第9話:権能


 アイン達と別れたセラ含む13番隊は、街の南勢を目指して走っていた。


 倒壊した家屋の屋根を駆け。

 燃ゆる木々を飛び越え。

 確かに此処にあったはず日常を越え。

 彼らは戦地を駆けていく。

 戦士として、使命のため、未だに灯る命を護るため駆けていく。

 

 街には災害を象徴する黒い靄が地面から湧き、街を覆うように漂っていた。

 彼らの耳に付けられた無線から連絡が入る。


『こちら災害対策本部、13番隊の今いる地点の近くで逃げ遅れた人が居るとのこと。周囲の確認を願う。』


 最小限の情報だけ伝え、無線は切れた。その忙しなさから、戦況の把握がまだ終わっていないことが分かる。


 無線を聞いた僕たちは咄嗟にアイコンタクトを互いに取り、今いる地点を中心として散らばる。

 一人になった僕は直前の船内でアトラ隊長が言っていた事を思い出した。


『皆いいかしら?災害が発生した街は戦場と思いなさい。いつ、どこから星壊の獣が現れる分からないから気を付けること。アークの使用は完全に個人判断で構わないわ。も使いなさい。あと、もし堕ちた人が居たら迷わず倒しなさい。・・・・・・・もし、それがでも関係ないわ。』


 パチンッ!


 気を引き締めようと頬を両手で叩く。

 熱を帯びた頬に手を当て温かさを確認して僕は


 アークを使用する。


 制服で隠れた首元が光り、身体を一瞬覆う。その光は背に一対二枚の翼を形成し、定まった。その翼に付属するかのように僕の周りを黒い立方体が三つ漂う。


「よし、行こう!」


 僕はアークの力で底上げした身体能力を活かし、先程と比べ物にならないようなスピードで捜索を再開した。


 権能。

 アークの発現と共に当事者の脳に刻まれる固有の力。そのためアークが発現すると、今まで当たり前に存在していたかのように使えるようになる。

 この力の大きな特徴はである。

 権能の真価を理解し、その力を最大限まで扱えるようになると身体と精神のトリガーにより二対四枚の翼と共に覚醒へと至る。

  そして更に上、神の領域へ昇華する権利を得ることができる。



 逃げ遅れた人を捜索しながら、僕は身体の周囲に漂う黒い立方体を視る。

 僕の権能。

 何よりも固く、柔らかく、熱く、冷たい謎の物体である、黒の箱を自由自在に形を変えて使用できることしかわかっていない。


 僕は権能の黒い立方体を薄くなるよう操り、トランポリンと似た仕組みとして扱うことで加速を行った。 既にこの辺りは遊撃隊が通ったあとなのか、異形の獣たちの姿はなく。崩壊した日常の灯が流れるように過ぎていく。

 途中足を止め、権能などを使い瓦礫の下なども捜索したが、住民の姿は見当たらなかった。


 無線が入る。

 

『こちらリューネ。逃げ遅れを見つけた。倒壊した建物の裏に十人近く。座標は今送る。』


 腕のデバイスからホログラムマップが開かれピンが立つ。僕のいる地点から遠くはない様である。

 地を蹴り、土埃をその場に残し街を駆ける。再び、権能を使い更に加速を図った。


 ――――――――――


 僕が現場に着いた時には既に、ニアとアトラ隊長が到着していた。

 ニアは僕と同じでアークを使っているようであり、権能覚醒者の証である四枚の翼を展開させ覚醒した権能による炎を使って逃げ遅れた人々の応急処置を行っていた。


 災害対策本部に連絡を終えたアトラ隊長が、逃げ遅れた人の体調を確認する。


「流石の眼ね、リューネ。お手柄よ。さぁ、彼らを中心の教会へ送り届けましょ。殿は私が行くから、リューネは先頭で眼を使って警戒を、ニアとセラはサポートして頂戴!」


「「「了解!」」」


 リューネがアークを使う。

 二枚の翼が展開し、その黒い瞳が蒼に透き通っていく。


 リューネの権能は「賢眼けんがん」、見えないものを見る眼。

 彼の出身地、旧中国地区、その中で限られた地域にて眼に関わる権能を持つ者が多い。リューネも例に漏れず眼に関する権能を得ており、彼はを持っていた。


「俺はもう行けるぞ。セラ、そんなにアークを使い続けて体力持つのか?」


「いや、行けるね。サポートなら任せて。」


「分かった。任せる。」


 セラの言葉に頷いて返す。

 一般人を置いていかないように速度を気を付けながら、街の中心を目指し移動を開始した。


 街の中心にある教会は、シェルターの役割を持っているため災害が発生した際の避難場所となっていた。災害対策本部も設置されている場所であるため、戦場となったこの街では一番安全な場所である。


 僕たちの居る場所から幸いにも協会は遠くない。

 殿にアトラ隊長がいるから星壊の獣による強襲にも対応できる。

 布陣的には何も心配はいらなかった。


「セラさん、気を張り続けると持ちませんよ。私が変わりますのでアークを解いてください。」


「ありがとう、ニア。言葉に甘えさせてもらうよ。」


 アークを解く。身体が重くなる。

 僕は大きく深呼吸して気をリセットした。


(此処でへばるわけにはいかない・・・)


 いくらアークで身体に直接的な害がないとは言え、元々の力である星壊エネルギーの影響は避けられない。そのため星壊エネルギー耐性の高さが大切なのである。

 権能の負担は新人戦士に重く、重く圧し掛かる。

 


 


 


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