第23話 救う命、救われる命

 うげぇえええええええ。

 俺たちはカミアの全速力のせいで三半規管をやられながら《墓地迷宮》という場所に辿り着いた。


「み、ミア……。回復魔法を頼む……」


 俺はフラフラとカミアの背中から降りながら言った。

 ちなみにもちろんミアもルルネもグロッキー状態だ。


「わ、分かりました。すぐにかけます」


 そして俺たちは回復魔法をかけて貰い、グロッキー状態から何とか立ち直る。

 シャキッとなったところで、俺は剣を引き抜くと威勢よく言った。


「さあ! 突撃じゃあああ!」

「はい、行きますよ!」

「ハルカさん、待っていてくださいね!」


 俺たちはズンズンと《墓地迷宮》の中に入っていく。

 ちなみにカミアは迷宮には入らない。

 他にやることが残っているからな、彼には。


 まあ……カミアなら簡単に仕事をこなしてくれるだろう。


 出てくる魔物(アンデット)をズバズバ斬りながら先へと進んでいく。

 どうやらこのダンジョンはそこまで深くないらしく、簡単に深部まで辿り着いてしまった。


「おおう……こんなあっさりでいいのか?」

「相手はそこまで強くないってことです!」


 俺の言葉にミアが楽観的にそう返してくる。

 しかしルルネは警戒しながらこう言った。


「ミア、そんな楽観的じゃいけません。ハルカさんの命がかかっているかもしれないのですよ」


 そりゃそうだ。

 そして俺たちは深部にあったボス部屋のようなところに入り込む。

 するとそこにはよく分からないタコっぽい顔をした異形とハルカ、そして眼鏡をかけたインテリ系の魔族のおっさんが一人いた。


「なっ……!? 速すぎる! 予定ではあと5時間は遅れてくるはずだったのに!?」


 何やらおっさんが驚いているが、まあそりゃカミアを使ったんだからな。

 それくらい余裕よ、余裕。

 しかしそのおっさんは俺たちをじっとりねっとりと見定めると、にやりと笑った。


「……しかし来たのはやはりミアとルルネだけか。お前たちは英雄の中でも最弱! この魔人グーシャイアの敵ではない!」


 おうおう、死亡フラグみたいなことを言いやがって。

 てかそのタコみたいな異形は魔人グーシャイアというらしい。

 いっちょ前にかっこいい名前を持ちやがって。


「それに! 連れてきたのはただのおっさん! 負ける道理がないな!」

「おっさん言うな。お前こそおっさんだろ」


 俺が冷静に言うと、その魔族は怒り心頭と言った感じで額に青筋を立てる。


「なんだとぉ……!」

「このっ、ジジーニャ! アリゼさんはおっさんじゃないわ!」

「そうです、そうです! アリゼさんはまだ若々しいんですから!」


 さらに二人が加勢してくれているが、そのフォローは逆に俺の心に刺さるからな?


「しかぁし! この魔人を復活させてしまえば、俺の勝ちだ!」


 そしてぴかっとハルカの足元にある魔法陣みたいなのが発光し始めた。

 おおう、それはマズそうだ!

 俺は速攻で異形に近づくと、一刀両断してみた。


 スルッと斬れた。

 まあ魔の森の魔物と同じくらい硬かったが。

 はははっ、俺の敵ではないな!


 するとバキンッという音とともに、魔法陣がはじけ飛んだ。

 ええ……こんなあっさりでいいのか。

 ジジーニャと呼ばれていたおっさんは目を見開き、驚愕しているが。


「なんだとッ!? このグーシャイアの皮膚は鋼鉄よりも硬いんだぞ!?」


 へえ、そうなのか。

 でも俺、アダマンタイトとかも斬ったことあるしなぁ。

 鋼鉄なんかに今さら遅れを取ったりはしないよ。


 その頼みの綱らしきものを斬られてしまったジジーニャはプルプルと震えている。

 おっと、このままじゃ前みたいに転移魔法で逃げられるかもしれない。

 俺はさっと近づいて、彼の肩をがっちり掴んでこう言った。


「さあ……覚悟は決まっているか?」

「やめろ、おい、やめろぉおおおおお!」


 その静止の声を聞かず、俺は右手を振りかざすと思いきり殴りつけた。

 ドゴォオオンと吹き飛ばされ、一撃で気絶するジジーニャ。

 うん、こいつ自体はあまり戦闘力はないらしいな。


 ちゃんと気絶したことを確かめると、俺はハルカさんに近づいて言った。


「さて、大丈夫か? ハルカさん」

「……はい、ありがとうございます」


 助けたというのにどこか浮かない表情をしているハルカさん。

 それにミアも気が付いたのか、彼女に尋ねた。


「どうしたんですか? 浮かない顔して。ふふっ、ちゃんと喜ばないとダメですよ?」

「いえ……やっぱり私は足手まといになってしまうんですねと思いまして……」


 どこかナイーブになっている彼女に、俺は人生の先輩としてこう言ってあげる。


「ハルカさんは足手まといなんかじゃないよ。確かに王族たちとの確執はあるかもしれないけどさ、国民はちゃんとハルカさんのことを見てるから。――そろそろ来るはずだよ」


 俺がそう言うと、騎士団の連中、冒険者の奴ら、さらには普通のメイドさんたちまで、様々な国民たちがゾロゾロとこの部屋に入ってきた。


「ハルカ様を攫っていったやつはどいつだぁあああ!」

「野郎ども、ぶっ潰すぞぉおおおお!」

「乗り込めぇええええ! 戦じゃああああ!」

「うげぇえええええ! 吐きそうだけど俺はやれるぞ!」


 ……みんな威勢良すぎでしょ。

 みんな、カミアの背中とか括り付けた馬車とかに乗ってやってきた連中だ。

 まあそのせいでみんなグロッキーだったけど。


「ほら、ちゃんとハルカさんの頑張りはみんな見てるのさ。ここだけの話、近々王族たちはちゃんと追放されるみたいだよ?」


 俺が代表してそう言うと、ハルカさんは涙を浮かべながらこう言った。


「ありがとうございます、皆さん……。私のやってきたことは間違いじゃなかったんですね」


 それにやってきた人間たちは照れた感じで返すのだった。


「ははっ、ハルカ様のためなら俺たちは立ち上がる、彼女の母が処刑されたときにそう決めただろ?」

「おうとも! 俺たちはハルカ様の味方だぜ!」

「ハルカ様のためなら、この命、惜しくないッ!」


 あ……だからと言って攫っていったジジーニャをリンチしようとするのは止めてください。

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