新人の章

新人と呼ばれる彼の話

 新人、と彼が呼ばれているのは、言葉通りに我々の中で最もプロジェクトに加わったのが遅かったから、というのが一番の理由だが、もう一つの理由としては、彼が「オールラウンダー」であるがゆえ、特別な役職を与えられていないというところにある。

 彼の『異界』に対する熱意は疑いようもなく、エンジニアがごく個人的に握っている知識と技術を貪欲に吸収し、ドクターの専門的な話にも積極的に食いついていく。もちろん私やサブリーダーの『異界』にまつわる話についてくるのにも困った様子はない。それどころか、我々にはない視座を持っているという点で、私は『異界』について彼と話すことが極めて面白いと感じる。

 その上で、私や他のメンバーに足らないところをさりげなく補う、そういうところが彼にはある。目端が利く、と言えばいいのか。彼に助けられたことは一度や二度ではなく、新人、という少し軽さを持つ肩書きとは裏腹に、もはやこのプロジェクトではなくてはならない存在だ。もちろん、それは他のメンバーもそうなのだが、彼の才覚は他の誰に代替できるものではない。そういうことだ。

 もし、私やサブリーダーがプロジェクトを離れることがあるとすれば、その後リーダーとして立つのはきっと彼なのだろう。エンジニアやドクターにも一目置かれている現状を見る限り、そう確信している。

 ただ、もう少し本気で痩せた方が健康のためでは、とは常々思っている。ドクターからも厳しい目で見られているし、のろけ話に出てくる件の彼女にも心配かけていそうだし。

 もちろん、どれもこれも、大きなお世話なのかもしれないが。『潜航』の合間に休憩室でスナック菓子を貪る彼を見ていると、つい、気になってしまうものだ。

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