29話 身を焦がす者
(オヅマside)
天堂城の一角、兵達の鍛練場として使われる場所で介者と呼ばれる鎧武者達が怒号を響かせながら打ち合っている者達もいれば隊列を揃えて行進の練習をしていた。その気迫と練度から素人目から見ても彼等が優れた兵だと分かる。
鍛練場に建てられた道場のひとつ、そこに兵達と同じ様に鎧を纏って鍛練を行う男がいた。
男の手には金の龍と赤い鳳の二振りの刀が握られていた、内に宿る力を抑えられぬとでも言うかの如く刀からは火花が散る。
無心に刀を振るっていた男はピタリと動きを止める、その後ろに法衣を纏った者が頭を垂れていた。
「鍛練の途中に申し訳ありません」
「良い、ゴモンへの出陣の事であろう?」
「仰る通りでございます、大殿より傘下全てを率いて向かえとの事です」
「ふむ、相手はどんな者達だゼン」
ゼンと呼ばれた男が現段階で分かっている事を話す、中にはムドウの式神が得たものもあり、それを聞いた男は興味深いとでも言う様に笑みを浮かべた。
「そうか、あの噂に聞いた最強と呼ばれる男がゴモンについたか……」
「情報を集めていますが私は半信半疑です、集まった逸話が逸話なものですから」
曰く、一国を滅ぼす厄災を一人で祓った。
曰く、兵も民も問わず戦わせて劣勢を覆した。
曰く、世界を滅ぼそうとした魔神を殺した。
曰く、魔大陸から世界を変える叡智を持ち帰った。
外から得た情報はどれも信じがたいものばかりだとゼンは語る。
「お前がそういうのも無理はない……が、ベルクという男が五千の兵を打ち破り、城ふたつを陥落させたのは疑いようのない事実だ」
男はベルクの戦い方に感心しながら答える、長年オヅマの将として戦ってきたシオンからしてもベルクの戦いぶりは見事と言えた。
「手強いな、相手に取って不足はない」
そう言いながらも男は笑みを浮かべたまま刀を鞘に納めた。
「全軍に通達しろ、準備が整い次第出陣するとな」
男の名はシオン=フワ、双刀“
―――――
(ベルクside)
西水城を落とした翌日の夜、俺は西水城から少し離れた高台から周囲を見渡しながら考えていた。
イルマから聞いた情報によると次に攻めてくる可能性が高いのは闘将シオンと傘下の将兵との事だ。
……こっちの兵力はイルマが加わり七千弱、対して向こうはヒヅチでもその名が知れ渡る精鋭一万五千、更にその精鋭を率いるシオンはヒヅチ最強の武人と称される男だという。
(……これまでの様にこちらに被害がないままという訳にはいかないな)
今はイルマやゴモンが既に掴んでいた情報を元に対策や工作を進めているがそれが兵力差をどこまで埋められるか分からない。
(最悪の場合は“軍勢”を使うしかないが……)
カオスクルセイダーの軍勢は消耗が激しい上に人との戦いでは本来の力を発揮できない、軍勢が本領を発揮できるのは人ならざる者……今回なら黄泉兵達になる。
あくまでも人を守る力であるカオスクルセイダーの軍勢をシオンの軍に使う事になるとしてもイル・イーターの時より応えてくれる魂は少ないだろう。
「まあ、やるしかないか」
本来の力を使えないのは軍勢だけでそれ以外は使える、それにアリア達やヒノワと共に戦ってくれる者達もいる。
なら勝つ為にやれる事をやるだけだ。
「……それで、何の用だ?」
振り返らず背後の木々に向けて声を掛ける、すると気配を殺して隠れていたアメリが姿を現した。
「……聞きたい事があります」
アメリは激しい感情を宿した眼で俺を見ながら問い掛ける。
「貴方が黄泉兵に使った技……あれは間違いなく父様が編み出した“
月光の下で互いの視線を絡み合わせながらアメリは抑えられない疑問を口にした。
「どうして……貴方が父様の技を知っているのですか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます