第三十七話 寺田冬の本音、青森累の愚痴。

「あいつ何処行ったんだ!?」


 開会式が終わってすぐ、雨宮が逃げた。

 体育祭が一時的に止まった。皆は自由休憩という事で休んでいた。

 一方、俺、小倉、伏川、春下、愛媛で雨宮を探している所だった。

 俺は一通り西棟を探して、見つからなかったので取り敢えず校舎から出ると、冬が出てきた。


「っあ、ルイルイじゃん。やっはろー」


 そう言いながら手を振る冬。


「ガハマ辞めろ。……てかさ、冬」


「何何? どうしたの? ルイルイ」


「本当に責任感無いな。お前」


「えっ?」


「なんであそこで手を挙げた」


「それは、面白そうだったから。……実際! それで、ウケたし……」


「ウケれば何でも良いのか?」


「……」


 冬は黙りこんだ。虫が死んで動物達が冬眠を始めた頃の冬の如く、冬は静かになった。


「数十人の笑いの為だけに1人を犠牲にするのか?」


「…………」


「それは違うだろ」


「……」


雨宮アイツは頑張り屋なんだ。お前のおふざけに付き合ってる余裕は無い」


「でも、ルイルイの彼女になりたいとか思って……」


 ……で、やっと話した言葉が言い訳かよ。


「ぶっちゃけ、俺も迷惑だった」


「っ!?」


「俺達が台本作んなかったのも悪いかもしれんが、手を上げる人が居た時の話なんて存在しなかったんだよ。だから、あの後のアレ。全部アドリブ」


「違う、アレはそう言う事じゃ無くて……」


「じゃあどういう事だよ。人を逃げる位にまで追い詰めて。何が違うんだよ」


 そして首を横に振って言う。


「違う、違う……!」


「冬。時と場合を考えろ」


「っ!」


「俺の話す事は無い。冬、何か言いたい事でもあったのか? 今のこの時間だって雨宮を探さなきゃ行けないんだけど」


「何でも……ない」


「そうか。またな」


 今思えば冬には強く当たり過ぎたのかもしれない。

 だけど、こんぐらいしないと。雨宮に悪いからな。

 その後、俺は再び雨宮の探索に戻ろうとしたが、冬はそこに立ち尽くしたまま1歩も動かなかった。

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