第24話 私のせいで公爵家が…

そんな私を見つめ、深呼吸をしたお姉様。


「そうよね、あなたは散々王宮で辛い思いをしたのだから。でもね、フランソア。王宮の良くない部分を見て来たのなら、尚更王宮の健全化に協力しなくてはいけないのではなくって?きつい言い方かもしれないけれど、あなたは自ら望んでお妃候補になったのでしょう?そのせいで公爵や夫人に沢山迷惑を掛けた。それなら、これから公爵家がいい方向に進むためにも、自分が出来る事をやるべきだと思うわ。あなたと公爵の行動で、間違いなく王族はシャレティヌ公爵家にいいイメージを持っていない。もしかしたら、裏で公爵家を潰しにかかるかもしれないの。貴族界とはそうところよ」


「私のせいで…公爵家が危険に晒されるかもしれない?」


「そうよ、少なくともジェーン殿下が国王になったら、公爵家は冷遇されるでしょうね。自分が良かれと思ってした一夫多妻制を否定され、さらにさっさとお妃候補を辞退したあなたを、快く思っていない。あの王太子の事だから、国王になり自分に全権力が移ったら、きっと公爵家に嫌がらせをして来るわ」


確かにジェーン殿下なら、やりかねない。あの人は我が儘で、自分が気に入らない使用人たちは、容赦なく首にするような乱暴な部分があるのだ。私のせいで公爵家が目を付けられ、王家から嫌がらせをされたら…


考えただけで申し訳なくて涙が溢れる。


「私のせいで、公爵家に多大なる迷惑を掛けたのですね…私がお妃候補を辞退しなければよかった。いいえ、そもそもお妃候補になりたいだなんて、言わなければよかったのだわ。全部私の浅はかな行動のせいで…」


「フランソア、ごめんなさい。泣かないで。あなたを責めている訳ではないの。私は逆に、あなたがチャンスを与えてくれたと考えているのよ。この国を…王族を健全にするためのね。既にあなたの父、公爵はラファエル殿下派に加わり、今動いているわ。よほど娘を傷つけたジェーン殿下が憎いのね。公爵からデイズ様には連絡が行っていると思うし。それで今日は、家の夫が詳しい話をしに来たって訳」


「そうだったのですね…私の知らないところで、色々と動きがあっただなんて…」


「公爵もデイズ様も、きっとこれ以上フランソアに負担をかけたくないと考えているのでしょう。だからこそ、この話しはフランソアの耳には入れたくなかった。でも、私が全部話しちゃったけれどね」


そう言ってぺろりと舌を出しているルシアナお姉様。


「でもね、私はフランソアにも、この話しを知っておいた方がいいと思っているの。あの人たちはすぐに隠したがるけれど、あなたにも知る権利があると思う。フランソア、これからあなたが想像している以上に大変なことが待ち受けているかもしれない。でも、どうか逃げないでデイズ様と公爵を支えてあげて欲しい」


「もちろんですわ。私に何が出来るか分かりませんが、デイズ様とお父様の力になれるのなら、何でもいたします。ルシアナお姉様、色々と私に教えて下さり、ありがとうございました」


「どういたしまして。フランソア、もしかしたらあなたが、ジェーン殿下失脚の大きなカギになるかもしれないと、私は思っているの。ただ…公爵もデイズ様も、その事は絶対に望んではいないでしょうけれど…」


「お姉様、一体どういう意味…」


お姉様に確認しようとした時だった。


ドアがノックされ、デイズお兄様とシャーレス侯爵が入って来たのだ。


「フランソア、泣いていたのかい?シャーレス侯爵夫人、フランソアを泣かせるとはいったいどういう事ですか!」


私の涙の跡を見たデイズお兄様が、ルシアナお姉様に抗議の声を上げている。


「違いますの、昔の話をしていたら、なんだか色々と思い出してしまって。それで感極まって泣いてしまいましたの。でも、見て下さい。もう私は、人前でも泣けるようになりましたわ」


王妃教育で何度も叩き込まれた、人前で泣いてはいけない!というのを、克服したとすかさずアピールをしてみる。


「別に人前で泣く必要は無いよ。あれは僕の前では我慢しなくていいという意味だ。やっぱりシャーレス侯爵夫人と2人きりにするのではなかった。君は昔から気が強くて、言いたい事をズケズケというタイプでしたものね。きっとフランソアにもズケズケと言ったのでしょう」


「ちょっとデイズ様、誰が言いたい事をズケズケというタイプですって?あなたこそ、腹黒くてネチネチしていて、何を考えているか分からないではありませんか?」


「誰がネチネチですって!」


「2人とも落ち着いて下さい。ルシアナ、君は少し言いたい事を言いすぎだ。デイズ殿、妻が申し訳ない。フランソア嬢も、すまなかったね」


すかさずシャーレス侯爵が間に入ってくれた。


「いえ…こちらこそ、少し大人げなかったです。申し訳ございませんでした」


「私も…ごめんなさい」


デイズお兄様とルシアナお姉様もお互い謝罪している。


「話も済んだことですし、食事にしましょう。どうぞこちらへ。さあ、フランソアもおいで」


デイズお兄様が私の手を握り、侯爵とルシアナお姉様を食堂へと案内した。その後4人で楽しく食事をした。


そして2人は仲良く帰って行った。


「やっと帰ったね。それよりもフランソア、あの女に何か変な事を言われなかったかい?本当に大丈夫だったのかい?」


心配そうに私の顔を覗き込むデイズお兄様。


「特に何も言われませんでしたわ。主に昔の話に花を咲かせていた感じですわ」


「そうか、それならいいんだ。さあ、今日は疲れただろう。もう寝よう」


いつもの様に私の手を握り、歩き出したデイズお兄様。


私のせいで、デイズお兄様やお父様を危険に晒すことになってしまった事が、どうしても心に引っかかる。それと同時に、私の為にここまでしてくれるデイズお兄様を、私が支えられたら…そう強く思った。


ギュッとデイズお兄様の腕にくっ付く。


「どうしたんだい?急に甘えだして」


そう言ってデイズお兄様が抱きしめてくれる。この温もりを、私はずっと感じていたい。その為に、私は何をすればいいのだろう…

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