜息を吐くのだった。
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