第34話 娼館再訪

 トーマスたちと合流した。


 ヒューイがトーマスに私が名前を覚えていた理由を説明して笑っていた。


 トーマスはヒューイの化粧姿を見て、うなだれたフリをして笑っていた。


 いいコンビだと思う。


 作戦会議を開いて、私、ヒューイ、リリア、ルミとトーマス部隊からトーマスを含めて十人で娼館に向かうことに決めた。


 ミーシャはいつものように連絡役として拠点に残り、残りの数名は先に客として娼館に入ることにした。


 少し前に偵察に行かせたところ、娼館は何事もなく営業しているそうだ。


 先発隊が客として潜んだ頃合いを見計らって出発した。


 時間はもうすぐ七時で、娼館街も賑やかになり始めていた。


 トーマスたちは五名ずつ二チームに分かれて、私たち四人の少し後について来ているが、激しい客引きにあって閉口している。


「ちょっと、私たちのお客さんよ、手を出さないで」


 見かねたルミが何度もトーマスたちを助けていた。


 ルミはシスターの恰好なのに、娼婦として、あれはアリなのね。


 例の娼館まで到着した。


 作戦通り、私、ヒューイ、リリア、ルミの四名で娼館に入っていった。


 トーマスたち護衛は外で待機してもらっている。


 私たちを見つけて、おかみがぎょっとしている。


「おかみさん、ソルゲは来ているの?」


 このおかみであれば、ゾルゲに本当に接触して、別の娘をあてがっていると思った。


「き、貴族様、お許しください。アードレー家の奥様に脅されていたのです」


 やっぱりお母様だったか。少し残念な気持ちになったが、心を切り替える。


 アードレー家の本名を使ったのは、そうでもしないと、影響力を発揮できなかったのだろう。


「その話は後でいいわ。今回は襲われても大丈夫なように配下をたくさん連れて来たわよ。観念してゾルゲの居場所を教えなさい」


 私は娼館の外で待機しているトーマスたちをおかみの視界に入れた。


 おかみの表情が固くなった。


「三階の特別室の馬車の部屋にいらっしゃいます。まだいらしたばかりで、お一人でお待ちです」


「馬車の部屋?」


 リリア、質問しなくていいわよっ。


「ベッドが馬車仕立てになっております。ダンブルから取り寄せたスプリング付きの高級品です。殿方は馬車の中ですると興奮されるそうで、スプリングがギシギシいうのも好評で、人気のあるお部屋の一つです」


 私がヒューイを見ると、首をブンブン横に振っている。そういう趣味はない、ってことかしら。


 しかし、私の発明がこんなところでも活躍していようとは。


「じゃあ、私たち四人で馬車の部屋に乗り込むわよ。妙なことをすると、おかみ、あなたも殺すわよ」


「は、はい。貴族様のおっしゃることに全て素直に従います」


「じゃあ、外にいる私たちの護衛の十人を中に入れるからね。馬車の部屋の左右の部屋に五名ずつ案内して。客は今何名いるの?」


「二階に八名います」


「そのうちの五名は私たちの配下よ。三階はゾルゲだけね。ゾルゲの護衛はいないの?」


「二階に二名お客さんとしていらっしゃいます」


「さっきのチンピラはこの娼館の手のもの?」


「いいえ、アードレー家が手配されたギャングの下っ端だと思います」


「娼館に用心棒はいるの」


「はい、一階の従業員室に二名います」


「死にたくなかったら、邪魔をしないようにきちっと言い含めてね」


「かしこまりました」


 おかみは慌てて従業員室に走っていった。


 あっ、行っちゃった……。馬車の部屋ってどこよっ。

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