3:ミリア・ウェルド

「勇者様!貴方が勇者様?」

「え、ええ・・・そうよ。アリア・イレイス。神の信託を受けて勇者の任をうけ」

「きゃー!本当に勇者様!私とあまり年齢は変わらないみたいですね!」

「そう、みたいね」


テンションが高いミリアに振り回されつつ、心の中で彼女と巡り会えたことにガッツポーズをしておく


改めて彼女のことを振り返っておこう

ミリア・ウェルド

この水上都市にある教会に務める修道女

勇者パーティーに加わった際は、僧侶として同行してくれる

元々アリア・・・というよりは、伝説の勇者の物語が大好きのようで

自ら勇者パーティー入りを志願したそうだ


「ところで、貴方は?」

「あ、申し遅れました!私、ミリア・ウェルドと申します!この教会で修道女をしています!好きなものは「伝説の勇者様」で、嫌いなものは魔法の訓練です!」


もちろん彼女は勇者が大好き

勇者の言うことは絶対という少しどころか、かなり盲目的なところが心配になるところもある

だからこそ、物語アリアの行動に何も疑問は抱かないし、咎めることもない

むしろ彼女と共にノワをいびっていたぐらいだ

勇者が言うことは絶対。勇者がすることは絶対

その理念に従うように、彼女もまたノワの追放に一役買ってくれる


彼女の加入は今後の為に必要だ

私一人だけでは、ノワを追放するのに押しが足りない

そんな中、彼女がいてくれたらどんなに心強いか!


「・・・魔法の訓練が嫌いだぁ?」

「・・・苦手なだけですもの。攻撃魔法」


しかし、彼女がそれを邪魔してくる

自分の追放だけじゃなく、他のメンバーのパーティー入りまで拒絶しているノワ

早速行動に出るのはわかっている話だ


高圧的なノワの態度に、ミリアが訝しんだところに割って入り、二人で話を進めていく

まずはノワを蚊帳の外に出さなければ

話が進まないというか、彼女の勧誘すらできやしない


「ミリア。貴方は攻撃魔法以外なら使えるのかしら?」

「ええ。回復魔法に限れば都市一番の使い手です!勇者様、どうですか?今なら私、お買い得ですよ!」

「よし、か」

「ステイ、アリア」


買うわ、と言う前にノワから口を塞がれる

息がしにくいので、必死に暴れて彼女の拘束から抜け出す


「ぷぺっ!何するのよ!」

「・・・このやけに距離が近い女をパーティーに入れるの?」

「入れるわよ」

「攻撃魔法が使えない人間を?」

「ええ」

「回復魔法しか使えない人間を?」

「ええ。もちろんよ。彼女も了承してくれているし」


「私、両方できるよ?」

「知っているわよ。知っていてやっているんだから!」

「ならもうちょっとパーティーメンバーの編成ぐらい考えて?」

「貴方がいなくなっても大丈夫なよう、編成ぐらいちゃんと考えているわよ?」

「ちゃんと考えていたら、私以外いらない結論にたどり着くと思うんだけどな?」


笑顔で述べる彼女の姿勢は変わらないまま

やはりミリアのパーティー入りを邪魔してくるらしい


「あの、黙って聞いていれば・・・貴方は何なんですか?」

「私?私はノワ・エイルシュタット。王都魔術学校を首席で卒業して、今は勇者専属賢者やってます。アリアの側は渡さない!私の特等席だ!」

「渡した覚えどころか、特等席を制定した記憶もないのだけど・・・まあ、今は私とこの変態の二人でパーティーって感じね」

「さり気なく変態扱いしたね、アリア。でも悪くないかも・・・」


ひょこひょこ寄ってくるノワを片手で止めつつ、ミリアとの会話を続ける

彼女はそんな私とノワを交互に一瞥しながら、私に憐れみの視線を向けてきた


「大変そうですね。こんな初対面で喧嘩を仕掛けてくるような、とても賢者とは思えない愚行をする者が勇者様の隣に立つなんて、とてもおこがましい」

「・・・そう。面白いね」

「勇者様、なぜこの賢者を連れているのですか?」

「仲介役の紹介」

「なるほど。事情はわかりました」


ミリアとノワの間に、一瞬火花が散る

目の錯覚だろうか。疲れでおかしくなったのかもしれない

・・・早く休んだほうがいいかも


「勇者様としても、この愚者と一緒にいるのは耐えきれないようで」

「さりげなく私を愚者呼ばわりしたな小娘。私賢者ぞ?」

「どう考えても愚者の奇行でしょうに!」


言えているわね。愚者の奇行

最適な表現すぎて何も言えないわ


「ほお・・・なるほど小娘。お前が私に喧嘩を売っていることはとても理解できたよ」

「小娘はよしてくださいな。私、これでも十八歳。立派な成人なのですよ。そんなに若く見えますか?」

「うっそ。私より年上?ババアじゃん・・・」

「ババっ・・・」


ノワ、流石にそれはまずい発言だと思う

ミリアだけじゃなく、全国のお姉さんたちも敵に回した気がするわ

けれど彼女たちは止まらない


「言わせておけば・・・!勇者様!この者は勇者パーティーにふさわしくないと思います!」

「いーや。私が一番ふさわしい。何でもできる。一人いれば魔王討伐以外は何でもこなせる!」

「ではそれを証明して頂けます!?」

「構わない。どんな無理難題でも押し付けておいで。私の実力を見せつけてやるから」

「いいでしょう。決闘よ、ノワ・エイルシュタット・・・!」

「望むところ」


火花どころか、彼女達の周りに熱気が漂い始める

なんだろう。後ろで炎が燃えている気がするわ・・・

やっぱり疲れているのね、私


あぁ・・・どうして普通に仲間に勧誘できないのだろう

どうしてこう、ノワとミリアの決闘なんかに話がもつれているのだろう

うん。意味がわからないわ


わーきゃー言い合う二人を遠目に、私はあくびを一回

やはり旅の疲れが響いているらしい

話が終わるまで、椅子の上で寝かせてもらおう


長椅子へ横になり、二人の言い争いをBGMに目を閉じる

眠気が私の意識を飲み込むのに、そう時間はかからなかった

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