ヘンゼルとグレーテル

prologue

天をも焦がすような赤々と燃え盛る炎を見つめながら、その人物は笑っていた。

「……魔女は釜戸で焼き殺される……まずは一人……あと一人……」

歌うように口ずさみながら楽しげに笑っている、その姿はまるで死神のようであった。


 ☆ ☆ ☆

 

 警視庁捜査一課の部屋の片隅で一人、陣内徹じんないとおるは難しい顔をしてパソコンで検索をしていた。

「どうした? 難しい顔をして。班長から何か問題でも押し付けられたか?」

 タバコ休憩で外の喫煙所まで行っていた石川三郎いしかわさぶろうが覗き込んでくる。

「いいえ、大した事では無いんですけど……」

 そう言いながら、タバコ臭い石川から少し距離をとった陣内は、事の経緯を少しずつ確かめるように話し出した。


「石川さんが七年前に捕まえた、松崎美里がですね。最近、精神症状がひどくなって、執行停止で精神病院へ移ったそうなんですけど……。移った先の病院で盛んに騒いでいると報告が来てまして」

「そりゃあ、おかしいんだから仕方がないだろう?」

 同じメールが石川にも来ているはずだが、読んでいないのか読まずに捨てたのか……。

 気をとり直して陣内は話を続ける。

「自分は『グリム』だとか、もう一人の『グリム』が来るとか……」

「場所が変わって不安なんだろうよ。慣れれば落ち着くさ」

「それが違うんですよ! 殺しに来てくれるって嬉しそうに言ってるんですって!」


「何だ? それは……」

 さすがの石川も言葉に詰まってしまった。

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