第24話 パメラ探偵とマリーさんの大屋敷②

「この国は極秘で、『魔導監視装置まどうかんしそうち』というものを街中に取り付けておる。その数、1967個!」

 

 パメラさんは、写真を見せてくれた。


 するとそこには、馬車にはねられた瞬間の、僕の写真がはっきり写っていた。


「こ、これは……」

「どの地区でも、交差点には魔導街灯まどうがいとう用の鉄柱が立っている。その鉄柱に、ひそかに魔導監視装置まどうかんしそうちが取り付けられているのだ。王立警察主導で、国民には一切極秘でな」

「じゃあ、この写真は、その魔導監視装置まどうかんしそうちの写真?」

「その通り。私の巨大水晶球は、様々な地区の魔導監視装置まどうかんしそうちの記録を、ものの数秒で取り出せるのじゃ~! すごいじゃろ」

「こ、この写真の馬車の御者ぎょしゃを、拡大して見ることができますか?」

「できるとも」


 パメラさんは、また文字板を操作して、今度は馬車の御者ぎょしゃの拡大写真を見せてくれた。


 ううっ……! こ、これは! 黒服を着た御者ぎょしゃが、くっきりと拡大されて写っている。しかも、しっかりと顔まで分かる鮮明さだ!


「見て! ダナン」


 アイリーンが声を上げた。


「この御者ぎょしゃ、口ヒゲがあるわ。でも……どこかで見たことがあるような気がする」

「僕もだ……」


 僕がつぶやくように言うと、マリーさんが提案した。


「その御者ぎょしゃの口ヒゲを無くしてみたら? ツケヒゲで変装しているのかも。写真から、ヒゲだけ消去はできる?」


 マリーさんの直感だ。さすが占い師。


 パメラさんはニヤリと笑った。


「では、写真を加工して、この御者ぎょしゃの口ヒゲをなくしてみよう」


 パメラさんは色々操作して、また写真を見せてくれた。


 あ……っ! な、なんてことだ!


「この人……。いえ、この男!」


 アイリーンが声を上げた。


「バルドン! バルドン・ロードス!」

「バ、バルドンか……」


 僕もつぶやくように言った。


 このちょっといかつい、大柄な男……。まさに幼なじみのバルドンだ。


 頭の中が整理できない。


 幼なじみで、魔物討伐とうばつ隊「ウルスの盾」のパーティーメンバーだったバルドンが、御者ぎょしゃだった。


 な、何でだ?


「答えは一つじゃない?」


 アイリーンは怒りをこらえるように言った。


「バルドンに誰かが命令したのよ。そんなことをする人間といえば、『ウルスの盾』のリーダー、ドルガーしかいない! ドルガーがバルドンに、馬車の御者ぎょしゃになり、ダナンを怪我させろと命令したのよ」

「そ、そんなバカな……」

「確か、バルドンはお金に相当困っていたはずよ。飲み屋のツケ、家賃も相当、滞納たいのうしていたと聞いたわ」

「……分かった。事故のことで今の時点で分かる事実は、バルドンが御者ぎょしゃだった、ということだ。――では、僕がランゼルフ・ギルドで道場生に暴力をふるっている写真は、なんなんだ?」

「その写真をお見せ」


 パメラさんも乗り気だ。


 僕は、ブーリン氏から渡された僕の暴力写真を、パメラさんに手渡した。僕がランゼルフ・ギルドで、道場生を木剣ぼっけんでなぐっている写真だ。


 僕自身は、こんな暴力、身に覚えはないけれど……。


「怪しい写真だね」


 パメラさんはその写真を装置で読み取らせて、何か操作している。


「できた。この解析写真を見よ。ダナン、お前の顔部分を拡大してある」


 パメラさんは僕の暴力写真の、拡大写真を見せてきた。僕の顔部分が、拡大されている。


 よく見ると、僕の顔の周囲に黒いスジがあり、首にも黒いスジがある。


「よくできとるのぉ~。これはプロの捏造ねつぞう写真家、ドッツ・ボードマートがよくやる合成手法じゃわい」


 パメラさんは説明した。


「元の誰かの暴力写真に、お前さんの顔写真を切り抜いて貼り付け、その写真を再撮影しただけじゃ」

「え? そ、そんな簡単な……」

「ただし、その貼り付けた部分には、独特の線がでる。ボードマートはその線を薬剤で消去するのが得意でな。巧妙こうみょう捏造ねつぞう写真を新聞社に売りつけて、大儲おおもうけしとるわ。しかし、ワシの分析装置にかかれば、その線の存在はバレてしまう!」

「一つの仮説だけど」


 アイリーンは言った。


「元々、ドルガーか誰かが、ランゼルフ・ギルドで暴力写真を撮影した。それは演技でもやらせでも、何でもいい。その顔部分に、ダナンの顔写真を切り抜いて、貼り付けたのね」

「単純だな……でも、分かって一安心だ」


 僕は言った。


「甘いっ! 一安心ではない」


 しかし、パメラさんは怒鳴った。


「写真というものはな、『焼き増し』『複製』ができるんじゃ。お前さんの、この捏造ねつぞう写真が様々なギルドにバラまかれると、ダナン――! お前さんの信用は、完全に地に落ちてしまうぞ」

「で、でも、僕はこんな暴力はやっていないんですよ」

「やっていなかろうが、関係ない。人はゴシップを好むからな。お前の暴力写真が、人々によって拡散かくさんしてしまえば、大変なことになる。早急そうきゅうに手を打て!」

「そうね。解決方法としては――」

 

 マリーさんが口を開いた。


「あなたが所属する、マルスタ・ギルドのギルド長、ブーリン氏にランゼルフ・ギルドでの暴力が事実無根であることを話す。写真を見せれば、何とかなりそうね。――それから、馬車の事故の犯人を、きっちりドルガーに問い詰める」

御者ぎょしゃはバルドン。指示役は……多分、ドルガーだと思います」


 僕が言うと、アイリーンはうなずいた。


「そうね。すぐに行動しましょう。ドルガーも何か手をうってくるかもしれないわ。意地でも、自分の指示であなたを事故にあわせたなんて、バレたくないはずだもの」


 僕とアイリーンはパメラさんから、たくさんの証拠写真をもらい、マルスタへ帰ることにした。

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