第8話 お客様のあだ名問題
「そういえば青砥さん」
「なんだ?」
「コンビニ店員は特徴的なお客さんに、あだ名を付けるってホントですか?」
「……あまり大きな声では言えないが、本当だ」
「おー。ちなみにどんなあだ名があるんですか?」
「そうだな……。例えばあそこでずっとエロ本コーナーをチラチラ気にしながら、漫画の立ち読みをしている太ってTシャツがピチピチの青年が居るだろう?」
「はいはい! それでそれで!?」
ゲスな話題に目をキラキラとさせながら、藤野が頷きつつ先を促した。
まったくコイツは……。
「……彼のあだ名は」
「あだ名は……?」
「立ち読み君だ」
「……は?」
な、なんだそのリアクションは!?
せっかく満を持して俺が付けたあだ名を披露してやったというのに!?
JKにはこのセンスが伝わらないのか?
ならば――!
俺はなおも続ける。
「他にも今ジュースを選んでる、男か女かわからないスカートを穿いた髭の濃いお客様が居るだろう?」
「はいはい!」
「あの人は通称ストローさんだ! どんな飲み物でもストローを欲しがるからな!」
「……はあ」
なんだその気の無い返事は!?
あからさまにがっかりした態度はぁっ!?
笑うなり感心するなりリアクションしちゃうもんだろうがぁっ!?
――ええいこうなったら、とっておきだ!
俺はちょうど店に入ってきたばかりの、顔を真っ赤にして千鳥足でよろめく壮年の男にチラリと目をやってから藤野に言った。
「あのお客様……わかるな?」
「はい! なんなんですか? あだ名は!?」
「あの人は三番さんだ!」
「……あん?」
藤野から不満の色に染まったジト目を向けられる。
……まあ、そういうリアクションになるよな。
だが、すぐにお前にも「三番」というあだ名の意味がわかるぞ!
「三番下さい」
そう言って三番さんは自身がひいきにしているタバコの番号を言った。
ほら見ろ!
これでこいつも俺のあだ名センスの輝きに感心しただろう!
俺はドヤ顔を浮かべつつ三番さんのレジを済ませ、藤野に言ってやる。
「そういうことだ! わかったか!?」
「はい、わかりました。青砥さんのあだ名センスがゴミだということがよくわかりました」
「ええっ!?」
……ショックだ。
俺的には面白いと思ってたんだけどなぁ。
クスリと、藤野が微笑んだ。
「……なんだよ、そんなにゴミセンスな俺がおもしろいかよ」
「いえ、青砥さんの人の良さがよくわかる、悪意の無いあだ名だなと思っただけですよ」
その唐突な、しかも藤野からの褒め言葉に、俺はわかりやすく動揺してしまう。
「かっ――からかうんじゃないよ!? 年上をっ!?」
「別にからかってませんよ?」
藤野は意味深長な含みのある表情と声色で続ける。
「……本気ですし」
「そっ!? そういうのだよっ!?」
「あははっ」
小悪魔め……。
ほとんどの仕事が終わり、レジくらいしかすることが無くなると、藤野とはこのような他愛のない喋りをしたりもした。
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