第22話 ダナン VS アイアンナイト②

 僕の目の前には、巨大な魔物が立っている。


 アイアンナイト――鉄の装備で身を固めた、戦士型の魔物だ!


「人間よ! 切り刻んでくれるわ!」


 アイアンナイトはそう声を上げつつ――。


 ゴウッ


 鉄塊てっかいのような、巨大な剣を振り下ろしてきた。


 僕は剣の軌道きどうを読み、松葉杖と左足を上手く使って後ろに後退し、けることに成功した。


 すると!


 グワシイイッ


 アイアンナイトの剣で、墓石が真っ二つに割れてしまった。


 僕はそれを見たが、宣言した。


「次は――けない」

「何!」


 アイアンナイトは驚いたように声を出した。


「貴様!」


 ブオン


 またしても巨大な剣が振り下ろされた。


 ガイイイイインッ


 僕は巨大な剣の太刀筋たちすじを、自分の剣「グラディウス」で受けた。


「何だと? しかも片手で?」

 

 かなり右手がしびれたが、そのまま巨大な剣を、愛剣グラディウスで横に払う。


 アイアンナイトは体勢をくずした。


(ここだっ)


 そのまま剣をすべらし――僕は、アイアンナイトの左肩口を狙った。


 ガッ――ガッシャアアアアン


 そんな金属音がした。


 僕は、アイアンナイトの左腕を斬り落とした。


「な、何だと!」


 アイアンナイトはうめく。アイアンナイトのよろい――体から、左腕が外れた。


 アイアンナイトの左腕は落としたが、肩口からは血は出ず、闇色やみいろ瘴気しょうきが出ている。


 よろいの内部はどうなっているのか……。


「人間の少年……お、お前……何者だ?」


 アイアンナイトは、右手の巨大な剣を握りしめ、言った。


「こんなことは初めてだ。私の腕を斬り落とすなど! しかもお前は――右足を使えないのだぞ――むうううんっ」


 今度は巨大な剣を横に払ってきた!」


 僕はそれを見切り、またしても彼の剣をけた。そして――。


 ガッシャアアン


 アイアンナイトの右腕も、斬り落としていたのだ。


「う、うごおおっ」


 両腕がないアイアンナイトはうめく。


「な、なぜ、俺の両腕を斬り落とせたのだ?」

「お前には力はあるが、剣の軌道きどうが読みやすい。動作が遅いからだ」

「よ、よろいや手甲、肩当てで、身を守っているのだぞ」

「そのぎ目をよく見れば、防具に身を守られていない部分がある。そこをねらって斬った」


 両腕を斬られたアイアンナイトは、両肩口から、瘴気しょうきをもうもうと出している。


「んっ?」


 僕はアイアンナイトの頭上を見上げ、思わず声を上げた。


 あの鉄塊てっかいのような巨大な剣が、アイアンナイトの頭上に浮いている。


 魔力で宙に持ち上げたか!


「ワハハハッ、少年よ! 我が両腕を斬り落とした程度で、何をほこらしげに? 私は魔力も使えるのだぞ? くらえ!」


 ビュオッ


 ドッガアアアッ


 ものすごいスピードで、巨大な剣が振り下ろされ、地面に叩きつけられた。


 僕は間一髪、松葉杖と左足を使った左横飛びでけたが――腕がある時より、太刀筋たちすじが速い!


「もう一撃だ、少年よ!」


 巨大な剣はまた、振り上げられた。そして空中で、闇色やみいろの雷をまとった。……魔法剣だ!


 おや? その時!


『【大天使の治癒ちゆ】を発動させます。右足が一時的に回復します』


 ん? 久々の頭の中の声だ!


 おおっ、右足が動く!


「ノワル・エクレール――黒き稲妻いなづま!」


 アイアンナイトが声を上げたとき――。


 ゴウッ


 また、巨大な剣が落下してくる!


 ここだっ!


 神速!


 僕は全力で前方に跳躍ちょうやくした。そして、アイアンナイトの首を、愛剣グラディウスで斬り落としていた。


「あ、が」


 アイアンナイトはうめき――。


 ドズン


 巨大な剣は力なく落下し、アイアンナイトの首もかぶとごと地面に落ちた。


 その途端、アイアンナイトは大量の宝石に変化した。


 僕はアイアンナイトを退治したのだ。


「す、すごい! すごいよぉっ!」


 アイリーンが駆け寄ってきて、僕に抱きついた。


「ダナン、すごいよ! どうして君は、そんなに強いの?」

「く、悔しいっ……。君の戦いを、ただ見ているしかなかった」


 パトリシアは悔しそうに、僕に言った。


「ったく、たいしたヤツだぜ~」


 ランダースも、腰のさやに剣をしまいながらつぶやく。


 まあ、何とか魔物全員、倒せたようだな。皆のおかげだ。


「お、お前たち……!」


 副町長のルバール氏が、墓場にやってきた。他の住人も一緒だ。


「お、おい……すごいぞ。アイアンナイトを倒しちまった……」

「も、もしかしてもう、上納金じょうのうきんを払わなくて良いってことか?」

「ろ、牢獄ろうごくのような生活から、逃れられるのか?」


 住人たちが、口々にさわいでいる。


 ルバール氏が冷や汗をふきながら、言った。


「あのアイアンナイトを倒しちまったのか?」

「あ、はい。まずかったですか?」


 僕は頭をかいた。ルバール氏は、ブルブル震えている。お、怒り出すか?


「あ、あんたはすごい!」


 ガシッ


 ルバール氏は僕の両手をつかみ、叫んだ。


「あんたは……いや、あなた様は……。一体、どなた様なのでしょう? 我々は、本当は魔物に上納金じょうのうきんを払いたくなかった。しかし、あなたたちが私たちを救ってくださいましたっ。さっきは失礼を言って、申し訳ございませんでした!」


 ルバール氏は、僕らに頭を下げた。うーん、頭を下げられるのは、ちょっと苦手だ。


「さあ、マリー様の……魔霊街まれいがいの町長のお屋敷はこちらです。姉のパメラ様も一緒に住んでらっしゃいますよ。ご案内します」


 ルバール氏は、墓地を歩き始めた。アイリーンはあわてて聞いた。


「え? マリー先生って、この魔霊街まれいがいの町長なんですか?」

「はい。しかしあの方は不思議な術で、屋敷に結界を張り、魔物の侵入を防いでいます。マリー様たちは、他の街でスリや強盗などはしておりません。誤解なさらぬよう……」

「あ、そのスリや強盗のことだけどさ」


 パトリシアは静かに言った。


「魔物におどされていたとはいえ、あんたたちは他の街で悪事を働いていたんだろ? スリや強盗とかな。あとで、王立警察に、自首するべきだ。分かったな」

「その通りです……」


 ルバール氏は大きくうなずいた。


「それならば、北東にあるルイベール工業地区の王宮警察支部に、出向かなければならないと思います」

「あんたたち、……もう自首をしていいのか?」

「ええ。我々も、本当は悪いことをしていると苦しんできてましたからね……。しかし、街には我々の顔を知り、にくんでいる者がいる。我々は、『黒服』といわれるマフィアからも金をりました。我々は、自首する前に、殺されるかもしれない」

「それならば、私とランダースがついて行こう。ボディーガードというわけだ」


 パトリシアは、ランダースの肩に手をやって言った。ランダースは、「お、俺?」と声を上げた。


 ランダースは嫌そうな顔だ。


「パトリシア、お前な~。怖いから、さっさと魔霊街まれいがいを出たいだけだろ」

「黙れ」


 ドガッ


「いて!」


 パトリシアは、ランダースの尻を蹴っ飛ばした。


「そういうわけでだな」


 パトリシアは僕とアイリーンに言った。


「私とランダースは、ここの住民たちと王宮警察に行く。お前たちはパメラ探偵とマリー氏の屋敷に向かってくれ」

「なんで他人の自首を手伝わなきゃいけないんだよ、めんどくせーなー」


 ランダースはブツブツ言った。


 パトリシアや魔霊街まれいがいの住人たちは、すぐに墓地の北の、さびれた商店街のほうに去っていってしまった。


 僕とアイリーンは、地図の通り、パメラさんとマリーさん姉妹が住むという、屋敷に向かうことになった。

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