第13話・・・イケメンめ_ナイトメア_同じ家・・・

 数時間前。

 学生寮、男子風呂。

「あ~、癒される~」

 力が抜けるような声を出すのは湊だ。

 どこにでもある銭湯と大差ない学生寮の男子風呂の浴槽。長い夜色の髪を女子のようにお湯に付けないよう束ねた湊は、お湯に浸かっていた。

「勇士もどう? 今日の疲れは癒された~?」

「ああ、本当に良い湯だ。疲れが取れる」

 勇士もまた、そのたくましい肉体をお湯に浸けている。湊の隣で首を反らし、気持ちよさそうだ。

 なんとなく、湊は言ってみた。

「うわ、敵を圧倒しておいて疲れてるとか嫌味? 強者の特権だね~」

「ぅぐ…そ、それでも疲れはしたんだよっ」

「圧倒したことは否定しないんだね。まあ自分で言ってたことだし、それもそうか」

「湊はどうしてそんなに性格悪いんだ?」

「おや? 今日、どこかの誰かさんに「トイレ行ってくる」と言われたきりすっかり待ちぼうけを食らっても何も言わずに勇士の安否を心配したのは誰だっけ?」

「申し訳ありませんでした!」

 即座に頭を下げる勇士。

「それにしても……、」

 湊は薄目で周囲を見回す。

 風呂は2人の貸し切りなどではなく、他にも入浴中の生徒は多数いる。勇士と紫音の活躍はよく広まっており、呑気な会話をしてる間もちらちら他の生徒達の視線を感じる。

 イケメンで強い。

 何それ。

 反則じゃん。

 イケメンめ。

 イケメンめ。

 イエメンめ。

 一緒にいる奴、本当は女じゃね?

 …そういった声が少しだが聞こえてくる。

「よくもまあ、こんな短期間で有名になれたものだな。イケメンめ」

「なぜか悪評に聞こえるのは気のせいか?」

「嫉妬だから安心しろ。男友達がほぼできなくなるくらいだから」

「全然安心できないけど!?」

「じゃあさ、」

 湊の口調、声音が少し、気付かないレベルに変わる。

 無意識に勇士の思考を誘導する。

「前に流派はないとか言ってたけど、あるんだよね?」

 声は明るいまま。

 勇士もいつもの調子のつもりでつい応える。

「まあね。…さすがに言えないよ? 企業秘密」

「分かってるよ。……なあ、よく分からないけどさ、相当な努力はしたんだよね?」

「まあ、謙虚になっても嫌味だろうから正直に言う気けど、かなり頑張ったよ」

「…それって何か目的に向かって頑張ったみたいな?」

「ッ」

 聞くと、勇士の表情が見るからに暗く、鋭いものになった。

「あ、ごめん…。さすがに踏み込み過ぎたね」

 表情をはっとさせて勇士が慌てたように頭を振る。

「いやいや、そんなことないよ。…ただそんな胸を張れる目的じゃないからさ」

「大雑把でもいいから聞いちゃだめ? どうすれば強くなれるかフォーサーの卵として興味ある」

「…………、」

 息が詰まるような間をあけて、勇士は上を見上げながら言った。


「滅ぼしたい『組織』があるんだ」


「…組織?」

「ああ。その『組織』が…まあ、凄く強くてね。俺は今以上に強くならなきゃいけないんだ」

「……へー」

(…死んだお母さんと関係あるのかな?)

 などということを考えながら、湊は首を傾げる。

「その『組織』ってどこ?」

 素直に聞く湊。

 別に構わないだろう。

 湊は当然、どこかの裏組織だと思っており、それを聞くことに大した問題はないはずだ。

 お母さんが関係してる? などと原因は迂闊に聞けないが。

 だから、勇士の反応は少々予想外だった。

「えっと…それも企業秘密ということで」

 影のある苦笑を浮かべる勇士に、湊は再度首を傾げた。

「…いやまあ、ダメなら聞かないけど…。勇士って謎多いな」

 妙な空気を察し、湊は最後の一文、また声音を少し変えて微弱シリアスムードを終了させた。

 勇士は明るい苦笑を浮かべ、最後の一文にのみ反応する。

「そうかな? 謎…まあそうだな。でもいずれ言う時は来ると思うよ」

「じゃあ、その時を待たせて頂きますか」 


(なぜ隠す? それほどの信頼がまだないから? その『組織』が過去に大事件を起こしていて、名を言うだけで大事件の被害者かその遺族だと思われるのを防ぐため? …情報が少なすぎるな)

 湯船に肩まで浸かりながら、幸せそうな表情の湊は不釣り合いな思考を続けていた。



 ■ ■ ■



 現在。

 夜空の下。建物の屋上。

 月と街の僅かな明かりで十分に照らされた屋上では数十メートルの距離を隔てて2人と2人が向かい合っている。

 勇士と少し離れたところに琉花。

 カキツバタと新たに現れた仮面の男。

 琉花は新手の『聖』隊員を凝視しながら、ごくりと喉をならす。

(……身長は低い…学生と言われても通じそう…。……でも、あいつ…今、結界が解けてすぐに来た…。勇士の『炎瓦壁』は外からは破られやすいけど、それ以前に半径数百メートルを覆う広範囲結界よ? その距離を一瞬で詰めたっていうの? ……速過ぎる…勇士と同等か…それ以上…)

 

 勇士は戦闘服に付いた埃も払おうともせず、屋上へ転倒して下がった高度を歩空法フロート・アーツで上げ、『2人』を見下げる形となる。

「コードネームを言え」

「…そっちの所属は? それが条件だよね?」


 独立策動部隊『聖』は正規組織ではあるが、その機密性は国内組織の中でもトップクラス。

 総指揮官を務める西園寺瑠璃以外の隊員に関するプロフィールは全く公開されていない。素顔やコードネームが判明している者は数人いるが、その正体までは掴めていない。全員。

 だが、その機密性に不満の声が上がった。

 世には機密に徹した組織も必要だが、信頼性が薄過ぎる、と。

 だが西園寺瑠璃も譲歩する気は更々無く、そうして結ばれた条約の1つが、「相手の所属を聞いた場合のみ、コードネームを正直に名乗ること」。

『聖』は多くの組織の中でも特別に情報の重みが違う。

 コードネームすら時と場合により偽り、欺くことも考えると『フォーサー協会』の重鎮は考え、素性はともかくとして、コードネームぐらいは名乗るべきだと進言したのだ。

 証明する手段など皆無に等しいが、条約違反が発覚すれば信用を失うことになる。


 勇士は己の二刀を斜めに広げる。見せびらかすように。

「俺の二刀とジェネリック、剣技を見れば分かるだろう。少なくともそっちの女は分かったはずだ。……わざわざお前ら如きに名乗らせるな」

(うわ、俺の知ってる勇士とは別人なんですけど……)

 ギリギリだが筋は通ってるかもしれない。もちろん『それ』が演技という可能性もあるが、クロッカスはそうでないと言える確信がある。

「早く名乗れ」

(はいはい)

 仮面の男は勇士と同じ高度まで上がり、仮面に手を当て、ぺりっとテープのようなものを剥し、名乗った。


「クロッカス。それが俺のコードネームだ」


 瞳に映ったのはカキツバタとはまた違った紫色の仮面。

 勇士、琉花の全身が凍り付く。精神的、物理的に体温が下がったのは間違いない。 琉花は口を震わせながら。

(うそッ…。いやでも、確かに言われてた仮面模様や背丈の特徴と合致する……けど、え?)

 目を見開き、やっと頭で理解する。

(『聖』の隊長が…………なんで、こんなところに……?)


「ハハハ」


 そこに、1人の男の笑い声が聞こえた。

 言うまでもなく、勇士だ。

「今日はついてるな……。まさか隊長格と会えるとは…」

「勇士…」

 喜んでいる。

 メラメラと燃える刀の炎がその高揚を表しているようだ。

 そこにドライな声が割り込んだ。

「なあ、色々と言いたいことはあるんだが、何をそんなに怒ってるんだ?」

「答える義務はない。……それと、そっちのお前は?」

 クロッカスの背後に立つカキツバタに目線が行く。したり顔が鼻につきながら、返答した。

「カキツバタです。ごめんね、隊長ほどのビッグネームじゃなくて」

 カキツバタの頭にクロッカスの拳が落とされる。余計なことを言うな、ということだろう。

 勇士はクロッカスを好戦的な眼で真っすぐに見詰めながら。

「カキツバタ、お前との闘いは後回しだ。……最上級の獲物が手に入った」

(……この男、隊長に勝てる気でいるの? ……バカなの?)

 カキツバタはそんなことを思った。

 

 クロッカスは仮面の裏で溜息をつく。

(えーと、状況を整理すると………とにかく勇士が『聖』を恨んでるってことだな。俺らと一緒で『玄牙』の調査か何かで来たんだろうが、カキツバタを発見して怒りに任せて襲撃。…その『玄牙』もとっくに殲滅。…ほんと面倒なことになってるねー)

「隊長、どうします?」

 カキツバタの質問に、クロッカスは簡潔に答えた。

「逃げる」

「ですよね」

「……でも、」


 紅華鬼燐流・七式『炎瓦壁』!


 突如、ここら一帯が再び炎の結界に覆われる。

「そう簡単には逃がさないか」

「結界張る時間ぐらいはありましたからね」

 そこへ。

「お喋りとは舐められたものだな!」

 真上から勇士が斬り込んで来ていた。

 クロッカスとカキツバタは横へ跳んで楽に躱す。

(縦横無尽に炎で覆う『炎瓦壁』。いくつかのビルの屋上を巻き込む形で覆われてるけど、ビルに損傷がないことからちゃんとコントロールはできてるみたいだな。…この結界を中から解くこと自体はさほど難しくない。けど解くのに時間はかかる。俺なら瞬殺だけど……、俺の司力フォースは見せたくない。ついでに風宮の動向も気になる)

「逃げるだけか!」

 勇士は『聖』の2人の内、クロッカスの方へ迷わず進む。

 クロッカスは繰り出される炎の剣戟を加速法アクセル・アーツ防硬法ハード・アーツのみで躱しながら、仮面に取り付けられた通信機に小声で囁き、カキツバタに伝える。

「(カキツ、勇士とついでに風宮も俺がしばらく相手するからその間に結界を解きに行って。2,3分もあればできるでしょ)」

「(邪魔が入らなければ無理ではないですけど、この子を気絶させれば結界なんてすぐ解けますよ? 隊長なら簡単じゃないですか?)」

 結界法サークル・アーツを解く方法の1つが、発動者を気絶させることだ。

 でも。

「(…せっかくの機会だし、俺の友達がどんな奴なのか、確かめてみるよ)」

「(分かりました)」

「(結界内には俺達しかいない。『外』にまた俺の『友達』がいるから、念のため注意は払っとけ)」

「(了解ですっ)」

 言うと、カキツバタは勇士達に背を向けて結界解除へと向かう。

(さて、俺は……ジェネリックがばれないこと、湊としてこれから勇士に見せることになる戦闘スタイルと被らないようにすること、必要最低限の会話を心がけること、くらいかな)


 勇士は中空で剣戟を繰り出しながら、それを視認した。

(…やはり結界を解きに来たか。クロッカスが俺を足止めするつもりのようだが…、まるで相手をするつもりはないらしい。……だったら、)

 勇士は跳んで後退し、カキツバタの追撃に掛かる。

 クロッカスも、自分に向かってくる攻撃はともかく仲間への攻撃は見過ごせない。

(ほら、掛かって来いよ。クロッカス!)


(俺に背を向けるとか、そっちの方が舐めてるんじゃないの? 勇士)


 一瞬。

「ガハッ!?」

 ほんの一瞬、クロッカスを視界から外した瞬間に勇士の背中へ激痛が走った。

 視界からは外したが、決して警戒は怠ってはいなかった。

 それなのに、視界から外してコンマ1秒もしない間に、それを隙と見なされて背中にクロッカスの膝がめり込む。

(隊長の称号はお飾りじゃないみたいだなッ)

 勇士は再び屋上へ叩き付けられる。

 勇士が即座に跳び起きると、クロッカスも同じ屋上に降り立った。

「なあ、聞かせてもらえないか? 俺達に一体どんな恨みがある?」

 これぐらいの質問は大丈夫だろう。

 頭に血が上るからな。

「聞いてどうする! お前たちの溜飲が下がるだけだろ!」

(紅華鬼燐流・四式『烈翔華れっしょうか』!)

 振り下ろす勇士の二刀の峰から火が噴き出し、ブーストの要領で威力を増す。

 クロッカスは向かって左横に躱す。が。

(五式『俊天華』!)

 左腕の筋肉の強弱、収縮を操り、軌道が左横に変わる。円を描く流れるような動作ではなく、垂直に力技で。

「『一面いちめん結界けっかい』」

 だが、その剣戟は防がれた。

「ッ!?」

 剣戟を防いだのはスモークガラスのような、一辺1メートルぐらいの壁だった。

 知らない技ではない。

 結界法サークル・アーツ

 この法技スキルは、数分掛けて己のエナジーと大気中のエナジーを組み合わせて空間そのものに干渉し、一定範囲の空間を固定、そして囲う上級技術。

 結界の中と外ではほぼ別世界となり、お互いに見ることもできなければ電波なども通じない。

 スケールが大きく、狭い範囲だと逆に扱いにくいことで有名だ。

(『一面結界』……空間干渉、空間固定で結界の壁を一面のみ出現させる結界法サークル・アーツの応用技。…本来は数分掛けて張り、炸裂系や強化系などによる大技を防ぐ場合に用いる…。それを、こんな一瞬の内にそんな狭い範囲で…。少なくとも俺は使えない…)

 勇士は一瞬で分析と悔しくも感嘆し、剣戟を再開する。

 だがそれらも『一面結界』でほとんど防がれてしまう。



 凄い。

 琉花は素直にそう思った。

 カキツバタも自分なんかとは桁外れだったが、全く実力を見せていないクロッカスはどう見ても勇士を相手にしても余裕だ。

 加速法アクセル・アーツで簡単に躱せるであろう攻撃もわざわざ『一面結界』で防いでいる。

 数分掛かる技を使って、防いでいる。

(これが…)

 第四策動隊隊長・クロッカス。

 背丈は低いが『20代前半の大人』であることは『既に証明されている』。

 過去に何度かの戦闘経歴があり、彼によって潰された裏組織もあるというのに、その組織構成員はクロッカスの司力フォースどころかジェネリック、武器すら分からないという。

 暗闇の中、静かに、ゆっくりと、敵も気付かぬ内に倒すことから、付いた異名が。



「『幽闇の夜叉ナイトメア』、そう呼ばれていたな!」

 勇士の炎の二刀が『一面結界』と鍔迫り合いするようにしながら叫ぶ。

(……そう言えばそんな呼ばれ方もしてたっけ)

 そんなことを考えていると、クロッカスの『一面結界』がパリンと、破られた。

(そりゃ、そうくるよな)


 乱流法クランブル・アーツ

 対結界用法技スキルとも言われている。

 結界の一部のエナジーの流れを乱す。結界法サークル・アーツとは逆で、緻密なエナジー操作はさほど必要ではない。むしろ雑なほどいい。空間への干渉は結界に触れさえすれば、A級フォーサーの結界をD級フォーサーが破ることも可能だ。

 結界は一部の流れを乱せば連鎖反応で結界全てが崩壊する。

 問題は時間が掛かること。

 今もカキツバタが解くまでの時間稼ぎをクロッカスがしているところだ。


(『一面結界』は結界法サークル・アーツに劣るからな)

 勇士は二刀の炎に乱流法クランブル・アーツを施し、『一面結界』を斬っていく。クロッカスは再び加速法アクセル・アーツで躱す回数が増えていく。

「その程度か!」

「一つ、いいか?」

 剣戟を躱しの最中、クロッカスの声がいやに響く。

 勇士は不快さを隠せず、否定の返事をしようとしたところでクロッカスの口が開いた。


「君の恨みの原因って、親?」


「ッッ!?」

 剣のスピードが鈍る。

「あ、当たった? ベタなところを上げてみたんだけど」

「死ねエエエエェェェェェェェェェェェ!」

(悪いな、勇士)

 勇士の交差斬りをクロッカスは躱す。だが勇士にはそのお躱した瞬間すら見えなかった。

 消えた。

 あまりの速さにそう見えたのだ。


「どこだ!」

「上」


「!?」

 勇士は振り向かず、ただ頭上でに二刀を交差させ、

(紅華鬼燐流・三式『十字炎瓦じゅうじえんが』!)

 炎が苛烈に燃え盛る。

 交差した二刀を軸に横へ広がり、防御を固める。

 しかし。


(そんなのじゃあ無理だよ。勇士)


 単純に。

 防硬法ハード・アーツのレベルを数段階上げただけのかかと落し。

 炎なぞものともせず、刀ごと勇士の脳天に直撃した。

「ッッ」

 声すら出せず、勇士は朦朧とする意識の中、落下してゆく。

 二刀も炎は散るように消え、手放されている。

「勇士!」

 ずっと見ていた琉花が、頭から屋上へ落ちる勇士を体でぶつかるようにして受け止める。

「勇士! 大丈夫!?」

「……っ」

 どう見ても大丈夫ではない。

 頭から血を流し、重症ではないが脳が揺れて立つことも喋ることもできないだろう。視覚と聴覚が働いているのかも怪しい。

 その時、『炎瓦壁』が崩れた。

 意識が朦朧とすれば結界も維持しにくくなるが、これはカキツバタの仕業だろう。


「そこの女」


 クロッカスが中空に佇んだまま琉花に仮面を向ける。

「っっ!」

 直接名前を呼ばれたわけではないが、琉花を呼んだことを明白であり、背筋が凍ってしまう。

 屋上で勇士を抱きかかえた琉花に、クロッカスは見下ろす形で尋ねた。

「紅井勇士の恨みについて、聞いてもいいか?」

 琉花は乾燥した唇を震わせる。

 名前を知っていたことは不思議ではない。『聖』も『玄牙』のことで来たのなら、昼間にビライと交戦した勇士のことを知っていてもおかしくない。

 心を凍らせたのはその無機質なトーン。

 変声器を使っている所為か、謝罪の気持ちというより純粋に気になることを聞いているように思える。

 法的な面のみを見れば悪いのは琉花たちだ。感情面でいくら自分を正当化しても意味はない。

 要求を断れる身ではないことは分かっているが、それでも、これだけは譲れない。

「も、申し訳ありません……。どうか…ご容赦を…」

 こうべを垂れ、震えた声で言う琉花。

(プライド高そうな風宮がここまでね…)

「分かった。深くは聞かない。本当にこちらに非があるなら明確にしたいが、被害者側がそう言うなら保留とする」

「…ありがとうございます」

 それだけ言うと、クロッカスは空中で踵を返し、目にも映らぬ速さで駆けて消えた。


「………え」

 琉花は少し拍子抜けしていた。

 もっと問い詰められるものかと思っていたが、予想に反してあっさり解放してくれたことに動揺を隠せないでいる。

 視線を落とし、腕の中で意識がはっきりしていない勇士を眺める。

「………もう」

 場違いだと分かっていても、頬を赤らめてしまう自分がなさけない。



 ※ ※ ※



「隊長、せっかくできた友達と敵としてぶつかった気持ちはどうですか?」

「さあ。多分母親が関係してるんだろうけど、『あの家』とどう絡んでくるかはさっぱりだしな」

「瑠璃様なら知ってるんですかね」

「『あの家』絡みだと俺達第四隊にはあまり関係無さそうだしな。あるとすれば第六隊だろ」

「え~、私は逆に第六隊以外かなーって思うんですけど」

「そういう考え方もあるな。今は何とも言えないよ」


「でも驚きましたよ。フリージア隊長と同じ剣技が見れるなんて」


「まあ、『同じ家』出身だしな」


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