第14話想像上の乳輪
「ほら、アズマーキラよ。着いたぞ、さっさと起きろ」
「ぶむぼごっ!」
地面に投げ転がされ頭を石ころにガツンとぶつけると、そこで初めて自分が気を失っていたことに気がつく。慌てて顔を上げると目の前にはとんでもない光景が広がっていた。
老人の話は嘘ではなかった。
先程まで滞在していた大分県みたいな村は魔物の群れにより蹂躙されていた。
家々は破壊され、畑は踏み荒らされ、あちこちに瓦礫が散らばり、そこかしこから煙が上がっている。
「あぐもごも!(うっ、うわーこりゃ酷い!)」
魔物の姿ははっきりと確認できなかったが、前方にはいくつかの巨大な影が見え、辺りからも凄まじい咆哮り声が聞こえてくる。
「おい、お前は村人を探せ。私はあいつらを片付ける」
彼女はそう言うと鞘から巨大な刀身を抜き放つ。
ラ・フエンテ・デ・サングレの血塗られた刃はカリエンテの髪のように赤く煌めき、見ているだけで魂が凍りついてしまいそうなほどの殺気に満ち溢れていた。
「むもごもご!(はい、かしこまりました!)」
私がそう返事をすると、カリエンテは稲妻のような速度で駆け出す。もっとも彼女は今、透明なので私からは剣が勝手にすっ飛んで行ったようにしか見えないのだが。
まあいい、自分の仕事をしよう。生き残りの連中を探さねば。
しかし下手に動いて魔物に見つかってはかなわない、慎重に行動だ。
私は手近な小屋を目星を付けると慎重に扉を蹴り飛ばす。私の想像では扉は慎重極まりなく弾け飛ぶはずだったが、意外にもびくともせず、逆にあっさりと吹き飛ばされてしまった。
「むが!(うげ!)」
その時私は自分の口に焼き魚が突っ込まれていたことにようやく気が付いた。さっきから喋りづらかったのはこれのせいか!
「はあ……」
私は口から焼き魚を引き抜くと、ため息をつき呆然と立ち尽くす。私はこれからどうなるんだろうか。
今はトウメインが残っているので何とかなるだろうが、トウメインだっていつかは底をつくだろう。そうなった時、魔物に鉢合わせでもしたら……。
さてどうするか?
次の異世界転生に賭けてさっさと死んでみるか?
だが、転生した先がここよりマシな保証などない。ならば醜く足掻いてでもここで生き延びるか?
いや、どんな世界だろうと私の居場所など最早どこにもないのではないか?ならあれこれ考えても無駄じゃないか。死ぬのも生きるのも同じことではないのか。
その時、脳裏にカリエンテの巨大な乳房が浮かぶ。
そうだ、まだ乳輪すら拝んでいないというのに死んでたまるものか。どうせ散るのなら一つでも思い出を作ってから死にたい。
「うぉおおおぉぉぉおおおっっ!!!」
私は思いっきり地面を蹴り上げると、一直線に扉に体当たりする。
そしてそのまま無様にも弾き飛ばされた。現実は厳しい。
くそっ、異世界なんだからもう少し私に都合が良くてもいいじゃないか。
地面に転がり悶えていると、小屋の扉の内側からゴツゴツと叩くような音が聞こえる。やはり中に誰かいたのか?
私は立ち上がり、恐る恐るドアノブに手をかける。体当たりした時とは反対の方、つまり自分の方にドアノブを引くと、扉はあっさり開いた。
「ぽぶ、ぽぶご、ごご」
おお、見ろ。扉の向こうには子豚のような生き物がいる。
そいつは不思議なことに額から角を生やしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます