第122話 VS龍山1


 先頭バッターは一番のウル。

 甲子園初打席で緊張せずにいけるか。

 見た感じは大丈夫そうだけどね。


 相手ピッチャーは右投げのエースなんだけど…。

 正直、金子と同レベルか少し上って感じなんだよね。金子も十分良いピッチャーなんだけど、龍宮打線は打ち慣れていると言っても良いだろう。


 サイレンが鳴りプレイボール。

 ウルには初球から狙っていけと言っている。

 甲子園の初球なんて、8割方ストレートだと偏見ながら思っている。


 そして、案の定アウトコースへの真っ直ぐをウルは素直にセンターへ弾き返した。


 「綺麗なヒットだなぁ。打球も強かったし、冬の成果がしっかり出てる」


 「パワー不足がある程度解消されたよね」


 早速、甲子園初ヒットが出て龍宮ベンチは大盛り上がり。

 アルプスも沸きまくっている。


 「野次が凄いよなぁ。髪の毛切ってから出直してこいとかチラホラ聞こえるし」


 「でも柳さんが言ってたけど、ネットでは賛否両論らしいよ? 時代錯誤だとか、色々論争が起こってるみたい」


 確かに時代遅れだよなぁ。

 髪のせいで野球人口が減ってる説。あると思います。



 2番はタイガ。タイガを6番にして、大浦を2番。清水先輩を4番にするって案もあったんだけど、結局いつも通りになった。

 タイガが器用なんだよな。バントも出来るし、ケースバッティングも出来る。

 高校に入ってから、伸び悩んでる感があったけど、父さんのアドバイスと冬の練習のお陰で、着実に実力を伸ばしている。


 ベンチからのサインは好きにしろ。

 監督、早速采配放棄である。

 いや、勝負所ではしっかりサインを出すんだけど、けっこう自主性を重視してるんだよな。

 これも野球IQが高い人にしか、こういうサインは出さない。

 タイガは馬鹿だけど、野球に関しては知恵が回るので。


 サインを見たタイガは、送りバントの構え。

 龍山の守備陣形もバントシフトだ。


 初球、低目のストレートを見送りボール。

 一塁手と三塁手は猛チャージをしてきた。

 これは相当しっかり転がさないと、二塁で刺されるぞ。


 しかし、2球目。

 アウトコースへカーブを投げた所で、ウルがスタート。

 タイガは見送りストライクになったが、二塁は悠々セーフ。あいつの足を舐めてはいけない。


 「キャッチャーの采配ミスだろ。情報収集はしっかりしてるだろうから、ウルの足を知らなかったとは思えないし。遅い球を投げさせるのは悪手だとしか思えないな」


 牽制も入れてこなかったし、バッテリーは緊張して、テンパってるのかもな。

 こちらはチャンスだから、ありがたいけど。


 カウントは1-1。タイガは構えを変えずにバントのまま。

 そして、3球目のストレートをしっかり転がして送りバント成功。

 初回からワンアウト三塁のチャンスである。


 そして、迎えるは3番のレオン。

 すっかり馴染んだ木製バットを手にして打席に向かう。


 「相手バッテリーにはご愁傷様としか言えないな。なんか滅茶苦茶打ちそうな雰囲気がぷんぷんする」


 「なんかオーラ的なのが出てない? 俺だったら勝負避けるかも」


 「まだ初回だから、どうだろうな。向こうはテンパってるみたいだし、馬鹿正直に勝負してくれるかも」


 それに勝負を避けても、次は大浦、隼人、清水先輩と極悪の打線である。

 チビと言われてるのに、喜んでテンションがMAXの小さな怪物、打点乞食、ゴリラ。

 点が入らない事を考えられない。

 本当に、この打線は相手にしたくないな。


 そんな事を考えてると、4球目。

 外外外でバッテリーは明らかに勝負を避けていた。レオンの情報もしっかり集めてたんだろう。

 情報があるなら、その後の打線とも勝負しようとは思わないだろうけど、レオンより大浦の方が勝率があると思ったか。


 しかし、ここは甲子園。

 近畿勢贔屓だが、それでも熱い勝負を望む自分勝手な野球ファンは多い。

 戦略としては仕方ないんだろうけど、見てる側からすると、面白くないんだろう。

 ブーイングやら野次が飛んでくる。


 そして、バッテリーはその野次に屈してしまった。4球目をコースに入れてしまったのである。

 レオンがそれを見逃す訳もなく。


 しっかりとやや、アッパースイング気味で捉えた打球はライトスタンド中段へ。

 軽くガッツポーズしながら、ダイヤモンドを回るレオンに甲子園は大歓声。


 「すっげ。ファーストスイングで仕留めんのかよ」


 レオンの甲子園初ホームラン。

 先制のツーランホームランで龍宮高校が幸先良く先制した。

 

 

 

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