第19話 森の端


 妖狐と森を歩く事3ヶ月ほど。

 森の端をようやく見つけた。


 「なるほど。そうきたか。珍しいな」


 森を抜けたら海だった。

 砂浜もあるし、泳ごうと思ったら泳げそう。


 「そういえば、前世も含めて生で海を見るのは初めてだな」


 海がない県で育ったし、あの毒親達が旅行に連れてってくれる訳もなく。

 見たいと思う余裕も無かったわけだが。


 「うわっ。ほんとにしょっぱいな。なんか感動するや」


 「キュン!」


 海は塩水と知識にあったので舐めてみたら、その通りだった。

 妖狐も舐めてみてびっくりしてる。


 「ふーむ。これはあれかな? 進む方向間違ったかな?」


 一応、進化したら人里に行ける様に街道を探してたんだけど。

 見渡す限り海だし。


 「ってか、この世界に人間いるよね? 見た事ないから心配になってきた。魔眼の説明では討伐対象とかあったからいると思うんだけど」


 さて、どうしたもんか。

 ここで休憩しながら経験値稼ぎするか、逆方向に戻っていくか。


 「どうしようか?」


 「キュン?」


 波打ち際で遊んでいた妖狐に聞いてみるけどわからないよね。

 多分、簡単な言葉は通じてると思うんだけど。

 引いては戻ってくる波が面白いのかぴょこぴょこしながら楽しんでる様子に和む。


 「歩きっぱなしだったし、ここでちょっと休憩していこうか。妖狐も海が楽しいみたいだし」


 それにしても広い森だったな。

 いくら歩幅が小さいとはいえ、こんなに時間がかかるとは思わなかった。

 逆走して行くのが億劫になる。

 まあ、とりあえず今は海で遊ぼうか。




 海で泳いでると、【音魔法】の探知に反応があった。

 これは…大きいな。


 「妖狐、こっちおいで」


 妖狐が【念力】を使って水の塊をぶつけてくるのを避けながら声をかける。

 やっぱ【念力】ってロマンあるよね。

 応用もかなり効きそうだし。


 「キュウキュウ」


 犬掻きしながら泳いでくる妖狐を抱き、砂浜を目指す。

 海では戦いたくない。

 相手のフィールドだし、俺達も動き辛い。


 「うーん、こっちに向かってくるな。何かで探知してるのかな?」


 仕方ない。

 嫌だったけど迎え撃つか。


 

 『キラー・オルカ

  名前  無し

  【魔物能力】

  超音波

  水魔法

  環境適応

  海鋭牙    

  水流操作    』


 

 つよーい。

 能力5つもあるじゃん。

 しかも鯱って海では敵無しなんじゃないの?

 実質ラスボスじゃん。

 異世界ではどうなのか知らないけどさ。


 「妖狐は俺から離れるなよ。相性も悪そうだし」


 「キュン!」


 妖狐の【念力】は質量が大き過ぎるとかなり魔力を使う。

 最近は魔力も増えてきて、人型や小動物の首を捩じ切るぐらいなら簡単に出来る様になったけど、今回のキラー・オルカはかなりでかい。

 5メートルぐらいあるじゃないの?

 【火魔法】は言わずもがな。


 むむっ。

 【音魔法】がなんか変だぞ?

 良い意味でなんだけど。

 振動が伝わり易いというかなんというか。


 「いたたたっ!」


 「キュウ…」


 体に凄い衝撃波みたいなのをくらった。

 突然の攻撃にかなり焦る。


 「【超音波】か!」


 確か地球でも鯱は【超音波】を使って気絶させたりするって図鑑でみたぞ!

 俺も【音魔法】になる前は愛用してたしな。


 「あぶねぇ!」


 【超音波】で怯んでる間に、【水魔法】の水球が凄い勢いで飛んでくるのを慌てて避ける。


 「ソニックランス!」


 【水魔法】を避けつつ、俺も魔法を放つ。


 「やっぱり、水の中だと【音魔法】の伝わり方が半端ないな」


 キラー・オルカはかなりの大きさなのに、魔法が当たった瞬間、体に全体が打ち上がる。


 「そういえば、水の中の方が音って伝わり易いんだっけ」


 空気中では340m/秒だけど、水中は1500m/秒ぐらいだったはず。

 図書館さんありがとう。豆知識が役立ちます。


 「おらおらぁ!」


 俺は勝機得たりと【音魔法】を連打する。

 いつもなら、破裂したりするんだけどキラー・オルカは皮膚が分厚いのかなかなか倒れない。


 「しぶといな!! こうなったら!」


 身体強化で移動速度を速め、キラー・オルカに近付く。

 そして、【音魔法】を手に纏い飛び上がる。


 「よっこいしょー!」


 そしてそのまま一刀両断。

 ようやく力尽きた。


 「ふぃー。疲れた。うわっ! 海が血だらけだ! 勿体無い! 早く回収しないと!」


 俺は【血液魔法】を使って血を回収し、キラー・オルカを引っ張って砂浜に上がる。


 「結構体力使ったな。【音魔法】が水中で使い易いのが分かったのは良かったけど、やっぱり戦いにくかったな」


 「キュンキュン?」


 「うん? ああ、いいぞ。好きなだけ食え」


 今回は観戦していた妖狐がキラー・オルカを食べたそうだったので許可を出す。

 俺は血があれば良いっぽいんだけど、妖狐は普通に食料がいる。

 道中も、狼の肉を食べたりしていた。

 【火魔法】を覚えてからは、焼いたりして食べる方法を教えてあげると最近はよくしている。


 「キュンキュンキュン」


 ご機嫌な妖狐は置いといて、俺は血だ。

 初めての海の魔物はいかがなものか。

 いただきます。


 「う、う、うまーい! 過去1番! なんだこれ! めちゃくちゃフルーティー!」


 初めての味!

 今までは、同じ様な味に強さで質が上がっていく感じだったけど海の魔物は全然違う。


 「海の魔物だからなのか、強かったからなのか」


 海の魔物は、フルーティーな味が基本なのかな?

 で、強かったから質がそこそこ高いと。


 「これは森に戻る前に、海の魔物の血をストックしておかなければ!」


 どうやら、ここでの滞在が少し伸びそうである。

 

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