Day4 触れる

 思わず触れたくなるような薄桃色の唇……。

 水墨画のようなモノクロの肉体の中でそこだけが艶やかに存在感を放っている。

 旅人は鏡に映る自分の唇を指先でそっとなぞった。

 冷たく無機質なはずの鏡面からほんのりと体温が伝わってくるように錯覚する。

 文鳥にこの唇を描かれた時は、大変不満を感じていたはずだ。正直言って「ダサい」と思った。

 けれど、今ではこんなにも魅了されている。

 ガリッ。

 何かが削れるような音。それと同時に衝撃的な痛みが電流のように体を駆け巡った。

 痛い、と叫ぶことも忘れて急いで指を鏡から離す。

 指先からは真っ赤な血が溢れていた。

 鏡の中の唇からも朱色の滴が垂れている。唇はにやりと笑った。

 口の中で鉄の味がする。

 

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