第10話 反撃
もうコイツと一緒にバイト入りたくないよぉ……。
JK恐いよぉ……。
ナチュラルに人をゴミ扱いしてくるよぉ……。
そんな日々に辟易としていたある日。
お客様が見たことも無い紙を持ってきてこう言った。
「これお願いします」
「……?」
なんだこれ、見たこと無いんだけど……。
どうすりゃいいんだ!?
対応の仕方を教わったことの無い、謎の申込書のような用紙。
もしかしてこのお客様、この紙を持ってくるコンビニを間違えてるんじゃないか?
たまにこんなことがあるんだよなぁ。
「あのぉお客様、ウチではこういったもののお取り扱いはしてないと思うのですが、コンビニをお間違いではありませんか?」
「えっ? ここテーヘンでしょ? 合ってるよ。ちょっと前にもやって貰ったし」
「えっ」
……謎、深まる。
っつってもこの紙、どう処理すりゃいいんだ!?
さっぱりわかんねーぞ!?
まさか藤野が知ってるわけ無いしなぁ。
そうは思ったが、品出し中の藤野を一応呼びつけて訊ねる。
「藤野!」
「なんですか?」
「この紙、何かわかる?」
「ああ、わかりますよ」
「えっ」
「わからないんですか?」
「うん」
「仕方ないですね、私に任せて下さい」
藤野ーっ!!
今日ほどお前を頼もしく思ったことは無いぞ!
なんて出来る子!
謎の紙の正体は、ネットで注文した商品の受取書をプリンターからお客さん自らプリントアウトしたものだった。
藤野曰く、とある企業との間で最近テーヘンが始めた、新しいコンビニ受け渡しサービスらしい。
無事接客を済ませてから、藤野がはてなといった表情を浮かべる。
「……おかしいですね、このことを青砥さんが知らないなんて……。先週、サービス開始の告知と対応マニュアルが事務所の机に置いてあったはずなんですけど……」
「え? 見てないぞ」
「じゃあ店長、全員見たと思って捨てちゃったんですかね」
……あのクズ店長ならありえる。
「あんのクズ店長……。何の説明も断りも無しに……!?」
普段であればそういった大事な告知事項がある場合、バイトやパートの者が目を通したかどうかわかるよう、それぞれがサインや判子などを捺す。
だが俺はサインなど書いた覚えはない。
そして、藤野はあるという。
……つまり。
犯人は案の定クズ店長だったことが後日発覚。
執拗に尋問した結果、マニュアルにジュースを溢したことがバレるのを恐れ、証拠隠滅したのだと白状した。
まさにクズだね!
せめて申し送りくらいしっかりやれよ!?
「ところで青砥さん」
「ん?」
「私のこと、褒めてくれてもいいんですよぉ?」
どやぁと、胸を突き出し、不遜な態度と鼻につく表情でアピールしてくる藤野。
巨乳がどうでもよくなるくらいムカつく顔するなぁコイツは……。
褒めたくねー!
だが助けられたこともまた事実。
俺は藤野の頭にポンと手を乗せ、髪をよしよしと撫でてやる。
それが彼女にとっては、かなり予想外の行動だったのだろう。
藤野は顔を真っ赤にして素っとん狂な声を上げた。
「――ふぇっ!?」
それから俯いて、恥ずかしそうにこう言う。
「ほ、本当に褒めてくれるとは、思いませんでした……。でもよしよしとか、私、子供じゃないんですけど。……でも嫌いじゃないですけど。あ、あとセクハラ?だと思うんですけど、まあそこは今回あえて言わないでおいてあげましょう。先輩の善意ですし?」
……やけに饒舌だな。
まあいい。
ここで満を持して、俺は藤野に言ってやった。
「お金を触った雑菌だらけの手で頭を撫でられて、そんなに嬉しいのか?変わってるなぁ藤野は?」
藤野の表情が一気に歪んだ。
「さっ!? サイテーッ! ちょっ!? 触らないで下さいっ!? 不潔っ!! ギャァァッ!?」
みなさんはお金を触った後はよく手を洗いましょう。
それを怠り、そのままトイレにでも行って、ちんちんなど性器をうっかり触ってしまえば、性交渉未経験にも関わらず性病に罹るという、珍しい事態に陥る可能性も現実にあるので……。
ちなみに俺は、既にその経験済みだ。
ある日病院にて、医者とこんな不毛な問答をした。
「ア◯ルセ◯クスしました?」
「――はあ!? してませんけど!?」
「嘘ついちゃってぇ! 恥ずかしがらないでいいんですよぉ? 風俗行ったんでしょぉ? お兄さぁん」
「いや、行ったこと無いですってば!?」
「またまたぁ!? お尻でしたんでしょ?」
「だからしてないですって! 正真正銘童貞ですからぁっ!?」
「でもア◯ルセ◯クスしないとこんな病気になるわけないんですよぉ? ア◯ルセ◯クスしないとぉ。大腸菌が尿道に入るなんてこと、ア◯ルセ◯クス以外にあるんですかぁ?それにお兄さんア◯ルセ◯クスが好きそうなア◯ルセ◯クス顔してるじゃなぁい?」
どんな顔だよっ!?
――このように病院であらぬ疑いを医者から掛けられ、惨めな思いをしたくなければ、皆もよく手を洗おう。
そう声を大にして言っておきますね。
……大きく脱線してしまったが、話をコンビニに戻そう。
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