第293話 七色のカーブを操る天才


 我らが龍宮高校は無事に二回戦も突破した。


 金子はなんと九回を112球投げて完封勝利。

 途中で交代も視野に入れてたんだけど、あまりにも今日の金子は出来が良かった。せっかくのチャンスだし、完封を狙ってみるかって事で続投させると、見事投げ切ったって訳だ。


 打線もレギュラー組がほとんどベンチにいる中で10点を取って快勝。先発全員安打も達成して、非常に気持ちの良い勝ち方になった。


 そんな中、俺はとっても不機嫌である。

 野次馬とのバトルで審判に注意されたからだ。どう考えても俺は悪くないと思うんだけど。野次馬の言葉に反応しちゃったせいで、こんな事になるなんて。


 「金子はご機嫌だな」


 「携帯をみてずっとニヤニヤしてるよ」


 どうせ掲示板でも見てるんだろうよ。

 俺は今日は見ない。絶対に野次馬バトルの事で盛り上がってるに違いないからだ。見ないったら見ない。俺はこんな事で話題になるのは嫌です。


 「次の試合で圧倒的結果を残してだまらせてやるしかないようだな」


 「フラグみたいになってるけど大丈夫?」


 心配ご無用。特級フラグ建築士の資格を持ってる俺だけど、特級フラグ解体士の資格も持ってるので。自分で建てて自分でへし折る。これが熟練者のやり方ですよ。



 俺達が滞在してる旅館に戻ってくると、金子くーんっていう黄色い声援が聞こえてくる。今日の試合で一気に株をあげたみたいだ。金子は顔を真っ赤にして照れてた。最近いい感じって噂になってるチア部の子にチクってやろうか。



 それはさておき、試合があった日の夜。

 今日の試合に出てた面々はわくわくしながら、テレビの前に待機していた。


 普段はクールぶってる速水が何回もメガネをクイクイしたりして、待ちきれないのを隠せてない。清水先輩も気にしてませんよって雰囲気を出してるけど、何回もテレビをチラチラ見てる。


 俺はそれを羨ましく後ろの方で指を咥えてみてるだけだ。良いもんね。次の試合が終わったら最前列で待機してやるもんね。


 そうこうしてるうちにスポーツニュースが始まった。他のスポーツの話題から始まって、プロ野球のニュースになり、そして最後に高校野球。


 黙って見てたみんなも高校野球のニュースになると大盛り上がりだ。そんなテンションでもう少し後に放送される高校野球専門の番組まで持つのかね? あっちの方が詳しく活躍が放送されると思うけど。


 「おお」


 清水先輩のホームランから始まり、一年ズや他の面々の活躍もさらっと放送される。一人一人の尺は短いけど、それでも全国放送。中々嬉しい事ではあるんだろう。むしろ俺達より親とかの方が嬉しいかもしれんな。


 もし俺が自分が親の立場ならうざいくらい息子自慢するに違いない。


 「金子の尺が長すぎん?」


 七色のカーブを操る天才とか言われてるよ? 普通に羨ましいんだけど。俺もそういうの欲しい。俺は父さんのイメージが強すぎて、二世って良く言われちゃうからね。別にそれが嫌って訳じゃないけど、なんか俺にもそういうあだ名というか、異名的なのが欲しいなって思っちゃったり。


 なんにせよ、これで金子の名前が一気に知れ渡ったんじゃないかな。とうとう金子も全国区へ。これであの過小評価気味な性格もなんとかなれば良いな。


 「俺の目標が出来たな。金子より長い尺を使ってもらう事」


 「俗物すぎるでしょ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る