第8話罪深き女神、その名はカリエンテ

「正直なのは嫌いではない。しかし次からは私の許可を取れ」

「へへーっ、かしこまりました。へへっ、ぶひへへ……」


「ふん、まったく……まあよい。では次はこれを私の顔でやってみろ」

「……へあ?」

「聞こえなかったのか?次は私の顔で試してみろと言ったんだ」


「ははーーっ!しかしながらカリエンテ様、高貴な身分にある方の御顔を撮る場合、作法というか掟というものがございまして……」


「どういうことだ?」


「はい、まずはですね……こうして、指を開きまして、そうそうそうそう……はい、そのまま、ああーいいですね~」

「こ……こういう感じか……」

「そうそうそうそう!あーっ、すごい!すごいですよ!おお!私は見た!彼方の地に燃え上がるような美の結晶を!罪深き女神!その名はカリエンテ!」


「ばっ!?いっ、言い過ぎだ馬鹿者」


彼女は気分を良くしたのか、恥ずかしそうに髪をかき上げると私の言う通りにポーズを取る。そして何枚かの写真を撮らせてくれた。


「はい、こっち向いてー!そうそうそう!そのまま四つん這いになって……そうそうそうそう!はい、ニッコリ!あーっ、子猫ちゃんいい笑顔ですよおー!」


「……お、おい!お前の言う高貴な身分の連中は本当にこのようなポーズで写真とやらを撮るのか?特にこの、指を蟹のように開き、白目を剥いて舌をだらんと垂らす様子など……まるで獣ではないか」


「疑問は当然でごぜえやす。ただ、こうすることでより美しさが増すといいますか……特にあなたのような高貴な方は何をやっても美しいものですから」

「お前の言うことが本当だとすると、お前のいた世界とやらは狂ってるとしか思えんな……」


「はい、仰る通りでございます。この世界でカリエンテ様にお仕えできて私は今生におきまして初めて心の平穏を得ることができたかもしれません。おっと、へへっ、私としたことがすっかり舞い上がってしまっていたようです。申し訳ありません。それでは改めましてカリエンテ様、ここいらで一発、景気づけにすっぱだかになっちょくれやす!オールヌードでドカンと一枚いっちゃいましょう!」


「調子にのるんじゃない」


「ははっ、すみません!調子に乗ってしまいました。それにしてもカリエンテ様の御佩刀(みはか)しのその剣、大変見事な業物でございますね」

「この剣のことか?」

「はい。そのような豪奢なものをお持ちということは、さぞかし名のあるお家の御息女なのでしょう。ぜひ拝見させていただきたいものです」


私は目の前の野蛮人に気に入られようと徹底的に媚びへつらうことにした。


幸いにもこの女は褒められることにあまり慣れていないようで、へりくだった態度で接する私に徐々にではあるが心を開いているようだった。

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