第234話 対策


 「ほんとに突き指?」


 「ん? ああ。先生がなるべく動かさないようにって、ガチガチにテーピングを巻いたから大袈裟に見えるけど、そこまで心配する事じゃないよ」


 翌朝。

 いつも通り学校に向かおうとしたら、家の前に昨日のメンツが勢揃いしていた。

 なんだかんだ優しい奴らだぜ。いつも雑に扱われてる分、こういう一面を見せられるとすっごい嬉しい。自分でもちょろい人間だなと思う。


 「パン。その右手なるべく隠しておきなよ。マスコミとか他校に変に探られると面倒でしょ」


 「そうね。練習も室内ブルペンメインで表に出ない方が良いわ」


 タイガとマリンが俺の右手を見ながら言う。

 確かに。間違いなく夏の大会までには間に合うけども。変な勘繰りはさせない方がいいか。


 「それに昨日の紅白戦が既にネットで出回ってるらしい。それは別に構わんが、お前が怪我してると知れ渡ると、一二三が叩かれる可能性がある」


 「事故で仕方ねぇとはいえ、こんなんでも龍宮の貴重な戦力だからなぁ。憶測が憶測を呼んで、夏絶望とかガセを流されてみろ。一二三は間違いなく潰れるぞ」


 レオンはまだしも隼人が賢そうな事を言ってると違和感が凄いな。

 内心でそんな事を思いながらも、真剣な話をしてるので、俺は真面目な顔で頷いておく。


 「去年パンが三高戦で怪我した時もひどかったもんねー」


 「あれな。あれは俺が避ける方向を間違ったし、悪いのは全面的に俺なんだが」


 ウルが去年の夏を思い出してしみじみと呟く。

 一二三少年をあんな風にさせてはならない。

 不祥事とかで炎上するなら自業自得だけどね。

 プレー中の事故なんて防ぎようがないんだし。


 「って事はこの大袈裟に巻いてるテーピングも不味いな。なんとか隠したいけど」


 「隠す方が不自然よ。自然にしながら普段は私達が近くで右手をカバーするように動くしかないでしょ」


 ふむ。それが良いか。

 腫れは1週間ぐらいで引くらしいし、少しの間お手数をおかけしますね。


 「どうせなら渚ちゃんに腕組みでもしてもらって右腕を隠すとかどう?」


 「ぶっ殺されたいのか」


 おお。こわっ。

 冗談に決まってるじゃんか。

 向こうは中学生で学校も違うんだからさ。



 「み、三波先輩!!」


 放課後。部室から右腕をカバーしつつ、室内ブルペンに向かうと、顔を真っ青にした一二三少年がやって来た。


 「おお。一二三少年。これは気にしなくていいぞ。すぐに治るし」


 「そ、そうですか」


 一応突き指だって言ったんだけどね。

 ガチガチのテーピングを見て心配になったんだろう。一二三少年は中学時代を怪我で棒に振ってるしね。


 「まぁまぁ。どうしても気になるなら夏の東京予選で打って打って打ちまくって、俺達投手陣を楽にしてくれたまえ」


 「はい!!」


 真剣な表情をして一二三少年は室内ブルペンから去っていった。

 ふーむ。


 「輝夜さーん。一二三少年が無理しないように見ててもらっていいですかー?」


 「分かったわ。豹馬君は大丈夫なの?」


 「柔軟しかしないんで大丈夫です」


 なんか結果を出す為に無茶な練習をしそうな雰囲気だったので。

 俺のサポートの為に付き添ってくれてた輝夜さんにお願いして注意して見てもらうようにする。


 俺は昨日投げたしどうせ怪我してなくてもノースローだ。柔軟しつつ体をほぐしましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る