第238話 チャレンジメニュー


 「サーコーイ!」


 「いよいしょー!」


 投内連携、打球処理の練習なう。

 こういう地味な練習が大事。自分を救う事にもなるしね。俺はでかい分足元が疎かになりがちだから、念入りにせねばなるまい。


 「豹馬君ってフィールディングが上手いっすよね」


 「そりゃな。これは練習で染み込ませれば、ある程度は形になるんだし」


 技術なんて必要ない。コツコツと積み重ねいけば、余程の運動オンチでなきゃある程度は出来るようになる。プロでもフィールディングが下手な人は甘えだと思ってるしね。

 これだけ結果が出る練習、他にないと思うけど。


 「セットからの投球も牽制も。自分を楽にする為に必要な練習だからな。疎かには出来ん」


 ランナーをほとんど出さない神宮の魔王ですら、この辺のプレーはしっかり練習してるんだ。

 それよりへぼちんの俺がサボれる訳がない。


 「お前もプロを目指すんなら、この辺の練習はしっかりしとくべきだぞ」


 「頑張ります!」


 うむ。今日も立派な先輩ムーブが出来ました。

 大満足でやんす。




 「パーン。新しく出来たラーメン屋さんに行こうよー」


 「ああ。近くのか。俺も気になってた」


 ウルがご飯のお誘いをして来たので、他にも何人か誘って行く事に。

 まぁ、結局いつもの元シニア組なんだが。金子は寮生活だしね。



 「見て見て! 四十五分で完食したら無料だって!」


 店に入ると、デカデカとポスターに『挑戦者求む!!』って書かれたチャレンジメニューが。

 まだオープンして一ヶ月ぐらいなのに、既に完食者の写真が…。


 「清水先輩じゃん」


 完食者第一号は清水先輩だった。

 何やってんだ、あの人は。


 「総重量6kg超え。誰が食えるんだこんなの」


 「清水先輩は完食したみたいだけど」


 大量の麺と野菜に味玉、チャーシューにメンマにワカメ。海苔もいっぱいあるな。写真を見た感じ。

 食える訳がねぇ。


 「失敗したら一万円だぞ。俺は無理。餃子と唐揚げも食べたいし」


 「僕もパスかな。炒飯食べたい」


 俺とウル、タイガマリンは普通に注文。

 レオンと隼人は挑戦するらしい。作るのに時間が掛かるみたいだけど、しっかり待つみたいだ。


 「先に食べるぞー」


 「ああ」


 レオンと隼人以外はチャーシュー麺の半ちゃんセット。餃子と唐揚げはみんなでつつきましょうって感じ。


 「唐揚げ美味そうだな」


 「やめとけやめとけ。腹のコンディションを整えておかないと」


 隼人が唐揚げを食べたそうにしてたけど、俺は止める。こいつ、馬鹿なのか?

 これからバケモノラーメンを食べるってのに、つまみ食いをしようとしてどうするよ。


 「うまっ」


 うん。普通に美味い。リピーターになります。

 学校近くに良いラーメン屋さんが出来たもんだ。


 「へい! チャレンジ二丁!」


 俺達がそろそろ食べ終わる頃にレオンと隼人のバケモノラーメンがやって来た。

 器がでけぇ。なんだこれ。こんなん売ってるのかよ。


 「「いただきます」」


 ストップウォッチを押してスタート。

 二人は凄い勢いで麺を啜り始めた。


 「大食いあるあるだよな。最初だけ勢いが凄い奴」


 「失速するまでがお約束だよね」


 俺とウルはニヤニヤしながら動画を撮っている。勿論ちゃんと許可は貰った。是非撮って宣伝してくれって言われたし。


 そして十五分後。

 

 「なんだ、こいつら」


 「い、勢いが止まらないね…」


 既に半分以上減っている。

 始めはいつ失速するのやらとニヤニヤしてた俺達だけど、少し引いている。


 「隼人が昔から食べるのは知ってたけど、レオンも結構イケる口なんだね」


 「ね。軽く汗を滴らせながら食べる姿は捗るわ」


 あそこは会話が成り立ってない。

 それでいて熟年夫婦の様な雰囲気を漂わせてるんだから凄い。お互いが適当すぎる。


 「えぇ…。スープまでいくのかよ」


 それから少しして。

 ズズズっとスープまで飲み干して無事完食。


 「「ご馳走様でした」」


 まだ三十分経ってないんだが。

 二人とも本当に完食しちゃったよ。

 どでかい器を持って記念撮影してる余裕の見せっぷり。なんなら唐揚げを追加注文している。

 二人の胃袋がバケモンって事が良く分かりましたね、はい。



 後日、またみんなで食べに来ると、大浦の写真が追加されていた。

 うちの野球部の胃袋がおかしすぎる。

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