第5話 回復術道場スタート!
無事にご挨拶が終わったら、次は挙式披露宴だ。
と意気込んでみたもののぶっちゃけ会合のお披露目と大差はない。私はともかく冬香は分家のお嬢様だよね? 芸能人がやるような何億円規模の披露宴とかやるんじゃ無いの? と思ったら「誰を呼ぶのよ。」と一蹴された。
そもそも今時豪華な披露宴は流行りじゃないらしい。
そんなわけで部屋こそ移ったもののメンツ的には午前中方々プラス私の家族程度。披露宴とは会合でもやった冬香と私の挨拶に加えて各家の代表、つまりお父さんとお義父様が挨拶をする程度の事であった。
式が終わったあと親族控室で廿日市家のみんなと会話する。
「想像と違ったわ。なんか卒業式の来賓挨拶みたいな感じだったね。」
「こら! かりん! お父さんは頑張って挨拶したんだから、そんなこと言ったらダメよ。」
「はは。私が失敗したら嫁ぎ先でかのんが肩身の狭い思いをするかと思ったら緊張したよ。」
「お父さん、ありがとう。お母さんとかりんも、来てくれてありがとうね。かりんが想像するような披露宴はもうちょっと後にやることになるかな? しばらくは冬香と一緒にお仕事頑張ってお金を貯めないと。」
「あら、式のお金なら出してあげるわよ? そのためにお父さんもお母さんも頑張って貯金してきたんですもの。」
「ありがとう。でも、式のお金だけじゃなくてきちんと『自立した夫婦』って示さないとダメなんだって。あと何年かで冬香が当主としてやっていけるって認められるくらいになったら披露宴していいよって言われてるんだ。」
「なるほどね、じゃあ二人で頑張りなさい。」
「ふふ、じゃあお姉ちゃんより先に私が豪華な披露宴を上げることになるかもねっ。」
「えっ!? かりんも結婚するのか!? お父さん何も聞いてないぞ!?」
お父さん……娘ラブなのに立て続けにそんな話をされたら焦るよねえ。かりんは「将来の話だよ。」って言ってたけど、そういえばこの子の恋人の話って結局聞けてないんだよね。これは伏線だな。知らないけどきっとそう。なんのだよ。
「そんなことより今日の私どう? かわいい? プロの方がメイクとヘアセットしてくれたんだけど!」
「あー、なんていうか冬香ちゃんがすごい綺麗でお姉ちゃんはその横のマスコット感が拭えないっていうか……。」
「確かに冬香ちゃん、綺麗だったわねえ。」
「お父さんはかのんが世界で一番かわいかったと思うぞ!」
「くそう! 私たちが開く披露宴では死ぬほどキレイになって度肝抜いてやるからな! 楽しみにしとけよ!」
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無事にお披露目を乗り切って粉雪のお家に帰ってきた。夕ご飯も頂いたら次はお風呂なんだけど……。
「かのん? お風呂空いたけど入らないの?」
「うーん、入らないとダメだよねぇ。せっかくのメイクを落としちゃうのが勿体無くて。シンデレラだって12時までは魔法が解けないんだよ?」
「ああ、玉の輿とかけてるのね。上手いこと言ったのは認めるけどお風呂入らない人とは一緒に寝ないわよ?」
「えっ!? 一緒に寝ていいの!? じゃあ入ってくる! めっちゃ洗ってくるわ!」
「やだなにこの嫁こわい。」
というわけでお風呂に入って念入りに体を洗う。へへへ、奥さん初夜ですってよ。
「というわけでピカピカになってきましたー!」
「はいはい、ご苦労様。」
冬香の部屋に行くと、彼女は広縁のテーブルに腰掛けてリラックスしていた。
「かのんも飲むでしょ?」
「これワイン? いいの?」
「頑張ったご褒美よ。今日までお疲れさま。
……粉雪の嫁として、満点の出来だったわ。」
「お褒めに預かり光栄っス!」
「明日からはしばらく粉雪の仕事を覚えてもらうスケジュールだったんだけど、あなた大体覚えちゃったのよね。
自由にしててって行っても暇になるだろうし、私と一緒に回復術の講習に行く? 有里奈さんも来るわよ。」
「行く行く。十和田さんの鬼スケジュールをこなした甲斐があったよ。」
「あの人が褒めるなんて珍しいって瑞稀さんも驚いてたわ。さすがかのんね。」
「……ちなみに冬香って白雪家の去年のキャッシュフロー丸暗記してる?」
「そんなの資料見れば分かるんだから、丸々覚える必要ないじゃない。グループ全体で見たら利益率10%ぐらいで増収増益だったことぐらいしか分からないわ。」
ですよねー? やっぱり十和田さんの鬼ノックだったんだわあれ。
「……かのんは粉雪の嫁としてどうしても厳しめの採点されちゃうから、何聞かれも大丈夫なようにしっかりとした教育をしてくれたのよ。そんな恨みがましい目で本家の方角を見るのはやめなさい。」
「はっ! つい。」
「ほらほら、美味しいお酒を飲んで嫌なことは忘れちゃいましょ。」
「はーい。……あ、これ美味しい。」
ゴクゴク。
「あらいい飲みっぷり。おかわりいる?」
「いただくー。」
ゴクゴク。
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気が付くと朝だった。ここは冬香の部屋……?
「おはようかのん、朝ごはん食べに行こ?」
「あ、おはよう……ねぇ、昨日ってさ。」
お酒をいただいてその後どうなったんだっけ? と聞こうと思ったら、冬香は顔を真っ赤にして俯く。
「ヤダ、朝から思い出させないでよ……。かのんったらあんなに激しかったのに、まだ足りないの?」
「はげ……っ?」
「もう、しばらくお酒は禁止だからねっ!」
そういってそそくさと部屋を出ていってしまう。
「やべ、なんも覚えてないとか言えない雰囲気……?」
というかお酒の勢いでやっちゃいましたかー!?
―そんな風に焦るかのんを見て冬香は小さく呟く。
「……私だって緊張してたのに、お酒をゴクゴク飲んでそのまま寝ちゃうなんて。これでちょっとはお灸を据えられたかしら。」
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食堂に着くとお義父様とお義母様は既に着席していた。
「おはようございます。遅くなって申し訳ございません。」
「おはよう。それじゃあ頂こうか。」
粉雪家では朝ごはんはできる限り一緒に食べるようにしている。昼と夜は仕事の都合で中々一緒になれない分、この時間を大切にしているとのこと。
「冬香とかのんは、今日から白雪の家かい?」
「はい。今日から有里奈さんの回復術講義が始まるのでそこに同席します。」
「私は冬香の付き添いですかね。」
「そうか。しっかりとな。」
「かのん、冬香のサポートよろしくね。」
「はい、お義父様。お義母様。」
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白雪家の敷地内にある道場。そこに集まった各家から派遣された回復術の候補の方々。
まとめ役の冬香。メイン講師の有里奈。
白雪家からは雫さんと双子の弟妹の総司くんと怜ちゃん。
雪守家から配下の宮島ヒカリさん。
上雪家から配下の宮島カイリさん。
名前で分かる通り、この二人は姉妹らしい。
そして下雪からは配下の悠木綾音さんと、なんと冬香の婚約者になる予定だった下雪家当主の三男の春彦さんだ。
これ気まずいってレベルじゃないな!? 半分嫌がらせだろ! と思うが意外と本人達は気にして無い雰囲気なので私が慌てても仕方ないかと思うことにする。こら有里奈! こっちみてニヤニヤしないの!
「皆様初めまして。瑞稀様より皆様に回復術を指南するよう仰せつかりました、久世有里奈と申します。」
有里奈が参加者一同に挨拶をする。
「皆様は念力自体は持っているものの、基礎的な身体強化術以外の発動に難がある方々であるという認識に間違いございませんか?」
有里奈の質問の仕方は間違ってないんだけど……ほら、なんか雰囲気悪くなってるじゃない。
「私の理解においては、回復術に適正があるということは他の術の適性が無いということになります。なので皆さんは決して才能がないというわけでは無いんですよ。ただ自分に合った伸ばし方を知らなかっただけなんです。」
煽ってるんだか慰めてるんだかよく分からん言い方をする有里奈。
「さて、まずはそれでは皆さんの適正について一人ずつ、確認していきましょうか。」
そう言って以前私が冬香の適性を調べた時のように、魔術が呪術か回復術かを1人ずつ確認していく。
結果、回復術に適性があったのは雫さん、総司くん、宮島姉妹と春彦さんの5名。怜ちゃんと綾音さんは呪術の適正であった。
「回復術に適性があった5名はこのまま私が指導しますね。残りの2人はどうしましょう……。」
有里奈が冬香の方を見る。
「このケースは予め予想していたわ。そのためにかのんに来てもらったんだし。」
えっ、聞いてないんだけど。
「もしも回復術以外に適正があった場合は呪術か魔術の適正になるってことでしょ? そうしたらあなたが指導するのが一番じゃない。大丈夫、瑞稀さんの許可は得ているわ。」
しっかりしてるなー、さすが冬香。さすとう!
「じゃあ怜さんと綾音さんはこっちに来て下さい。私が教えますんで。」
めっちゃ不安げな顔で私の方にくる2人。そりゃそうだよなあ、魔術が使えなくって回復術ならって思ったのにそれも適性なしって言われたんだから。ほら怜ちゃんはちょっと泣きそうな顔してる。かわいい子が悲しそうなのは可哀想だし、しっかりと不安を解消してあげないと。
「まずはお二人が何ができるか教えて頂いて良いですか?」
「……最初に言われた通りです。身体強化術以外はまともに使えません。」
「私も同じです。念力を飛ばしたりとかは全く出来ません。」
「身体強化はどのくらい出来ます?マラソン10km走っても疲れないくらいには強化出来てます?」
「……いいえ、そんな事ないです。」
「身体強化って外からの衝撃に強くなる術じゃないんですか? だから体力が増えるって事はないと思うんですけど。」
綾音さんの反論に頷く怜ちゃん。ああ、これはただ魔力を纏った状態を身体強化だと思ってるやつだ。
回復術と魔術、呪術のいずれにも身体強化術はあるものの実は全て別物である。
魔術での身体強化は2人の認識の通りで魔力で体を包む事で外からの衝撃を防いだり、攻撃力をあげたりする。
回復術の身体強化は単純に身体の運動機能を底上げする。これはこれで分かりやすい。
そして呪術の身体強化だがこれは少し特殊で魔力で自分の身体を操作する。言語化し辛いのだが骨格に沿って魔力の芯を作り、それを操作する事で体を動かすようなイメージが近いかもしれない。こういうと使いづらそうに思えるが呪術の身体強化は他の2つに比べて明確な利点2つある。
一つは、魔力のみで体を動かせるようになるということ。慣れれば頭の中のコントローラーでゲームキャラを動かすような感覚で自分の身体を動かすことすらできるようになる。ここまでになると体は疲れ知らずになり、先ほど10km走れるかと聞いたが100kmでも200kmでも走れるようになる。
二つめは自分の限界を超えて強化が可能という事だ。先日私が両腕を壊したブースト。あれは殴りつける腕を手加減なしで操作することでおよそ人間に可能な速さを超えて動かしたのだ。さらに私は魔術の身体強化も併用できるので相乗効果ドン! である。
魔力を体に纏っている状態でも多少は頑丈になるし、確かに魔術の身体強化とはその練度をあげたものなのだが、呪術と回復術の使い手がそれをやるのはぶっちゃけ魔力の無駄遣いである。
「……というわけでお二人のやってる身体強化はそもそも間違ってます。ですので今日は正しい身体強化を、と言いたいところですがこれって結構難しいんですよね。」
「いきなり間違っているって言われても……。」
「ええ、信用できないわけじゃないんだけど……。」
怪訝な顔を向けてくる2人。そうだよなあ、これまでやってきたことが間違ってるって言われても不安にしかならないよなあ。
「まあ初対面の人間に言われてもはいそうですかとはならないですよね。まずは簡単なやつからやりましょう。」
「簡単なやつ?」
「はい。『魔導人形』って術です。これの応用が身体強化になります。」
私は黒服さんに小型のぬいぐるみを3つ、持ってきて貰えるようにお願いする。
「ものが届くまでお二人の魔力……念力を見せてもらっていいですか?」
「見せるって?」
「とりあえず全身を循環させてみてください。」
怜ちゃんと綾音さんは顔を見合わせる。
「あれ? 意図が分からないですかね? こんな感じです。」
そういって私は魔力を練る。そのままどんどん魔力を強くして全身を循環させる。
「はい。じゃあお願いします。」
……あれ?
「あの……。えっと、すごく言いづらいんですが……。かのんさんの体の中で念がグルグル回っているのは分かるんですが、それってどうやるんですかね……?」
「私もそれのやり方、分からないです……。」
まじか! そこからかぁー!
「わかりました! そこからやっていきましょう!」
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昼食は大きな食堂で全員集まってとることになる。
私は冬香と有里奈の間に座ってお昼ご飯を頂く。
「どう? 順調?」
「とりあえず魔力循環からかな……感覚的なモノだから口で言っても伝えづらいんだよね。有里奈は?」
「同じくね。ただ今後を考えると安易に感覚共有で覚えさせるべきじゃないのよね。」
「あれって危ないんでしたっけ?」
「私やかのんがやる分には何も問題ないわ。ただ中途半端な実力の人がやるとちょっと危ないのよね。」
「変な癖がある人がやるとね、その癖が移っちゃうんだ。いつまで私や有里奈が先生できるか分からないからノウハウとしては自分で魔力を感じて回せるようになるのが一番なんだよね。」
「とはいえ、あまり長時間成果が出ないのもマズいわよね。冬香ちゃん、いつまでに何人って目標はあるのかしら?」
「具体的な数字は言いつかってませんが……。私は二週間でそこそこ使えるようになりしたが、それは一つの基準にされているかも知れません。」
アチャーという顔をする有里奈。
「あなたはある意味理論値よ。十分な才能があって、癖が全くない状態からかのんが感覚共有で魔力循環を教えて、私も感覚共有で術を教えちゃってるからね。」
「……感覚共有無しだとどのくらいかかるんですか?」
「人によるけど、私は最初の術を覚えるのに1ヶ月とかかかったかしら。かのんは?」
「術によるかな。簡単な術は一週間とか。でも最初の頃はどうしても時間がかかるよね。」
「そんなにかかるものなんですね! なのに私は感覚共有で次々と教えて頂いて、なんか申し訳ないです……。」
「それは気にしなくていいわよ。あなたはかのんの大事な人だからね。でも他の人には同じようには教えるつもりは無いから、みんなには地道に覚えてもらうしかないわね。」
「はい! よろしくお願いします。
かのんも呪術の先生がんばってね。」
「え、あ、うん。」
「なあに? 歯切れが悪いわよ?」
「うーん、なんか2人に警戒されてるような気がするんだよね。」
「なんだ、そんなこと。私だってバリバリに警戒されてるわよ。」
「有里奈も?」
「考えてもみなさい。これまで念力っていうのは白雪にだけ許されてきた秘術だったのよ? それが急に外から講師を呼んで、しかもあちらの常識を覆すような話をしてるんだからそりゃあ警戒するなっていう方が無理な話でしょ。」
「それもそうか……。」
「まあ、結果で認めてもらうしか無いわね。」
「とりあえず魔力循環できるようになってもらって超感覚だけでも覚えてもらったら時間的な問題は解決するんだけどなー。」
「かのん、あなたがワーカーホリックなのはもう諦めてるけどナチュラルに他人にそれを期待するのは止めなさいね?」
「ほ、ほぇー!」
「……35点。」
5点下がった!
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