第18話 領地譲渡の契約
レッドアイ辺境伯の屋敷は、隣にギルドの総合事務所がある。一階が各ギルドの詰め所で、二階は従業員の部屋になっていた。
「ようこそおいでくださいました。ナタリーナ王女殿下、
屋敷の執事やメイドに案内されて、オレたちは客間に通される。
「使用人たちは全員、メイドだな?」
「そうですの。前にいた主人の召使いたちが、引き続き屋敷を管理なさっていますのよ」
使用人だからといって、立場が下なわけではないらしい。長寿の種族なので、ヘタな貴族より色々と物事を知っている。王族とのパイプもあるとか。
彼らは使用人というより、近衛兵みたいなものか。
「ナタリーナ殿下、キョウマ様、お茶をお持ちしました」
「よ、よしなに」
慣れない王族口調で、ナタリーナが感謝を述べる。だがすぐに、アツアツのお茶で舌を火傷していた。
ナタリーナに、オレが聞いた話を再度伝える。
「冒険者を募らないのか? 薬草採取なんて、専門家を呼べば」
「モンスターが強いので、配置できないのデース」
ハーバリストを守りつつ戦える環境でも、ないらしい。
「地道に領地を守っていくしかないのが、現状デース」
「こうやってお話をする機会も、この間ようやくできたところなのですわ」
そんなに、北ナマゾは大変なのか。
実際、抱えている冒険者は、九割が戦闘要員らしいし。
「ダンジョンは大きい感じ?」
「デスネー。かなり深いダンジョンのようデース」
北ナマゾには、何年かけても踏破できないダンジョンがあるらしい。
「わたしたちは結局、何をすればいい? そのダンジョンの攻略?」
「いいえ。領地の確保は、こちらが済ませていマース。発展をお願いしたいのデース」
畑に植える素材などは、ギルドの詰め所に預けているという。だが、育てるノウハウがない。
魔物のドロップアイテムを、現地で回り回って地産地消しているのが現状だとか。それも、限界がある。
そこで、オレたちに頼んできたわけだ。
「じゃあ、駅長も呼んでいいか?」
ハーバリストのペペルなら、植物に詳しい。
「OK。専門家は多い方がいいデース」
「人員配置は、おまかせ致しますわ」
それと、領地をもらえるという話だが。
「わたしは、自分の領地だけで手一杯。土地をもらうわけにはいかない。ただ、恒久的にこちらの手助けはする。それでいい?」
「もちろんデース。北ナマゾはモンスターさえ湧かなければ、肥沃な土地デース。まあ、豊かな土地なせいで魔物が大量発生しているのデスが」
ほぼほぼジャングルだもんな、ここら一帯は。
「領地計画としては、自然はそのまま残す感じにする」
ナタリーナの見解では、魔物の発生は押さえない方向で行くという。冒険者の稼ぎを考えて、決断したとか。
「変に湧き潰しをして居住区にしようと、考えない方がいい。人が住める場所ギリギリの範囲で領土を拡大して、あとは狩り場として活用する感じ」
「同感だ」
電車にばかり気を取られていると思っていたが、ナタリーナは全体を見通している。この土地をどう活用すれば発展するか、ひと目見ただけで把握しているのだ。
ひとまず仮契約という形で落ち着き、あとは現場をさらに観察して本契約を決めることになった。
数日後、ペペルを連れて現場へ。
「うわあ。珍しいキノコがたくさん!」
ギルドの倉庫に眠っていた大量のキノコをチェックしつつ、ペペルはメモを取る。
「この種類は食用です。身体にもよく、おいしいですよ。どうして流通させないので?」
「レストランを建てる余裕がないので。あと、食べてもらうにしても来ていただかないと」
「なるほど。運搬すると傷んじゃいますし」
ギルドにある食堂は、たいていが社食になってしまうという。
魔物だらけすぎて、この一帯は貴族などのエライさんが食べに来ない。王都やエルフでさえ、見捨てた土地だからなあ。
「海沿いに列車が走って、山の幸も海の幸も食べられる。なのに魔物が多いから誰も来ない。これは、もったいなすぎ」
「鹿の人も、そう思いますか? ワタシも、この辺りに食事処がほしいなと」
ナタリーナの意見に、ペペルも賛同する。
ちなみにナタリーナは、【認識阻害のフード】をつけたままにしている。
ペペルには、ナタリーナが【鹿の人】、つまりゴリマッチョのオッサンドワーフにしか見えない。
にしても、十分すぎる環境だ。日本で言えば、沖縄に近いのかな。
そんなぜいたくな場所なんだから、活用しない手はない。
「なるほど、沖縄と。おっしゃるとおりですね。狩り場としか、見ていませんでしたわ」
「ナイスデース。その方向でお願いしマース。魔物狩りは、ミーたちが」
夫妻がいいかけて、ナタリーナが制する。
「わたしたちも、手伝う」
「よろしいのですか、王女殿下」
「この辺りの魔物がどれくらい強いのか、確認しておきたい」
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