秘宝。
カルシュは、やがて大分地下へとおりてきた。村人たちはおそってきたが、やけに足が遅かった。地下へと進むと、最下層だけは明かりがともっているらしく、暗視ゴーグルは不要になった。
カルシュ「はあ、はあ」
サトナ「ふう、ふう」
呼吸を整える。サトナは、カルシュの手をふりほどいた。
「もう、ありがとう、私の事はいいから、あなただけでも……きっとあなたなら、あのお姉さ……」
それは、一瞬のことだった。背後から現れたなにものかの小柄な影、突き当りの左右に分かれる道の左からそれは現れ、それが何者かと気づいた瞬間。カルシュはさけんだ。
「キリ……!!!」
それとほぼ同時に、その少女は長く黒い触手をのばし、にやりとわらった。触手は横なぎに、すさまじく鋭利なはものとなって、サトナの腹部に食い入った。やがてそれは、腹部の端から端まで走ると、容易にサトナの上半身と下半身を切断した。回転する上半身。
「サトナアアアアア!!!!」
「やめて!!!!ご主人!!!」
カルシュがキリにあゆみよろうとするのを、小さなアームをよっつのばしてなんとかとどめるロジー。
「あれは!!あれはまずいです!!!近づかないで!!サトナの言葉を信じて、前に進みましょう、もうそれしか“生き延びる道”はないんです」
涙を流し叫ぶカルシュ
「生き延びたって意味なんて……」
「あなたが決めたんでしょう!!!!どんなに苦しくても自分をおいつめて、キネクのために、生き延びるって!!」
カルシュは、それをきくと、すっと力をぬいた。目の前で、奇妙な化け物、顔の側面が口になり、からだのほとんどがタコのように触手になった怪物、キリだったものが、サトナをくちにはこび、バリバリと食べ始めているのを、カルシュは笑ってみながら。ふりかえり、走り始めた。
その頃、カルシュの母星では、リグラ神父が神に祈りをささげていた。
「神よ、ありがとうございます、私たちを、お守りくださって」
すさまじい足音、それらはカルシュをおっていた盗賊のものだったが、すぐに異変を察知して、立ち止まる。キリは、ちょうどサトナの足をたいらげた瞬間だった。
「ああ、おいしかった」
そういうと、今度は盗賊の一人の足を掴んで、頭からぼりぼりと食べ始めた。盗賊たちは銃を乱射したり、叫んだりした。
「化け物!!化け物めえ!!」
だがそのキリだったもの、はすさまじくつよく、何十人もいる盗賊の首をほぼ一瞬ですべて跳ねてしまったのだった。
カルシュはどうやら、地下の最下層らしき場所にたどりついた。道は一本道でひどくせまい。そして奇妙な腐臭と焦げた匂いがする。その突き当りで、二人の巨漢がおり、こちらに拳銃を構えた。カルシュは注射器を取り出し、腕にさした。
「うおおおおお!!!」
一斉に放たれる弾丸、すさまじい速度。だがカルシュは地面をとおりすぎ、壁面をはしり、ついには天井を走り、それをすべてかわすと、彼らの頭上までいき、着地、と同時に足技をきめた。
《キィン!!》
男たちは何がおこったかわからなかった。ただ弾丸が発射できないことはわかる。ライフルの突端が鋭いなにかで切られていたからだった。カルシュの足をみる。そのかかとから、鋭い刃がつきでていた。
「みるな!!!」
カルシュはすさまじい眼力で男たちをにらむ、すると男たちは、その場から悲鳴をあげて走り去っていく。やがてカルシュは、その部屋の前にたち、立ち入ろうとした。そのとき。
「ちょっと」
ポンと、肩をたたかれる。温かい、そして柔らかな手だった。
「私も、つれていって」
そこには息を切らせたミユナの姿があった。
「でも、危ないから」
「じゃあ、部屋の隅でまってて……」
カルシュは、そういって中に入る、ミユナも後を続いた。ずんずんろ奥に入ると、その途中で声がきこえた。
“ちょっとまって……カルシュ”
「ん?」
“あなたに質問があるの、その答え次第では……”
「ふむ」
そういわれてもカルシュは毅然とした様子でいた。その時、今度ははっきりとミユナにも聞こえる声で、宝箱から声がひびいた。
「あなたは、何のために生きているの?そして、キネクの問いかけが何だったかわかる?」
カルシュは、一瞬ふさぎこんだようにうつむいた。だが次の瞬間、こぶしをにぎった。
「今ならわかる、キネクは、俺の空っぽの自信や、無責任な後押しがつらかったんだろう、でもだからそれを“才能”とよんだ」
「じゃあ、あなたは何のために生きるの」
「俺は……少女たちの弔いのために生きる」
カルシュは、まっすぐと前を見つめる。その顔はきりっと、まえをみつめ、いつもの気力のないカルシュではなく、力強いカルシュの姿だった。
「プッ」
気の抜けた声がひびく。
「プハハハハハ!!!」
カルシュは不正解に怯えた。
「いや、なんでもないのよ、正解なんてなかったの、これは、あなたの気迫と気力を見るテストなの」
そういうと、宝箱は自動で開き、なかから古代遺跡の壁画のような、それでいてSFチックな装飾のほどこされた、青色がベース、黄緑のラインが走る、普通サイズの拳銃が現れたのだった。
「これが、宝?……」
「そこまでだ!!」
ふと、背後から声がした。そこには、長老の姿があった。カルシュは、拳銃の声をきいた。
“構えて……”
トリガーをにぎる
“3”
目を見定める。
“2”
肩に力をこめる。
“1”
手をまっすぐに。
長老が目をつぶった。その瞬間。カルシュはその脇を通りすぎて、全速力ではしりだした。
「しまっ」
長老が気づいたときにはすでに、カルシュは地上への階段を全速力でかけ始めたあとだった。
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