第8話:卑怯な挑戦と決意の決闘

 本当は父が半数の騎士団を率いて出られても何の心配もありません。

 四人の兄達は父に負けない偉丈夫を誇る勇者達です。

 叔父や従弟たちも、兄たちには劣りますが巨漢を誇る騎士です。


 隣国が周囲の事を考えずに、全戦力を投入してきたら危険ですが、そんな事をすれば、我が家に勝ってもその後で周辺国に袋叩きにされます。

 だから我が家は安全だと思っていたのですが……


「卑怯な行いで父を殺した腐れオーガ嬢!

 恥を知るなら私と一対一の決闘をしろ!」


 私が殺したわけではなく、父上が殺されたのに、シュナイダー侯爵家の令息が私に決闘を申し込んできました。


 それも、自分たちだけでやってきたわけではないのです。

 隣国の軍を援軍にしてやってくるという、卑怯極まりない行いです!


 隣国、ポルストン王国もよく考えた物です。

 父を殺された敵討ちの援軍なら、国内貴族を味方につけやすいだけでなく、周辺国も留守を狙っての侵攻がし難くなります。


 思い出すのも嫌なのですが、私が片手でジョナサン王太子の頭を握り潰した噂は、大陸中を駆け巡っています。

 シュナイダー侯爵家の令息は、本気で私に勝てると思っているのでしょうか?


 いえ、そんなはずはありませんね、勝てるとは思ってもいないはずです。

 先ず間違いなく卑怯な手を使ってきます。


 私と戦っている隙をついて、全軍突撃でもする気でしょうか?

 それとも背後や側面から奇襲を仕掛けてくるのでしょうか?

 ……敵軍と対峙している兄たちに油断はありませんね。


 私は目の前に卑怯者を斃す事に専念しましょう。

 騎士の決闘はランスを使いますが、敵は二メートルくらいのようです。

 一方私の使うランスは、怪力を利して鋼鉄製の六メートル。


「かかれ!」


 シュナイダー侯爵家の令息が叫ぶと同時に、左右後方にいた騎士十騎が、卑怯にも私に向かって突撃してきました。


 私の方は誰も助けにきません。

 ここで慌てて全軍前に出てしまったら、必ずどこかから奇襲を受けてしまいます。


「「「「「ギャッフ」」」」」」


 それに、十騎程度なら私独りで簡単に勝てます。

 軽くランスを左右に振り回すだけで、次々と落馬させられます。

 完全装備で激しく落馬したら、まず間違いなく首の骨を折って死にます。


 本当は人殺しなど絶対にしたくないのです。

 ですが、伯爵家の娘に生まれたにもかかわらず、政略結婚すらできないのです。

 戦う事で家の役に立つしかありません。


「ヒィイイイイイ、オーガだ、オーガ嬢だ!」


 覚悟を決めて、迎え討つだけでなく、此方から殺しに行くしかありません。

 ミュラー伯爵家の娘として、家の役に立つのです!

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