92話 因縁のすぐそばまで


 城に戻ってドウゲンを討ち取った事を伝えると城内から大歓声が沸き上がった。ライゴウはアメリが無茶をした事や戦士として成長したり等で複雑ながらも涙を流して喜んでいた。


 この事は早急に諸国に伝わる様にすると宴が開かれた。来た頃と比べると兵士達の顔には明るさがあり未来への希望が見えていた。


 シオンとドウゲンというオヅマの双翼を倒した事で自分達の未来を信じられる様になったのだろう。見え隠れしていた悲壮さ等といったものは大分薄らいでいた。


 俺とラクルは少し離れた席からその様子を見ながら飲んでいた。


「改めて言うが助かった。早い段階でドウゲンを討ち取れたのはラクルのお陰だ」


「いいさ、それにドウゲンを討てたのはセルクがアメリを気に掛ける様に言ったからこそだ」


 ラクルはそう言って盃を傾ける、そして一呼吸置いて聞いてきた。


「それで、どこまで読み通りだったんだ?」


「……読んでた訳じゃない、本来ドウゲンは俺が討とうと思っていたからな。ただアメリが動く事を想定していたのとラクルなら足りないものを埋めれると考えたんだ」


「足りないもの……か」


「アメリは怒りのあまり守る事を失念していた。言葉で気付けたとしても一度見失ったものを取り戻すのも宿った怒りを消すのも一筋縄ではいかない」


 俺の言葉にラクルは頷いて同意する。剣だけでなく様々な分野で言えるが一度見失ったものは時として見つける事すら困難になる。


「俺だと気付かせる事は出来ても見つけさせる事は出来ない。クノウの技を使えても俺のはどこまでいっても倒す戦い方だ」


「それで俺にという訳か」


「ああ……俺達の中で一番守る戦いが巧いのはお前だからな」


「信頼は嬉しいがそれでも今回は厳しい戦いだった。アメリがあのままだったら負けてたかも知れない」


「負ける筈がないだろ。お前の戦いを見て守る強さが分からない奴なんかいない」


 俺の断言にラクルは一瞬呆けた顔をするがすぐに笑って盃を煽る。らしくない事を言ったのと近づいてくる気配を感じて立ち上がった。


「すまんが先に休む。後はゆっくりしてくれ」


 返事も聞かずに歩くと角に隠れていたアメリと目が合う。ラクルを示すと頭を下げて向かった。


(流石にこれは読めなかったな……)


 まぁ、これに関しては二人の問題だから口出しする事でもない。そう判断して月明かりに照らされながら思案に耽る。


(後は……攻めるだけか)

     

 これで対オヅマ連合は本格的に動ける。後は俺達がオヅマに向かって黄泉の門を封印するという段階まで来た。


 母さんの祖先を考えると因縁じみたものがオヅマにはあるのかも知れない。それでもここまで来たら進むしかない。


 そう決めて部屋に戻った瞬間に手を引かれて押し倒される。既に敷かれていた布団の上に横になった俺にそれは跨がってきた。


「ようやく落ち着いたのう、今夜は寝かさぬぞ?」


 ルスクディーテが瞳を妖しく光らせながら裸身を露にする。結局その日は合流したアリア達と朝まで過ごした。

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