Ⅳ
「今回のは別格だな……」
バックミラーに写った顔が自然とニヤついているのが自分でも分かった。
「後は、アイツが上手くやっておくだろうし、俺は自分の用事をサッサと済ませちまうかな……」
そう言って長崎は、元いた駅へと車を走らせて行ったのだった。
☆ ☆ ☆
(4ヶ月前)
四ヶ月前の八月末、長崎は今日と同じ様に駅のロータリーにいた。
そこに高校生らしいメガネの少女が大きいキャリーバッグを引きずりながら改札から出てくる。この辺りにはメジャーな観光名所もなく、「素人目にも家出か?」と疑うような少女だった。
長崎は仕方ないと言う感じで、少女に話かけた。
「ダメだろ! 親、絶対心配してるからな。ちゃんと連絡しろよ」
「……」
「二つ前の駅に交番があるぞ! そこまでなら送ってやるけど?」
「……」
事情を聞いた長崎は少女を心配して交番へ連れて行こうとしていた。しかし、少女は首を横に振って長崎の提案を拒否する。
「……どこかに連れてって欲しい……」
「お前な!」
「……お願いします……」
親と喧嘩して家を飛び出した
車に乗った長崎は明日香に免許証と身分証を見せて言った。
「お前な、見ず知らずの男の車にそう簡単に乗るな! 乗る時はどう言う奴か確認してから乗れよな」
わざとぶっきらぼうにお説教をする長崎に、明日香は親しみを覚えるのだった。
「知り合いに民宿をやってぃる奴がいるから今日はそこに泊まっておけ! 後は、頭冷やして自分で考えろよ」
そう言って、自動販売機から出した氷入りのジュースを明日香に持たせた。
「それ飲んで頭冷やせ!」
助手席で冷たいジュースを受け取った明日香は涙でメガネを曇らしながら横を向いてジュースを飲んだ。
それは四ヶ月前の八月末の出来事だった。
☆ ☆ ☆
(2ヶ月前)
二ヶ月前の十月末、
さびれた駅のロータリーにはタクシーもなく、白い四輪駆動車が一台停まっているだけだった。
仕方なくスマホで地図アプリを立ち上げていた時、となりにいた男が突然大きな声で怒鳴りだした。
「ちょっ、お前。約束の日にち間違えていたのかよ! 俺は準備して待っていたんだぞ」
大きな声で聞こうとしなくても聞こえてしまう。
「俺の貴重な休日をどうしてくれるんだよ」
美咲は、頭を抱える男の人を横目でちらっと見て、思わず笑ってしまった。
(ヤバイ、目があっちゃった。)
「笑い事じゃあないよ! 社会人の貴重な休日なんだから。なかなか休み取れないんだよ!」
冗談半分にその男は言った。
「すっ、すいません」
美咲は素直に謝ったが、今度は男が急に笑い出した。
「良いんだよ! 冗談! 冗談」
屈託のない日に焼けた笑顔だった。
「失恋旅行? 知らないね。俺には関係ないから」
美咲は大まかな事情を話したが、長崎竜也は親身になって聞いてもくれない。
「しょせん、高校生の恋愛ごっこだろう。また次を探しな!」
そう言って笑い飛ばした。
「長崎さんは本気の恋って、したこと無いんですか?」
思わず美咲は聞いてしまった。
「本気の恋か……無いね!」
さっぱりとした顔で長崎は答えた。
「そんな出会いをしたいけどね」
わたしとの出会いは……と思わず口に出かけた言葉を飲み込んだ。美咲は恥ずかし気に長い髪を指でいじくる。長崎はそれに気付いたのか、意地悪そうに言った。
「俺、未成年は守備範囲外だから。ガキンチョは早くお家に帰りなさい!」
そう言って紙コップのホットカフェオレを渡す。
「仕方ないから、近くの湖まで行って紅葉を見せてあげるよ、それで満足して帰るんだな」
とりあえず長崎は車を動き出させた。
それは二ヶ月前の十月末の出来事だった。
☆ ☆ ☆
休憩室のドアを静かに開けると、そこにはスヤスヤと寝息を立ててソファーで寝てしまったヒナタの姿があった。
「OK! 睡眠薬ちゃんと効いたようだね」
車椅子を押した島原が入ってきて、手慣れた手つきでヒナタを車椅子に乗せる。
「ホント可愛いね。今度の娘は別格って長崎さん言ってたけど……ホントだね!」
嬉しそうにニヤけた顔で島原は車椅子を押して、地下のボイラー室へと姿を消していった。
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