第20話 私はデイズお兄様が好きです

領地に来てから早1ヶ月。毎日伸び伸びと生活をしている。朝早く起きて牛の乳しぼりを手伝わせてもらったり、乗馬の練習をしたり、さらには街に出て観光をしたりしている。


この前は海にも行った。デイズお兄様は海を見るのが初めてだったようで、とても嬉しそうにしていた。相変わらず心配性のデイズお兄様は、私が海に足を付けて遊んでいると、すぐに飛んでくるのだ。


どうやら私が波に流されないか心配している様だ。その姿が愛おしくてたまらない。


この1ヶ月、毎日が楽しくて幸せでたまらないのだ。優しいお爺様やおばあ様、大好きなデイズお兄様、私たちを温かく見守ってくれる使用人たち。このままずっと、領地にいられたら…そんな事まで考えてしまう。


今も乗馬の練習中だ。


「フランソア、随分と上手にラミットに乗れるようになったね」


「はい、穏やかで私のいう事をよく聞いてくれるラミットのお陰ですわ」


そう、私はラミットという白くて穏やかな馬に毎日乗せてもらっているのだ。この子は本当に穏やかで優しくて、私を気遣ってくれる。まるでデイズお兄様の様だ。そんなラミットのお陰で、随分と上達した。


「ラミット、今日も乗せてくれてありがとう。しっかりご飯を食べて休んでね」


乗馬の後は丁寧にラミットをブラッシングして、大好物の干し草と人参、リンゴをあげて馬小屋を後にする。


「フランソア、この後はどうするんだい?また海に行くのかい?」


「ええ、もちろんですわ。見て下さい、デイズお兄様。この服を着れば、海の水にぬれても透けないのですって。おばあ様から教えてもらって、特注で頼んでいたものが今朝届いたのです。早速海に行って、泳いでみますわ」


「その様な物を取り寄せて…おばあ様もフランソアにそんな事を教えるだなんて…とにかく、海は危険なんだ。僕も行くから」


そう言って必ずデイズお兄様も付いてくる。


「お兄様、せっかく領地に来たのですから、お爺様と一緒に領地についてお勉強をされた方がよろしいのではないですか?そもそも領地には次期公爵になる為、お勉強をしにきたのでしょう?私の事は気にして頂かなくても大丈夫ですわ」


デイズお兄様が構ってくれるのは嬉しいが、ずっと私と一緒にいる。本来の目的でもある、領地経営を学ぶ機会を、私が奪ってしまっているのではと心配しているのだ。


「大丈夫だよ、お爺様から色々と学んでいるから。それに公爵領は幸い今、治安も安定しているし、人々の生活も豊かだ。だからそこまで気を張り詰める事はないのだよ。それに王都に戻ったら、また忙しい日々が待っているからね。領地では出来るだけゆっくり過ごして欲しいと、義父上にも言われているし」


「それならいいのですが…」


「もしかしてフランソアは、僕がいない間にこっそりと危険な事をしようとしているのではないよね?君は少し目を離すと、何をしでかすか分からない。昔のフランソアに戻ってくれたのは嬉しいが、その分心配事も増えたからね」


「もう、デイズお兄様ったら。私はもう子供ではないのですよ。確かに昔の私はお転婆でしたが、今は落ち着いています」


私は5年のも間、厳しい王妃教育を受けて来たのだ。マナーははっきり言って完璧なはず…


「ごめんごめん、それじゃあ行こうか。それにしてもこのワンピース、丈が短すぎないかい?君は公爵令嬢なんだよ。こんな短い丈のワンピースはやはりよくない。万が一別の男に見られたらどうするんだい?」


「大丈夫ですわ。公爵家所有のプライベートビーチで遊びますので。あそこは私達と使用人しかおりませんわ」


「それはそうだが…」


「それでは私は着替えて参りますね」


早速届いたばかりのワンピースに着替えた。あら?デイズお兄様がいらっしゃらないわ。まあいいか、先に行こう。そう思い、海へと向かった。


「冷たくて気持ちいいわ。せっかくだからもっと奥の方に行ってみましょう」


「お嬢様、あまり奥の方には行ってはいけません。危険ですわ」


「あら、大丈夫よ…キャァ」


調子に乗っていたら、足を滑らせて海にドボンといってしまったのだ。苦しい…どうしよう…海の中で完全にパニックになり、もがく事しかできない。


「フランソア!!」


誰かに腕を掴まれ、引き上げられ、ギュッと抱きしめられた。この温もりは…


「勝手に海に入ってはいけないと、あれほど言っただろう!どうして君は、僕を待っていられないんだい?本当にもう」


ギューギュー抱きしめながら、私に怒るデイズお兄様。


「デイズお兄様、ごめんなさい…うえぇぇぇん、怖かったです」


デイズお兄様にギュッと抱き付いた。さすがの私も、今回の件はとても怖かったのだ。瞳からポロポロと涙が溢れる。


「よしよし、これに懲りてもう勝手に海に入ってはいけないよ。ほら、もう今日は屋敷に戻ろう」


デイズお兄様にしがみつく私を抱きかかえると、そのまま屋敷に連れて行ってくれた。その後も私が落ち着くまで、ずっとそばにいてくれたデイズお兄様。私もなんだかデイズお兄様から離れたくなくて、ずっとくっ付いていた。


そんな私たちを見て


「フランソアはデイズ殿の前だと、随分甘えん坊になるのだね」


そう言っておばあ様が笑っていた。確かに私は、デイズお兄様の前では自分をさらけ出すことが出来る。こんなにも心から信用できる人はきっと、他にいないだろう。


私はこれからもずっと、デイズお兄様の傍にいたい。デイズお兄様が傍にいてくれるだけで、私は安心できるのだ。でも、こんな我が儘な私を、お兄様は受け入れてくれるかしら?


う~ん、きっとデイズお兄様にとっては、私は手のかかる妹くらいにしか思っていないだろう。まずは私の事を、女として見てもらう事から始めないと!

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