第12話 迷惑系配信者
「お、低評価あざーす!」
サクラコたちにモンスターをけしかけた、シーロックチャンネルのムトウたち。彼らはまだダンジョン内で配信をしており、1万人近い人間がその配信を視聴していた。
〈お前らマジふざけんなよ!〉
〈サクちゃんに謝れ!!〉
〈協会に通報したからな!〉
〈嫌がらせでしか人に構ってもらえない人間が、調子に乗るな!!!〉
〈社会のクズ!〉
〈死ね!!!〉
サクラコの信者や、元から彼らを快く思っていない人間たちが、チャットを荒らし低評価を付け続ける。
「ははっ、盛り上がってんなー」
しかし、彼らはそんなことは気にしない。騒ぎになればなるほど、視聴者が増える。視聴者が増えれば増えるほど、馬鹿な信者ができる。人生が上手くいっていない人間は、サクラコたちのようなキラキラした人間より、人の足を引っ張るムトウたちのような人間に親近感を覚える。
そういう人間は金の支援をすることで、自分たちも彼らの仲間になったのだと思い込む。自分は何か特別なことをしているんだと、勘違いしてしまう。
「通報とか、したけりゃ好きなだけしろよ。そんなんされても、痛くも痒くもねーし」
「つーか、もう面倒な協会の取り調べは終わったしな。協会も、俺らは関係ねぇって認めてれくれたし」
「そもそも、弱い癖に男に媚び売って視聴者稼いでるあの女が、悪いんだろ? この前もなんかモンスターに襲われて、怪我したらしいじゃねーかよ」
「それ。しかも1層でだろ? 笑わせんなって! 人に偉そうなこと言う暇があるなら、ちょっとは鍛えろよって話」
「鍛えてるから、あんなに胸がデカくなったんだろ?」
「あははははは! だったら、俺らもトレーニングに混ぜてもらうか?」
笑う4人の男たち。コメントは罵詈雑言で溢れるが、中には同調するようなものも存在する。人気者であるサクラコを妬んでいる人間は少なくない。配信者というのは、常に敵意に晒されている。
「でも、来ねーな。あのチビライダーくん。あんなに怒ってたんだから、遊びに来てくれると思ってたのに。案外ノリ悪りぃな。つまんねぇ」
「あいつとコラボできれば、もっと視聴者稼げたのにな?」
「そうそう。殴ってくれれば、慰謝料まで貰えるのに」
「まあ待てよ。あんだけムキになって騒いでたんだから、もう少し待ってりゃ来るって」
「またモンスターに襲われなけりゃいいけどな」
「あははははは!!!」
下品に笑って、右手の人差し指の指輪を軽く撫でるムトウ。それが、モンスターを使役する為に使ったアイテム。とある配信者を騙して奪った、通常なら何百万もするような高価なアイテム『コントロールリング』。
指定したモンスターを数分間、自由自在に操れる。Bランク以下でなおかつ知性の低いモンスターしか操れないという制限はあるが、それでも最大20体ものモンスターを操作できる強力なアイテムだ。
それを使い、彼らは何度も同じような真似をしてきた。けれど、ダンジョンが現れてからまだ30年。ダンジョン内部の調査はまだ全く進んでおらず、法整備も整っていない。ダンジョンを管理するダンジョン協会も、自らが定める規定に反しなければ手出しはしない。
だから、シンヤのように隠れてコソコソキノコを集めても、彼らのように大っぴらに人を傷つけたとしても、確たる証拠がない限り何の罪にも問えない。
「なに笑ってんだよ、許せねぇ……」
そして、そんな彼らの配信を病院近くの公園のベンチで眺めていたショウタは、壊れるくらい強くスマホを握りしめ覚悟を決める。
「オレやっぱり、こいつらを許せない。姉さんを傷つけた報いは受けされる」
そんなショウタを見て、ベンチの前に立った忍子は静かな声で言葉を返す。
「……いいんですか? シンヤ様が言ってた通り、ここで手を出したら損をするのこちらですよ?」
「だったらお前は、こいつらをこのまま放置するって言うのか? ルールに違反しなけりゃ何してもいいって思ってる人間は、たとえ刺し違えでも痛い目に遭わせなきゃ分からねぇんだよ」
「いくら小物と言っても、向こうは4人ですよ? 戦闘能力に乏しい貴方1人で、どうにかできるとは思えません」
「んなの、やってみないと分からない」
ショウタはスマホを握ったまま、立ち上がる。
「それにオレはヒーローだ。ヒーローは決して、悪人から逃げたりしない」
「……シンヤ様に協力を仰ぐとは、考えないのですか?」
「あの人は……いや、あの人に何を言っても無駄だよ。結局、あの人はオレたちに興味なんてないんだよ。オレも姉さんも、勝手にあの人のことを慕ってるけど……迷惑かけてばっかりだ。それで手伝ってくれなんて、虫が良すぎる」
「……分かりました。だったら、2人で行くしかないですね」
「……え?」
と、驚いた顔をするショウタに、忍子は小さく笑う。
「あたしも怒ってるんです。サクちゃんを傷つけられて、今でも走り出したくなるくらい頭にきてる。……シンヤ様には悪いけど、あたしはここで我慢なんてできない」
「いいのか? お前は家の──」
「いいの。お父さんもお母さんも、友達の為なら許してくれる。あたしの忍者スーツは、友達を助ける為にあるんだから」
2人の視線が交わる。2人はここで覚悟を決めた。例えこれから先、配信活動ができなくなったとしても……いや。仮に警察に捕まることになったとしても、ムトウたちに痛みを教えてやると。
……しかし。そんな2人の覚悟に水を指すように、2人のスマホに通知が届く。
「……これ」
「まさか……」
2人は示し合わせたように、アプリを開く。するとスマホから、声が響いた。
「はい。どうもー、こんにはー。今から配信を始めまーす」
関係ないと言ったはずのシンヤが、気だるげな挨拶と共にダンジョン内で配信を始めた。
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