第5話 羞恥や恥辱
坂崎は本を新聞や雑誌を読んだりして、
「昨日のトイレの話を何とかミステリーとして物語にできないだろうか?」
と考えていた。
まずストーリーの骨子としては、多目的トイレに男女が入り、そこで事件を起こすことであった。
当然、トイレという密室であれば、やることは一つしかないだろう。しかも、誘うのはオンナ、男であれば、ホテルに誘うなりするだろう。トイレに誘うということは、前述のように頭の中にあるのは、、
「女性の方が我慢できなくなった」
とう考えが一番ではないだろうか。
女性というのは、性欲は男性の何倍もあるという。しかも、男性のように一度果ててしまうと萎えてしまうということはない。すぐに欲情してくるものだというではないか。
さすがに自分は男なので、女性がどういう性癖なのかまでは分からないが、古今東西、小説になったり、物語として残っているもので、男女の因縁としては、女性の性欲の強さが陰惨な事件を巻き起こす原因となることが多いようだ。
確かに男性の性欲も歪んだものであれば、実に酷いものである。ただ、それは男性が肉体的に強いというものであるから、女性を郎院に凌辱できるというところに陰惨なイメージがついてまわるが、女性の方も、その陰に隠れて、強くなってきた性欲を我慢することなどできないというものだ。
やはりその中に、これも前述の、
「いかなる理由」
というキーワードを嵌めこみたいと思っている。
ちょうどその時、朝の部のピークを終え、後片付けまで終わったマスターが坂崎の前にやってきた。
「重ちゃん。何かまたいろいろ考え込んでるんじゃないの?」
と、声を掛けてくれた。
マスターは坂崎のことを、親しみを込めて、
「重ちゃん」
と呼ぶ、いつ頃からそう呼んでくれるようになったのか忘れてしまったが、そう呼んでくれるということは常連の仲間入りさせてくれるということになるので、それがとても嬉しかった。
マスターは本を読むのが好きだと言ったので、自分が売れない小説家だというと、
「読ませてもらうよ。本屋に置いてるかな?」
と言われたので、
「今は置いてあるところはほとんどないんじゃないかな? 実際に見たことないから」
と言うと、
「じゃ、予約して取り寄せてもらおう。その方が、本屋も売れたと思ってくれるでしょうからね」
と言ってくれた。
最初は、
「僕が取り寄せようか?」
と言おうとしたが、自分で取り寄せたのであれば、売れるという印象ではないので、そこは気を遣って、自分から取り寄せるようにしてくれるのだろう。
そう言って、マスターは二、三冊だけまだ廃刊になっていない坂崎の小説を読んでくれることになった。
「まあまあ、面白いと思うんだけど、しいていうと、リアルさに掛けるかも知れないな」
とマスターがいった。
「どういうこと?」
「確かに、事件に遭遇しなければリアルさは出てこないのかも知れないけど、想像する中にだってリアルさを求めることはできると思うんだ。自分が別に犯人になる必要もない。それよりも、自分の身内や親しい知り合いが事件に巻き込まれるくらいの気持ちになった方が、もっとリアルになれるんじゃないかな? 重ちゃんの作品を読んでいると、どこか羞恥心が感じられて、綺麗に纏めようとしているように見えるんだ。ミステリーなんだから綺麗にまとめる必要なんかない。大胆に恥ずかしい部分も、陰湿な部分も表に出せばいいんじゃないかな?」
と言ってくれた。
目からウロコが落ちた気がした坂崎は、それから、なるべく、気持ちに正直な作品を書けるように心がけている。
「確かに僕には恥ずかしいという気持ちが強いからか、どうしても綺麗にまとめてしまおうという気持ちがありますね。それはやっぱり根底に羞恥心があるからなんでしょうかね?」
というと、
「そうですね、羞恥心というのは、恥ずかしいという思いを感じているからだとは思うんですが、それが実際の恥辱となるとまた違ってくる。恥辱というのは、辱めを受けたり、名誉や対面を実際に傷つけられることです。だから、恥辱がなければ、本当の意味での羞恥心というのは生れないのではないでしょうか?」
とマスターは言った。
「僕の小説は、経験からのものではなく、どちらかというと妄想に違いと思っているんですよ。想像力がないから、うまい具合に描けないんでしょうかね」
というと、
「そうじゃないですよ。妄想というのは、恥辱と同じで、実際に恥ずかしいということを感じたり、傷つけられた痛みが分かっていないと妄想もできません。夢に見たことであってもいいと思うんですよ。そもそも夢というのは潜在意識が見せるものですからね。潜在意識というのは、一種の無意識のことなので、意識的ではなく、実際に感じたことでなければ夢を見ることもできないはずです。その時は逆に夢を見たということは、実経験をしたことがあるのと同じだとお考えになれば、羞恥の意味も分かってくるんじゃないですか? せっかく小説を書けるだけの総総力をお持ちなのだから、経験からの妄想を生み出すことはできるはずだと思うんです。だから、私は重ちゃんを応援したいんですよ。坂崎先生と呼びたいんですよ」
と言ってくれた。
「本当に嬉しいですよ。自分にファンなどいないと思っていたので、ファンの言葉をして受け取っていいですか?」
と聞くと、
「もちろんです。私はずっと重ちゃんのファンでしたし、これからもずっとファンでい続けますよ」
少し手厳しい意見もあるが、その分マスターは真の読者としての、そしてファンとしての何百人の言葉よりも重たい気がした。
数百冊の本が売れるのも嬉しいが、一冊だけでもいい、マスターのような人に買ってもらえるだけでも、感無量な気持ちだった。
そんなマスターの店で、一人カウンターに佇みながら、小説をネタを考えている一時は、至福の時間を楽しんでいるような気がしていた。
基本的にはマスターから話しかけてくることはなかった。今までに話しかけてくれたのは、マスターが自分の本を買いたいと言ってくれた時と、本を読んだ感想を言ってくれた時くらいであろうが、それ以外にはちょっと記憶がなかった。
「今日はどうして話しかけてくれたんですか?」
と聞いてみると、
「なんだかね、話しかけてあげないといけないような気がしたんですよ。いつになく真剣な表情は、今までの重ちゃんと違って、いつもの方っておいてほしいという感じではなく、話しかけてほしいというようなオーラが感じられたんだ」
というではないか。
「僕にオーラなんかあるのかな?」
と聞いてみると、
「なかなか表に出にくいようだけど、あるのはありますよ。基本的にオーラがない人間なんていないとは思うんだけど、人によっては、出かかっているけど、まわりがそのオーラを引き出すことに抵抗を感じているような人だっているんだ。余計なことをしてはいけないと感じさせるようなね」
「じゃあ、僕にはいつもは、その余計なことを感じさせていたのかな?」
「そうだよ。でもね、そのうちに逆のオーラが出てくると思ったのさ。それが今話しかけてほしいという感覚のね。だから今話しかけてみたのさ。オーラというものは、普通であれば本人には感じることのできないものなんだけど、ごくまれに感じることのできるオーラも存在する。今の君はそんな雰囲気を醸し出しているような気がするんだ」
というではないか。
自分でもハッキリと分からないオーラが存在するなどということは、想像もできないことだった。
「今の君には、羞恥が見えるような気がするんだ」
と、マスターが少しだけ続いた沈黙を破るかのように答えた。
「羞恥と恥辱ですかね?」
と、坂崎は前の時のマスターとの話を思い出していた。
「多分、君にも恥辱の経験があるはずなんだ。だから本当は描きたいと思っているんだけど、きれいごとで隠してしまおうとしている。オブラートで包もうとしているかのようだね」
という。
「僕にはハッキリとは思い出せないんだけど、その恥辱がどんなものなのかということをですね」
「思い出せるに越したことはないが、無理に思い出すことはない。無理にこじ開けようとすると、せっかくオーラが発せられたのに、今度はそのオーラすら表に出てこなくなってしまうよ」
「それはどういうことですか?」
「君は恥辱の経験があり、それを羞恥心がなるべく表に出さないようにしようと感じている。これは別に君だけのことではなく。普通はこの恥辱による経験と羞恥とがうまい具合のバランスを取ることで、オーラに繋がってくるんだけど、君の場合は、恥辱が強すぎるのか、それとも持って生まれた性格によって、ちょっとした羞恥心が、大きくなってしまうことで、恥辱の記憶すら消してしまっている。羞恥がバランスを逸してしまったとでもいうべきであろうか。だから、そのバランスを保とう炉無理をしてもダメなんだ。元々バランスを保っていた人であれば思い出すこともあろうだろうけど、そのバランスを持っていなかったのであれば、無理をすることになるので、それは避けた方がいいだろうと私は思うんだ」
とマスターは言った。
「マスターは、心理学でも専攻されていたんですか?」
と聞くと、
「ああ、大学の時に少しだけね。でも、そんなに詳しくは勉強していない。どちらかというと卒業してから、この店をやるようになってから、勉強していると言ってもいいかも知れないね」
「お店の経営にも勉強はいいことなのかも知れませんね」
「でも、これは経営のために勉強したわけではなく、学生時代には気づかなかった面白さに気付いたからなのかも知れないね。心理学って、とにかく言葉が難しいし、専門用語も結構多いので、学校で授業として受けていると本当に難しい。でも、単位取得などには関係のない自分だけの勉強として本などを再読してみると、結構今なら分かることもあるんだ。さっきの恥辱の話ではないが、私も本当は君のように羞恥の気持ちが強くて、正当性を求めるような気分になっていることが多かったような気がするんだ」
とマスターは言った。
「僕のような男が変態的な話をこのカウンターからしたとするだろう? どういうイメージがするかい?」
「マスターのような人はそんなことを口にするようには見えないので、少し恐怖めいたものを感じますね。思わず後ずさりという感じでしょうか?」
「そうだろう。そうなっちゃうんだよね。でもそれは僕のような人間なら言わないだろうという意識よりも、僕という人間が、そういう話をし始めると、きっと興奮してきて、まるで怒られているような気がするという認識を感じながら、自分の印象を違うという意味で、否定したくなることから感じる怯えなんじゃないかって思うんだよ」
「ところで、マスターは思い出せるんですか? 恥辱というものがどういう記憶だったのかということを」
「ええ、思い出せますよ。羞恥というのは、心そのものなんですよ。だから意識と言ってもいい。でも、恥辱というのは。傷つけられた李したものであり、古いものは、それがそのまま記憶となって頭の中に残っている。もちろん、身体が覚えている場合もありますけどね。でもその場合意識に残ろうとするので、記憶としての羞恥はその気持ちをなるべく表に出したくないと思っていますから、意識の中から消そうとするんです。だからひょっとすると、かなり古い過去のことだと思っても、実際には細菌のことなのかも知れませんね」
と、マスターは言った。
さらにマスターは続けた。
「あれはたぶん小学生の頃だったと思います。恥辱というものを私が味合わせたわけでも相手が味わったわけでもないんです。羞恥を彼女は自分から望んだとでもいうんでしょうか。見たくもない汚らしいと思っているものを、自分から見せびらかすんです。一種の露出狂と言うやつでしょうか。今でも私はその時のことを思い出すと、嘔吐に見舞われることもあります。でも、ある感覚のツボに嵌ると、羞恥が今では恋焦がれるようなものの感じがして、自分が変質者ではないかと思えてならないんですよ」
と、マスターは言った。
どうやら、変態化おアブノーマルの世界のようだ。マスターは返事もできずにただ戸惑っている坂崎を目の前にして、何事もないかのように最初は淡々と話した。
「小学生の頃って、まだ思春期にもなっていない。いわゆる幼年時代と言ってもいい頃ですよね。その時の私は今の私からは想像もできないでしょうが、ある意味残虐なところがあったんです。昆虫採集ってあるでしょう? 夏休みの自由研究かなんかで。綺麗な蝶々だったり、夏草に集まる虫だったり、せわしなく鳴き喚くセミだったりとかね。それを取ってきて、身体の満七に針を通して串刺しにするじゃないですか。それを学校に持って行って、教室に飾るんですよ。それは誰もがやっていることですよね? 坂崎さんはそれを平然とやっていましたか?」
と聞かれて、少しビックリした。
マスターの話には理路整然としていないところがあり、たまに整理せずにいきなり話から始まるので、彼の意図を見抜くのに苦労する時がある。これが今だった。
「そうですね。僕はあまり何も考えてなかったですね」
というと、
「そうなんですよ。何も考えていなかったんですよ。でも考えてもみてください。何も悪いことをしているわけではない虫たちを捕まえてきて、標本と称して串刺しにするんですよ。これってすごく残酷ですよね? そういえば子供の頃の特撮もので、人間を標本にして、同じような人間標本を魔人たちの子供が学校に持っていくという話を見たことがあったんですが、私はそれを見て愕然としました。自分たちは同じことをやっているんだってね」
マスターの声は少しずつ興奮してくるようだった。
「でもね、何が怖いのかというと、そこじゃないんですよ。どうして自分たちに置き換えてみなかったり、それよりも昆虫の標本に関しては、そんなに気持ち悪いと思わないのか。ペットや家畜などの動物、イヌやネコなどが車に轢かれたりするのを見ると、気持ち悪いと思いますよね。でも、昆虫ではそうは思わない。何が違うと思います?」
と言われて、坂崎は何も言えなかった。
「昆虫だとそれほど残虐だとは思わないけど、動物だと無残だとか、悲惨だとか思うんですよ。分かりますか?」
「血が流れるかどうかということでしょうか?」
と坂崎が答えると。
「そうなんですよ。そういうことなんです。真っ赤な血が流れるから、動物は自分たちと同じ仲間だと思える。だから死んでしまうと、かわいそうだという気持ちにもなりますが、虫や昆虫にはそんなことは思わない。血は流れないけど、押しつぶすと身体から何かが出てくるだけで、それは血とは色も違えばイメージも違う。だから、自分たちの仲間だとは思わない。そう思うと、人間は可哀そうだとは思わないんですよ。私はそれを意識するようになってから、急に虫や昆虫は、他の人が考えるよりも、本当に虫けらなんだって思うようになった。虫けらであれば、何をしてもいいんだという気持ち。それがそのうちに自分の感覚をマヒさせて、動物に対しても残虐性を持つようになり、次第に同じ人間に対しても、感覚がどんどんマヒしていきました。そんな時に一人の女の子と知り合ったんですが、彼女もどこか感覚がマヒしている女の子で、まわりの人に見てもらいたいという意識が強かったのかな? 羞恥心というものがなく、恥辱を楽しみのように思っているような女の子でした。私も最初は気持ち悪いと思ったんですが、その頃から人間に対しても感覚がマヒしてきていたので、相手は恥辱を好み、羞恥心が欠けていると分かると、どうも自分と同類ではないかと思うようになったんです。そのせいもあってか、彼女に対して非常な興奮を覚えるようになりました。彼女が見せたいのであれば、どんどん見てやる。そのうちに彼女は身体が反応し始めます。今までに感じたことのない快感が私の身体を駆け抜けます。一気に原始時代から明治維新まで駆け抜けたような気分ですよ。きっと、それまでも感覚がマヒしていたわけではなく、ある一点を超えると身体が絶えられなくなるほどの快感が得られることを分かっていて、そこに近づいている自分に気付いていたんでしょうね」
とまくし立てるように言った。
「なるほど、マスターの言いたいことは分かった気がします。そういえば僕も子供の頃、相手も僕もビックリしたんですが、出会いがしらにトイレに入っている女の子が扉を閉めるのを忘れて、それを僕がノックもせずに開けたことがあったんですよ。僕もまだ三年生くらいじゃなかったかな? その子はまだ幼女と言ってもいいくらいで、いきなりのことに身体を隠すということもなく、すべてを見てしまったんですが、僕は正直今でもその時の光景が忘れられません。その子のことが嫌いでも好きでもなかったんですが、しばらくの間、彼女から離れられなくなりました。彼女も同じだったようで、二人でぎこちない時間を過ごしたという記憶があります」
というと、
「羞恥と恥辱は、切っても切り離せない関係にあるんですよ。自分が羞恥であれば、相手は恥辱、逆もありですが、一人の身体の中に、羞恥も恥辱も同居しています。でも羞恥というのは表に出すものではないと本能が言っているので、恥辱も同じように封印することになるんです。でも、それを皆が当たり前だと思っているから、この世の倫理は守られているのではないかと思います。私のさっきの話は。羞恥というものや、残虐性のようなものを、自らに当て嵌めて考え始めると無意識ではいられなくなります。その時に何かに目覚める。それが、さっき坂崎さんが聞きたかったことではないかということへの私の答えになります」
と、マスターは話してくれた。
「なるほど、奥が深い話のような気がします。僕には難しすぎる気がしますが、分からない話ではないです。僕の小説に何かヒントになれば、ありがたいと思って、少し考えさせてもらいますよ」
と言った、
それにしても、この話はかなりの強烈なインパクトを坂崎に与えた。
このインパクトは、以前に他の人の小説に出てきた、
「自殺菌」
のインパクトに似ていた。
この話を見た時、それまで凌辱であったり、猟奇的なものは、あまり好きではなかった。露骨な気持ち悪さが残るからだった。
しかし、それは、
――自分には描けない――
という世界であるということを自覚していたからではないかと感じた。
自分に書けないものは、正直脱帽に値するものであり、それがどんなに嫌いな、気持ち悪いものであっても、一定の敬意を表しなければいけないものだということを表しているのだった。
「世の中には、実際に猟奇的な趣味であったり、SMやスカトロ、露出や、暴行痴漢などのあらゆる性犯罪で溢れていて、映像作品としても、数えきれないほどの作品は世に溢れています。だけど、これは今に始まったことではなく、昔からあることでしたよね。SMなどは、中世の高級階級の人たちの間の趣味として使われていたり、人間と猛獣が戦う姿などは、古代文明にも見られたものです。ローマ皇帝ネロなどは、自分の絵を描きたいがために、それだけの理由で、ローマの街に火を放ったというではないですか? 今では常識的にありえないことでも、平然と行われていた時代があった。何しろ奴隷を扱っていた時代ですからね。今の倫理感など通用しません。それを理解して考えてみると、人間というのは、残虐性であったり、先ほど言った数々の変態プレイや性犯罪など、頭で考えることはできると思います。ただ、それが実際の行動として出ないように、感覚のマヒにだけは気を付けなければいけないと思っています」
マスターはそう言って、心なしか震えているような気がした。
――子供の頃の自分を思い出したのではないだろうか? それにしても、確かに昆虫採集などで虫が串刺しになっているのを見てもなんとも思わなかった。それを指摘され、それ自体が残虐性なのかと思ったが、マスターの言い分は違っている。自分がそのことに気付いてしまったことで、自分の中にある残虐性が目を覚ましたというのだ。普通ならこんな考え方はしない。するとすれば、感覚がマヒしてしまったことが危ないと思うだけである――
と、坂崎は感じていた。
そういえば、坂崎は小説を書き始めた時、
――俺は、ミステリー―やホラーのような話は書けない――
と思っていた。
なぜなら、小説を書くとすれば、フィクションであっても、ある程度経験のあることでなければダメだという思いと、実際に怖いと思っていることを想像して書くことなんかできるはずはないと思ったからだった。
坂崎は、自分で小説のアイデアを考えながら、
「羞恥と恥辱」
を思い浮かべていたが。そこに、今度は、
「残虐」
というキーワードが入ってくることで、話が何となく組み立てられるような気がした。
だが、そうはいっても、それほど恐ろしい話になるとは思えない。あくまでも自分が書ける話には限度があり、やはり経験したことではないと、それ以上の発展はないと思っている。
「何をもって恐怖というか」
それが課題な気がした。
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