おふざけ水の聖女

野うさぎ

プロローグ

 あたくしは、氷雨ひさめヒサメ。

 セーラー服に、白のスカーフを巻いている。

 そして、鮫のぬいぐるみリュックをしょっている。

 暑すぎる真夏以外は、鮫のパーカーを着ている。

 黒のタイツに、ニーハイブーツをはいている。


 緑色の髪を、2本の三つ編みにしている。

 鮫のぬいぐるみがついたヘアーゴムを使っている。

 深緑色の瞳を持つ。


 魔法属性は、水。

 どうやら、水の聖女と呼ばれるものらしい。


 好きな動物は、鮫。

 血液型は、О型。

 夏生まれ。

 


 両親はすでに離婚していて、母親が違う人と再婚してからは、氷雨という苗字になっている。

 だから、母親は血がつながっているけど、父親は全然違う人。


 保育園に通っているけど、あたくしは嫌い。


 どうして、同じ名前と苗字なのかというと、これは偶然一致でしかないかもしれない。


「おじさん、あたくしとあーそーぼ」

 

 あたくしは、近所のおじさんを誘う。


「叔父さん、あたくしはブランコがしたいな。


あと、滑り台も」


「欲張りすぎじゃないのか?」


「欲張ってなんかないもん。


これって、自然なことなの。


ブランコも、滑り台も、なんでも、今しか遊べないものだから、今のうちにたーくさん、遊んでおくの」


 子供の遊びができるのは、今だけ。

 それは、あたくしもよくわかっていることだから、子供の今でしかできないことを、やっておく。


「わーったよ」


「やったあ」


 あたくしは、こうやっておじさんと遊ぶことが多かった。


 大人になりたいあたくしと、子供のままでいたいあたくしが、両方いるような感じだった。

 聖女に選ばれたとしても、何気ない毎日を送りたかった。

 これが、あたくしの気持ち。




「ふわあー、だるー」


 保育園に来たんだけど、めっちゃつまらなかった。

 

 あたくしは、同じ保育園に通う美樹みきみきちゃんや、海苔のりのりこ子ゃんと仲が悪いから、いつも巻き込まれてしまう。


「クソヒサ、まだ保育園に来やがったのか」


 女子の前では、口の悪い小悪魔系女子のみきちゃんがあたくしを罵ってきた。


「ふんだ」


「男子~、ちょっと聞いてよ。


あのヒサメって子がね、いじわるするの。



困っちゃう~」


 こうやってぶりっ子をしては、男子を惑わす詐欺師系女子保育園児。


「まあ、みきちゃんは可愛いから、いつも女子から妬まれちゃんだよ」


 男子よ、こんなかわいい子に騙されるとか、本当に救いようがない。


「そうなの~。


妬まれすぎて困っているっていうか、ほんと助けて、男子」


「大丈夫だって。


いつでも、みきちゃんの味方だからさ」


「男子は女子と違って、いっつでも優しい。


それに比べて、女子っていじわるだし、冷たい~」


「仕方ないよ、みきちゃん。


それが、女子ってものだからさ」


 こんなやつがいるから、保育園とか行きたくないの。

 いつか、復讐とかしてやろうかな?


 そこで、のり子ちゃんが現れた。


「このぶりっ子女。


いつでも、相手になってやる」


 この太っている女子ののり子は,みきちゃんに真っ先に喧嘩を申し込むことは日常茶飯事。


「保育園一の美少女に勝てるのか?」


 のり子ちゃんは男子には嫌われているものの、女子の人気は高め。


「のり子ちゃん、かっこいい~」


「ぶりっ子女に負けるなー!」


 女子たちから、のり子ちゃんにむけての声援の声が上がる。


「はん、良い気になるんじゃないわ」


「さすが、みきちゃん」


「女子はみーんな、お子ちゃまだからな。


みきちゃんはその中でも、ダントツの1位を誇れるエリート級。


みんな、みきちゃんを見習うんだ」


 見習いようがない!


 みきちゃんはこうして男子を独占して、のり子ちゃんは女子を独占してしまう。

 こうして、いつも男子と女子の戦いが始まっているけれど、あたくしはこの保育園に息苦しさを感じていた。

 やっぱり何も変わらない。


 こうして、保育園から帰ってきたものの、やはり行きたくないと感じるし、つまらなかった。

 女子と男子の派閥は、いつまで続くのか。


 これが続いて、保育園時代はこのままで終わりを告げた。

 あたくしは、引っ越すこととなり、知り合いのいない幼稚園に年少さんから入園することになった。

 

 氷雨ヒサメは、3歳で新たな人生を迎える。

 

「おはよう」

 と次々と挨拶を交わしてくるので、あたくしはそのまま「おはよう」と返すだけだった。


 あたくしは、水の聖女としての役目も忘れていない。

 

 水の聖女には、鮫のぬいぐるみみたいな妖精がついてくるんだけど、とにかく、あたくしにうるさかった。


「聖女としての役目を果たす時が来たサメよ」


 この一応、妖精の扱いになっている喋る鮫の名前は、スクアーロ。

 あたくしはというと、一応「スクアーロ様」とか「チビ」または「チビ鮫」と呼んでいる。

 チビに関連することを言えば、スクアーロ様から怒られるだけだけど、あたくしはそんなことにはすでに慣れ切っているから、いいんだ。


「聖女としての役目?


そんなものあったけ?


チビ」


「チビとは、何だ!


貴様のために、丁寧に教えてあげているのに、この態度を改めんか!」


 あたくしは、こういう上から物を言うタイプは、どうしても好きになれない。

 このチビ鮫とお別れできる日を、楽しみにしている。


 聖女としの役割とかは前から聞いていたし、そのことだけは忘れないようにはしていた。

 だけど、内容までは興味がないから、さすがに覚えていない。


「聖女としての役目なら、覚えているから、これ以上のことは言わなくても大丈夫」


 適当なごまかしをすればいいと思っている。

 これで、人間より知能が低い普通の鮫なら、騙せそうな気がしたから。


「なら、言ってみるんだ。


聖女としての役目が、何なのかをな」



 覚えてなくても、ここては適当に言い当てて、勘で乗り切ろう。


「えっと、チビ鮫を倒す」


「そんな役割があるか!」


 ごまかしきれなかった。


「しかも、貴様は適当にこの場を切り抜けようとしているな!」


「なぜ、わかったの?


もしかして、スクアーロ様はエスパーなの?」


「エスパーじゃなくても、誰でもわかるわ!


まったく、この話を聞かんやつめ!


とにかく、異世界に向かうぞ。


後は、こんなことにならないように、人の話を聞くように習慣つけとけい!


どうして、失敗から学ばないんだ?」


「そんな言い方しなくてもいいじゃん。


あたくしだって、子供なの!


こんな難しい話とか、わかんない!」


 あたくしは、かっとなって言い返してしまった。

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