第2話この道は舗装されていないようだ

それにしても、異世界か。

私は辺りを見回す。


私も科学者だ。


奇妙な現象、新たな習俗、複雑な女心、興味がないと言えば嘘になる。

私はこれまでの知識と経験、そして知性を総動員し、周囲の状況を推測していく。まずは状況を整理しよう。


ここは街で間違いないようだ。

街と言ってもそれほど大きくはなく田舎町のように見える。いや、村と呼んだ方が適切だろう。


人通りは少ないが、活気がないわけではない。

見すぼらしい粗末な恰好をした人々がガラクタを乗せた台車を引き、忙しなく走り回っている。

裸に藁を巻き付けただけの不気味な老人がいても、特に気にも留めていない様子だ。


しかし、ここまでなら異世界感はないだろう。

なんだ、大分県とたいして変わらないじゃないかと感じる人も多いかもしれない。


だが、地面が明らかにおかしいのだ。人の足で踏み固められた土がむき出しになっている。

ペイヴメント、すなわち舗装された路面が見当たらないのだ。

まるで未開の地のようではないか。いや実際そうなのかもしれない。

しかし、それだけなら大分県とたいして変わらないと感じる人も多いかもしれない。


いや、大分県とは決定的に異なる部分があるのだ。

遠くに見える穴まるけの岩山からは、延々と煙が立ち昇っている。そしてほんのりと香る硫黄の香り、これは間違いなく温泉だ。

周辺に自然湧出の源泉でもありそうな雰囲気がびんびんと漂っている。


どうだろう、これならば大分県とは似ても似つかない場所だと考えるのが妥当でないか?

私は目の前に広がる光景に圧倒されながらも、なんとか冷静さを保ちつつ、考えをまとめていく。


「どうした、爺さん。ぼーっとしたりして……」

「あ、ああ、いや……ここが大分県じゃないかと思ってな……」

「オーイタケ?どこなんだそこは」


「な、なな、なんでもない。き、気にするな」


危なかった。つい、うっかり口走ってしまった。

もしここが本当に大分県で、私が別の世界から来たと知られてしまったらどうなると思う?


例えば、いきなり襲われたり、捕まえられて見世物になったり、解剖されたり、拷問された挙句、殺されたり、と大変なことになるに違いない。

私は慎重に言葉を選びつつ、老いた男との会話を続ける。


「それにしてもご老人よ、あんた相当変わり者なんじゃないか」


「え?何でわかったんだ? 村のみんなから変わり者だとよく言われるよ」

「だって、あんた以外の誰も裸に藁を巻いているだけの私に注目してないぞ。でもご老人、あんたは違う。裸の私に声をかけてくれた。ということはつまり、あんたが変わっているということだ!」


「ははは、そりゃそうだ。みんな忙しいんだから他人のことなんか構ってられないさ」

「確かにどいつもこいつも忙しそうだな。何かあったのか。祭りの用意とか?」

「いや、魔物が攻めてくるんだよ」

「えぇえーっ!!?」


何を言っているのか全くわからない。

魔物が攻めてきて、それでなぜお祭りをしようという発想になるのだ。

やはり異世界、常識が違うようだ。


私の表情を見て察してくれたのか、老人は詳しく説明してくれる。


「いや、だから魔物が攻めてくるんだって」

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