第19話魔女装備をゲットしたぞ!
「ごめんなさい……わかりません……許してください……もう限界なんです……これ以上は死んでしまいますう……」
「わからない?そんなことはないでしょう?自分のことでしょ?なんでそんなこと言うの?どうして?」
私は彼女の追求から逃れようと残った脳細胞をフル回転させる。
そしてピーンと思いついた。そうだ……ここで異世界人らしく振舞えばいいんだ。
「えっとですね……その……すみません……ま、魔法です……。魔法の力、初めて見るその力に恐れをなしたのです。どうかお慈悲を……」
「へえ、魔法?あなた、その年になるまで一度も見たことがなかったんだ?また嘘?また私を騙そうとしているの?」
「いえ、本当に!私は魔法を見たことがありません!私は魔法の存在しない異世界からやってきたんです!」
「……」
「私は異世界から来たんです!」
「……はぁ?」
「信じてください!お嬢様!」
地面に顔をつけたまま必死に懇願する。魔女の顔を見ることは出来なかった。あの邪鬼のようなおぞましい顔を向けられるのが怖かったからだ。
魔女はしばらく沈黙すると、ぽつりと呟いた。
「……お嬢様?」
「え、は、はい、お嬢様でございます!」
「私が?私がお嬢様なの?」
「はい!そうでございます!」
「私が……?」
「はい!あなたはお嬢様に間違いございません!」
「……本当に?」
「はい!お嬢様!本当に!」
「………お嬢様」
魔女は深いため息をつくと、私の顔を冷たい棒のような物で撫でる。
「いいわ。信じてあげる。顔をあげなさい」
「へへへっ!ありがとうございます!」
私は魔女の言葉に従い、土まみれになった顔をあげる。
そこには尖った氷の杖を持ち、私を見下ろす魔女の姿があった。その表情は先程までの狂気に満ちたものではなく、どこか憂いを帯びたものだった。
「ふぅん、私がお嬢様なんだ……」
「はい、お嬢様!度重なる御無礼をお許しください!」
「……もう嘘ついちゃダメよ?おじいちゃま……」
「はい!今日から私は正直者の正太郎でございます!」
「ショウタロ……?まあいいわ、そこまで言うなら許してあげる。だけど、嘘をついたら、今度はもっと酷い目に遭わせるからね?それでね、おじいちゃま、別の世界から来たのって本当なの?」
「は、はい、私は愛知県の名古屋という街に住んでおりました。しかし、実験中のアクシデントか何かで気がついたらここに居たのです」
「アイチ?ナゴヤ?知らないなあ……聞いたことないや」
「はい、この世界には存在しないと思います!」
「そうなんだ……確かにこの村の人たちとは顔立ちや骨格が違うものねぇ。それに、その服だって見たこともないデザインだし……」
魔女はそう言いながら私の体に巻かれた藁を氷の杖でべしべしと叩く。
「これは……その、この世界に来た時に裸だったので藁を巻き付けただけと言いますか……」
「あらそうなの?かわいそうなおじいちゃまね。じゃあ、どうしよっかな」
「え?あの、お嬢様、どうしようとは……?」
「えーっとねえ、私からおじいちゃまに服をプレゼントしたいのだけど、どんなのがいいかしら……?」
「そっ、そんな、お嬢様!ととと、とんでもないです!お気持ちだけで十分ですよ!」
「ううん、ダーメ。それじゃあ私の気が済まないから。ねえ……おじいちゃま、さっきは怖かったでしょ?痛かったでしょう?私も悪いことをしたら謝らないといけないよね?だから、はい、これで仲直りしましょ?ね?」
「お、お嬢様……い、いえ本当にそんなお気遣いは無用というか大したことはありませんでしたから……ですから、その……私は大丈夫なんでどうか、どうか私のことはお構いなく、はい」
「……何よ大したことって。さっきは死ぬだとかもう限界だとか言ってなかった?……あれは嘘?ねえ?嘘なの?ねえ?」
「ひぃいっ!?ごめんなさいごめんなさい!怖かったです!!本当に死ぬ寸前でした!!許してくださいお嬢様!!何卒!何卒!!」
「もお……おじいちゃまったら……嘘ついちゃダメよ。ほらほら、遠慮しないで受け取ってちょうだい。私からの贈り物なんだから。ねえ、お願い。おじいちゃまだって新しい服が欲しいでしょ?」
「……は、はい、欲しいです。お、お心遣い感謝いたします。ではお言葉に甘えて、頂戴させていただきます……」
「ふふん、はぁいどうぞ。じゃあさようなら、おじいちゃま」
「へ?」
魔女は満足げに微笑むと、杖を握る手の小指を軽く振る。
次の瞬間、私の肌が粟立ったかと思うと、全身が輝くような真っ白な衣に包まれた。
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