38話 懸念(シオンside)
「被害はどうだ?」
兵達の逗留が可能な城まで着いてから被害状況を確認していたゼンに問う。
「死者はおよそ二千、負傷者は軽重問わず三千ほど……内半分は鬼が要因となったと思われます。」
「半分はゴモンと黒嵐が原因か」
顎に手を添えながら考える、鬼の横槍が入らなければあのままゴモン軍をすり潰せていた筈だが……。
「いや、鬼の可能性を考えなかった俺の落ち度か」
「それは無茶と言うものでしょう、シオン様」
俺の呟きに答えながらヒルコとフドウが顔を出す、軍義室に四人が集まるとヒルコは気だるげな声で続けた。
「鬼なんて戦があってもしばらく出てこなかったんです、とうに死んだと言われてたのが首を突っ込んでくるのを予想するなんて誰も出来ませんよ」
「確かにな……それで、黒嵐騎士の配下達と戦ってどうだった?」
俺が二人に問うとヒルコはため息を、フドウは身動ぎせず答えた。
「強いですね、私が抑えられたのは戦い方と武器の相性が良かったからでしょう……また戦ったとしても勝つのは難しそうです」
「戦場での経験は浅い、だがそれを補って余りある力と強さを持っておりました……しかしご命令とあらば次は斬ってみせましょう」
「ふむ……」
オヅマでも屈指の武人であるこの二人にそう言わしめるとは……この二人を本陣近くに配置させていたのは正解だった。
「ゼン、負傷者は本国に帰らせろ。重傷者はここで治療し移動できる様になってからだ。」
「承知しました」
「ヒルコ、フドウ、軍の再編は今からどのくらい掛かる?」
「物資や兵糧、それに兵達の体力を考えますと三日は欲しいところですな」
「鬼が現れた事によって竦んだ兵達の心を落ち着かせる必要もあります、それくらいが妥当かと」
「そうか」
負傷者を連れていかぬ以上こちらは一万、対してゴモンも全員無事とはいかぬだろうが戦えないというほどではないだろう。
鬼によって痛み分けといった形で終わったが結果と状況だけを見ればこちらの負けと言えるだろう。
(奴はそう思わんだろうがな)
ベルク……人を死兵にする煽動力に加えあの場に現れた鬼を利用してこちらを掻き乱す事を実行した機転、更には介者部隊をものともしない実力。
なにより鬼は脇目も振らずあの男を狙った、それはあの戦場で鬼を呼ぶほどの力を有していたからだ。
……それだけの存在をあの場で仕留められなかった。
「しくじったな」
あの男は俺と同じだ、どれだけ恥辱や屈辱を味わおうと生き残る為の……勝つ為の思考と行動を止めない類の男だ。
今回は経験の差で奴の思惑を上回った、だが奴は生き残り戦での敗北を知った。
敗北は何よりも勝る経験だ……俺は奴に更に強くなるきっかけを与えてしまったかも知れん……。
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