第6話 パーソナルスペース

 藤野のヤツ、なぜ俺にだけ舐めた態度を……?

 むむぅ……。

 モヤモヤとしたものを腹に抱えたままでこの日は終わってしまったが、後日藤野にその理由を訊ねてみた。

 すると……。

「え? 態度が他の人と違う? 当たり前じゃないですか、私は人を見て判断してるんですから」

「ど、どういうことだ!?」

「舐めた態度を取っても平気そうな人にはそうしてるってだけですよ。ってこんなこと言わせないで下さいよ恥ずかしい!」

「恥ずかしいのはこっちだよ!? なんで俺そんなに舐められてるの!?」

「えー……雰囲気?」

「理由が漠然とし過ぎてて直しようがないんだが!?」

「別にそのままでいいんじゃないですか……ふっ」

「おい最後鼻で笑ったろ」

 つまり藤野の中で俺は、あのゴミよりも格下ということかーっ!?

 その事実は俺のプライドをへし折るには、十分過ぎた。

 っていうかオーバーキルですよ……。

 とまあ、なんだかんだとありながらも、藤野との勤務も板について来たが、それでもどうしても慣れないことが一つだけあった。

 それは――。

 俺はレジで袋詰めなどのサポートのため、隣についた藤野に言う。

 「いっつも思うんだけど、お前なんか近くない!?」

 藤野の距離感はおかしい。

 異様な程に近いのだ。

 俺はなおも続ける。

「肘ぶつけちゃいそうになるんだけど!? いいの!?」

「ならぶつけないよう引き続き気を付けて下さい!」

「いや離れろよ!? お前のパーソナルスペース狭過ぎだろ!? どうなってんだよ!?」

「なんですかパーソナルスペースって!?」

「心理的に他人に入って欲しくない距離だよ!」

「別に私のパーソナルスペースが狭くたっていいじゃないですか?」

「よくないよ! 俺のパーソナルスペースを侵してるんだよ!」

「なんで侵しちゃいけないんですか!?」

「そりゃドキドキす――」

 その時、藤野の口元がニヤァと上がったことに俺は気付き、直ぐ様黙った。

……が、遅かった。

「あららぁ? ドキドキ……なんですかぁ?」

「――くっ!?」

 コイツめ……。

 見た目だけはスペシャルに可愛い分質が悪いんだよな……。

 俺が黙ったところで、藤野は自分勝手にもこんなことを言い出す。

「っていうかパーソナルスペースって長いんで、今後はPSと呼びましょう」

「えぇ……。まだこの不毛な争い続ける気か? お前が少し離れれば済む問題なのに?」

「当然です!」

 結局この係争は現在も続き、俺の方ばかりがまるで毒状態のように継続的なダメージを受け続けている。

 解毒剤は無い。

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