受け継ぎ託されるもの

60話 決戦に備えて


 シオンとの戦いから十日後……俺はヒノワにカムツヒを使える様になってもらう為に訓練を施していた。


 「く……うぅ……はぁはぁ」


 ヒノワは汗を浮かべて膝をつく、その手に握られていたカムツヒがヒノワを映していた。


 「……今回はここまでだ」


 「ま、待ってください、まだ……」


 そう声を掛けるとヒノワは顔を上げて立ち上がるが俺は首を横に振って制した。


 「これ以上やってもカムツヒと通じれる可能性は低い、別のアプローチを考えた方が良いだろう」


 ヒノワを縁側に座らせて水筒を渡す、ヒノワが休み休み水を飲むのを見ながら先の事を考えた。


 伝承やアリア達から聞いた話だとカムツヒは武器というよりも魔術師が使う杖や魔道書としての側面が強い、実際ヒノワの術の威力を増幅して使う事は出来ているから後はヒノワとカムツヒの意志疎通が課題だ。


 本来ならツクヨの担い手であるアマネの方が適任なのだろうが彼女は隣国との交渉に向かっている。その間は俺やアリア達で手解きしているが芳しい結果は得られていなかった。


 (俺達はレアドロップ……神器側から選ばれたようなものだからな、ラクルも先代ガンザからザンマに関して色々教えてもらったと言っていたがそれが担い手としての下地に必要だったのかも知れないな)


 改めて考えると俺がカオスクルセイダーやハイエンドの力を手にしたのは幾多もの幸運が重なった奇跡のようなものだったのだと思い知る。レアドロップの力を引き出す事は容易ではないのだと今更ながらに実感した。


 (だがヒノワには頑張ってもらわないとならない……)


 黄泉の門を封印するには三種の神器が必要だ、状況を考えると一ヶ月以内にはヒノワにカムツヒの担い手になってもらわないとならない。


 「ベルク、ヒノワさん」


 考え事をしているとセレナが声を掛けてきた。セレナの手には各国の状況や交渉の記録を記した紙束があった。


「アマネ様が戻られました。話があるとの事です」






―――――


 アリア達と合流して部屋に入るとアマネが迎え入れる、お互いに労いの挨拶を済ませると交渉の結果を話した。


 「隣国のロウカクとアズミヤは同盟を結んでくれました。他の国も表立って動きはしませんが兵糧や物資を商人を通じて密かに送っていただける約束を取り付けてあります」


 「順調な様ですね」


 「ええ、後は準備を整えるだけです」


 「その準備に関してですが……カムツヒに関する資料はあれで全てでしょうか?」


 ゴモンで保管されていた資料には全て目を通したがカムツヒの存在や能力等に関する記述はあっても担い手等の記述はないに等しかった。


 それ故にカムツヒとの意志疎通は手探りの状態となっており、今は僅かでも良いからカムツヒが担い手に求めるものの手がかりが欲しかった。


 「申し訳ありません、カムツヒを含め神器に関する資料は書庫にあるものが全てとなります。隣国も神器の存在は知っていても神器を記述したものとなると望みは薄いかと」


 「そうですか……」


 ヒヅチは神器が現存するのは片手で数える程度しかないらしく神器に関する資料もゴモンが一番豊富と言える状況らしい。


 考えてみればグルシオ大陸でもレアドロップは伝説と化してお伽噺の類とされていた。帝国のように実存でもしていない限りは調べたり資料を残しようもないだろう。


 「他にとなると……あ」


 アマネがふと思い出したかの様な顔をするがすぐに頭を振る、その様子が気になり問い掛けた。


 「他に心当たりがあるのですか?」


 「心当たり……というよりもあったかも知れないものでもう残っていないかも知れません」


 「構いません、教えていただけないでしょうか」


俺が聞くとアマネは目を瞑って沈黙する。僅かな静寂の後に静かに話し始めた。


 「カムツヒに関する資料が当家よりもあったであろう場所があります。ですがそこは既に滅び今は生きる者が近寄れる場所ではありません」


 「近寄れない?」


 「……ヒジマの里、かつてカムツヒとザンマを守る為に秘されていた村ですが今は毒の地となって近づく事すらできなくなっています」

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