第35話 何が何でも彼女が欲しい~ジェーン視点~

僕の名前はジェーン・ファレズ・アオリス。3歳でこの国の王太子になった。僕には2歳年上の異母兄がいるのだが、体が弱いらしく王位を放棄し、彼の母親の実家でもあるパーソティ侯爵家の領地で生活をしているらしい。


その為、僕が王太子に就任したのだ。僕はほぼ一人っ子として、特に母上から寵愛を受けて育った。


「ジェーンはこの国で国王になれる唯一の人物。尊い存在なのよ。だから何も我慢する必要はないの」


それが母上の口癖だった。父上は母上を溺愛しており、母上の言いなりだ。使用人たちも僕のいう事には逆らわないし、気に入らない使用人は母上に言ってクビにしてもらった。


そう、僕の言う事は絶対なのだ。そんな中、僕は10歳を迎えた。10歳になると、僕と結婚したいお妃候補者たちが王宮で生活を始める。僕と結婚したい令嬢がこんなに沢山いるのか。でも…これといった令嬢は見つからない。


そんな中、出会ったのがフランソアだった。水色の髪にエメラルドグリーンの瞳をした可愛らしい女の子。


「初めまして、ジェーン殿下。フランソア・シャレティヌと申します。それでは失礼いたします」


僕に挨拶をすると、さっさとどこかに行ってしまったのだ。何なんだ、あの子。僕と話がしたくないのか?この国の令嬢は、皆僕と話をしたい、あわよくば王妃になりたいと考えているのに。


気になってフランソアの行く先を目で追う。すると、銀色の髪の男の子に飛びついていた。あの男は確か、僕と同じ歳の侯爵令息、デイズだ。デイズに向ける太陽の様な笑顔を見た瞬間、胸が苦しくなった。心臓が急にバクバクいい出したのだ。


僕はどうしてもフランソアが気になり、その後も何度か話しかけた。僕が話しかけると、嬉しそうに話はしてくれるが、デイズが気になる様でチラチラと彼を見ている。彼もずっと、フランソアの方を見ていた。


その日はそのままフランソアと別れる事になったが、僕はどうしてもデイズに見せたフランソアの笑顔が忘れられなかった。それからはことあるごとにお茶会を開き、フランソアを誘った。


「ねえ、フランソア。僕のお妃候補にならないかい?もし君がお妃候補になってくれたら、僕は君を選ぶから。ね、王妃になれるのだよ。素晴らしいだろう?」


意を決してフランソアに、僕のお妃候補になって欲しいと訴えた。でも…


「ごめんなさい、殿下。私はデイズお兄様が大好きで、いずれお兄様と結婚する事になっていますの。ですから、殿下のお妃候補にはなれませんわ。それに私、争いごとはあまり好きではないので。それでは失礼します」


そう言うと、笑顔で僕の元を去って行った。やっぱりデイズの事が好きだったんだな。デイズの様子を見ても、彼もフランソアが好きな事くらい、容易に想像がつく。


でも僕は、どうしてもフランソアが好きなんだ!どうしたらフランソアは、振り向いてくれるのだろう…


僕は母上に相談した。すると


「まあ、ジェーンが気持ちを伝えたのに、受け入れなかったですって!それは許せないわね。分かったわ、お母様に任せなさい」


母上がそう言ってほほ笑んだのだ。一体どうするのだろう、シャレティヌ公爵家にフランソアをよこせ!と迫るのか?でもそれは、法律で禁止されている事。そもそもシャレティヌ公爵家は、我が国の中でも、3本の指に入るほどの権力者だ。


さすがの母上もそんな事は出来ないだろう。


そう思っていると、母上が1人の老婆を連れて来たのだ。黒いフードを被っており、いかにも怪しそうだ。この人は一体…


「ジェーン、この人は魔女よ。森で大けがをして命の危機にさらされていたこの人を、私が助けたの。それ以降、私に色々と協力してくれているの」


「あなたがジェーン殿下ですね。それで好きな女の子がいるとか」


「はい、フランソアといいます。でも彼女は、他の男と結婚したい様でして…」


「そうでしたか、それは辛かったですね。それならこの薬に、あなた様の血を1滴だけ垂らして、その令嬢に飲ませて下さい。飲み物に混ぜて頂ければ大丈夫です。そうすれば、たちまちあなた様の虜になりますよ」


そう言うと老婆は、怪しい薬を渡してきたのだ。


「こんな怪しい物、フランソアに飲ませて大丈夫なのですか?」


「ジェーン、それは惚れ薬よ。私もあなたの父親、陛下に飲ませて虜にさせたの。だから大丈夫よ。効き目抜群なんだから。それさえ飲ませれば、フランソア嬢は、あなたのものよ」


そう言って母上が微笑んでいた。確かに父上は母上にべた惚れだ。これを飲ませればきっと、フランソアは僕を好きになってくれる。

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