第31話 私は猫耳でもよかったと思うけど


 私たちは神殿の石材の上を、時計回りにぐるっと一周することにした。


「神殿の石が全部光ってるんだねー。これどうなってるんだろ?」

「えーと、分からないです」


 『ボーダレス』内でも特に説明はなかった。なんか光る。


 光るといっても蛍光塗料並の発光なので、ピカピカ眩しいってことはない。

 お陰で間近で見ても目が疲れないのは助かる。


 神殿の正面には人が多くいたが、側面に回るとだいぶ人が減った。


 さらに後ろ側まで来ると、私たち以外に人影は見当たらなくなる。


 まあ、神殿内部への入り口は正面にあるし、後ろに来る人は基本いないんだよね。


 ゲームではむしろこっちに用がある人もいたけど……あっ。


「そうだ、ナディアちゃん」

「何ー?」


 先を歩くナディアちゃんはケンケンパしながら振り返る。


「その辺りに変なスイッチがあると思うんですけど、無闇に……」

「スイッチってこれー?」


 私が言い終わるより前に、ナディアちゃんは神殿街壁にあった出っ張りを押す。

 すると出っ張りは壁内部に引っ込み、ゴゴゴという音が聞こえてきた。


「……押すと危ないって言おうとしたんですけどぉ~」

「あー……」


 ナディアちゃんは頬を掻き、謝るように舌を出す。


 その直後、私たちの足元が消失した。


「カナデさんごめーん!」

「ひゃああああ!」


 深い深い縦穴を落下しながら、私は悲鳴を上げる。


 ゲームだとコミカルに表現されてたけど、自由落下ってすごく怖いー!

 ていうかこれ、普通に死ぬよね!?


「フ、《フライト》!」


 ギリギリのところで私はふたり分の魔法をかける。

 お陰で私たちの体はふわりと持ち上がり、安全に床に着地できた。


「もー! こういう遺跡でその辺のものに触っちゃダメですよ!」

「うん……ごめんね」

「いえ、私も注意するのが遅かったですから……」


 しょぼんとするナディアちゃんの頭を撫で、私は周囲を見回す。


 私たちが落ちたのは通路の分岐点で、三方向に道がのびていた。


「ここ何なんだろうね? カナデさん知ってる?」


 ナディアちゃんも通路をキョロキョロしながら尋ねてくる。


「……」

「カナデさん?」


 ……言いたくないなぁ。

 だってナディアちゃんの反応が想像できるし。

 でも口先で誤魔化せるほど器用じゃないし……仕方ない。


「ここは月光神殿の隠しダンジョンですね」


 言ってから、彼女の顔をチラッ。


「隠しダンジョン~!!」


 ああ、やっぱりワクワクしてるぅ!


「そんなの絶対楽しいじゃーん! カナデさん奥に行ってみようよー」

「あ、あの……はい」


 今なら天井の穴から《フライト》で外に出られるんだけど……説得は無理そうだ。


 この隠しダンジョン面倒臭いんだよね~。

 推奨レベルは表とさほど変わらないんだけどギミックが豊富。

 その分、順調に進んでも攻略に時間がかかる。


 これは今日中に東都に帰るの無理そうだな~。


「あっ! カナデさん、なんか変な部屋に出たよ!」

「ですね」

「床に数字が書いてある! これ何だろ? パズルかな?」

「そうみたいですね」


 まあ、なんかナディアちゃんが楽しそうだからいっか。

 ギミックさえ知ってれば安全な場所だし。


 それにギミッククリアで経験値をもらえたはずだから、彼女のレベル上げにもちょうどいいかも。


「うーん、これどうするんだろ?」

「並んだ数字の法則を考えてみるといいかもしれませんよ?」

「法則か~。カナデさんってもしかしてもう分かってる?」

「ヒントいりますか?」

「ん~~大丈夫! もう少し考えてみる!」

「はぁい」


 それから私はナディアちゃんを見守りながら、少しずつダンジョン攻略を進めていった。


 もちろん、危ない時は助言をしつつ。


 でも、彼女は直感タイプだと思ってたけど、案外頭も柔らかいみたい。

 難しい問題もヒントをあげれば大体解いていた。


 ピコンッ


「あっ! 今度はLv30に上がった」

「おめでとうございます」


 お陰で彼女のレベルも順調に上がっている。

 これもある種のパワーレベリングかな?


 そういえばゲームでも初期のレベリングにここを使ってる人がいたっけ。

 私は時間効率が悪いからあまり使わなかったけど、晩成型のジョブの場合は安全で最適な場所だと思うし。


 まあそれはともかくとして、気がつけば隠しダンジョンもだいぶ進んでいた。


「そろそろ出口かもしれませんね~」

「そうなの? まだ冒険し足りないんだけどなぁ~」

「ダンジョンで油断はダメですよ?」

「もちろん分かってるよー」


 と言いつつ、ナディアちゃんは少し残念そう。


 まぁあんまりモンスターも出てこないし、脱出ゲームみたいなダンジョンだしね。


 と、そこで私たちは最後の大部屋に辿り着く。


 そして。


『ならば我が遊んでやろう』


 重低音の声が部屋中に響いたかと思うと、床の一部が開き、そこから巨大な物体がせり上がってきた。


 現れたのはスフィンクス……に、似た犬耳の巨像。


 モロにピラミッドなのに、なぜそこだけ著作権に配慮したのだろう……とWikiでツッコまれていた隠しダンジョンのボスだった。


「ナディアちゃん、あんなのでもボスですから気をつけて」

「うん!」

『あんなのとは何だ』


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