生死を分かつ者
94話 神鏡
ドウゲンとの戦いから一週間が経った。
双翼とも言えるシオンとドウゲンを討ち取った事で諸国の反オヅマの動きは大きくなり、協力を宣言する国も増えてきた。
だが人が増えればそれだけ問題も多くなり、戦いの後の為に自らの立場を上にしようとする者達も当然出てくる。
そう言った者達への対応や連携を少しでも良くするのにはどれだけ急いでも時間が掛かる。不安要素は出来るだけ排除しておきたいが時間が味方するのは黄泉兵を使うオヅマ……ムドウの方だ。
(ドウゲンとの戦いで現れた飛空兵、あれがまた……いや、また別の魔物達を呼び出していると想定しておかなければならないか)
城の中を歩きながら考える。アリア達にも色々動き回ってもらっており、俺も今しがた指揮権を求めてきた相手との交渉を終えたところであった。
“シオンとドウゲンを倒したのはどの国だ?”
“そ、それはゴモンです”
“ではその間に貴国は何をしていた?”
“え、えっと……”
“……武功が欲しいなら次の戦で最前線に出しても構わないが? 無論貴方には陣頭指揮を取ってもらうが……仮に敵前逃亡すればどうなるか言わずとも分かるでしょう?”
些か殺気を放ちながら聞くと相手は謝罪と共にすごすごと帰っていった。密偵を付ける様に指示を出しておいたが思わずため息が出る。
(兄貴はずっとこんなのをやってたのか)
組織の規模は大きくなればなるほど個々の思惑や欲望が複雑に絡み合い統制を取るのは難しくなっていく。頭では分かっていたが自分がその立場になるとその大変さが良く分かる。
これを事も無げにやって更には魔術の研究といった自分を高める事に余念がない兄貴の規格外さを改めて思い知った。
(だがまぁ……ようやく足並みは揃ってきた)
軍の調練もシオンの配下だったヒルコとフドウが加わった事で順調に進んでいる。物資に関しても協力する国が増えた事で余裕が出てきた。
(後は……)
頭の中で思考をまとめながら奥の部屋に辿り着く。物音を立てない様に戸を開けると正座したヒノワがカムツヒを前に祈りを捧げていた。
「ベルクさん」
俺の気配を感じ取ったのかヒノワが振り返りながら声を掛けてきた。傍まで行くとどことなく緊張していた様で額には汗が浮いていた。
「邪魔をしたか?」
「いえ、良ければ傍にいて貰えないでしょうか? これからカムツヒと語り合うと思うと強張ってしまって……」
俺は頷いて答えるとヒノワは微笑んだ後に息を吐いて表情を引き締める。精緻な装飾が施された筆で宙をなぞると光で字が書かれていく。
「ふっ!」
宙に書かれた呪文が円を描いてカムツヒを囲う。カムツヒから光が放たれて部屋中を照らしていく。
やがて光は集束していき、ひとつの姿を形作っていった。
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