第11話 ドルガーがランゼルフ・ギルド長室にいる!
「ずいぶん、
ドルガーは、僕をにらみつけながら言った。足を机の上に投げ出して、とんでもなく態度が悪い。
一体、マリーさんはどこに行ったんだ? なぜドルガーがここにいる? 後ろには魔法使いのジョルジュも立っていた。こいつは、ドルガーの腰ぎんちゃくだった。
「ど、どうして、君がここにいる? マリーさんはどうしたんだ?」
僕が聞くと、ドルガーはハエでも追っ払う仕草をしながら言った。
「あの占い師みてぇな女か? 俺の親父は、このランゼルフ・ギルドの社長だからよ。親父に命令してもらって、さっさとギルド長を
「で、どうして、ドルガーがここにいるんだよ?」
「分かり切ったことを聞くんじゃねえよ! ボケナス!」
ドガッ
ドルガーは机から足を降ろし、机を蹴っ飛ばした。
「俺がランゼルフ・ギルドのギルド長になったからだ! 親父にやってくれと言われたからな」
父親にやってくれ、と言われた? 本当は、僕の動向を探りにでも来たんじゃないのか……?
「ドルガー……君も十六歳のはずだ。ギルド長になるなんて、まだ早すぎないか」
僕が聞くと、ジョルジュがケラケラ笑って言った。
「ダナン君、君は頭が悪いですねえ。この国では、若い経営者がたくさんいるのを知らないんですか? 十五歳で武具店を開き、一億ルピーを
「俺だって、流れにのらねぇとな! ワハハ」
ドルガーがジョルジュの言葉に、大きくうなずいた。
「魔物
僕が聞くと、ドルガーは機嫌が悪そうに答えた。
「当然、平行して続けるぜ? 文句あるのか」
そういえば、アイリーンはどうしたんだろう? 聞くべきか……? そう考えていると……。
「おい、ダナン。お前が魔法剣術の指導ができるなんて、まだ信じられねえなあ。話を聞くと、道場生が増えたらしい……じゃねえか」
「ああ、おかげさまで」
確かに僕が
ドルガーは舌打ちした。そのことが気に喰わないらしい。
「な、何か汚い方法で、道場生を引きつけてんのかぁ?」
「そ、そんなわけないだろ」
「ギルド長、そろそろお時間のようですよ」
ジョルジュがドルガーに静かに言った。僕の指導の時間だ。
「ちっ、しょうがねえな! おお――そういや……」
ドルガーはニヤリと笑って言った。
「今日は、新しい『お友達』がくるから、楽しみにしてな」
ん? どういうことだ? 新しい道場生か?
いや……何かありそうだ。僕は気を引き締めた。
◇ ◇ ◇
僕が魔法剣術の道場へ行くと、道場生たちがたくさん集まっていた。今日は男子、女子合同の指導だったな。
「やあ、待たせてごめん。今日は、中段構えからの練習を始めよう」
「はい!」
「わかりました!」
十五歳以下の道場生たちは、皆、素直だ。今日は三十名はいるな。
「皆、ダナン先生の言うことをよく聞くように!」
率先してそう声を出しているのは、女子部のモニカ・ルパードだ。
……いつのまにリーダーっぽい役割になっていたんだ……。
僕も
「皆、
「はい!」
「もし実戦なら、顔、胴、手を、簡単に斬りつけられてしまう。それを防ぐためには、剣を中段の位置にピタリと保つ。これが鉄則だ」
僕が講義すると、皆、真剣に聞き入ってくれた。しかし、三名――道場の奥で座ってペチャクチャしゃべっているヤツらがいる。
あいつら! デリック、マーカス、ジョニーだ。
僕はつかつかと歩いていって、三人の前に立った。
「しゃべっているなら、道場から出てしゃべってくれるか」
僕はしっかりと注意した。
「本当に練習をしたい人に迷惑だ」
「すいませんでーす、先生。反省してまーす」
デリックがヘラヘラ笑って言った。とても反省しているとは思えない。
「でさぁ、ダナン先生。今日は先生に会わせたい人がいるんだよ」
「は? 誰だ? 新しい道場生か?」
「私だ」
うっ……!
僕はあわてて、うまく左手の松葉杖を使い、その場を飛びのいた。
「君がダナン君か? 私はパトリシア・ワードナス」
後ろには、僕と同年齢――十六歳か、十七歳くらいの、髪の毛が短い少女が立っていた。
し、しかし、すごい殺気だ。この少女――素人ではない。この道場生の新入生ってわけでもなさそうだ。
でも、顔立ちが整っていて、かなりの美少女だなぁ……。
「ダナン先生、こ、この人! 今年、学生魔法剣術大会で優勝した、パトリシア・ワードナスですよ!」
モニカが僕に耳打ちした。
「し、新聞や雑誌で見たことがあります」
僕は新聞や雑誌を見ないから、このパトリシアのことは知らなかった。だけど、どうやらかなり強い、少女魔法剣士のようだ。
だけど、何でランゼルフ・ギルドの道場にいるんだ?
「君がダナン君? 知人のドルガー君が、『ムカついてしょうがないヤツがいる』と言っていたので、このランゼルフ・ギルドに駆けつけたんだ。だけど……フッフッフ」
パトリシアはニヤニヤ笑った。
「君は体も小さいし、弱そうだし。何より松葉杖をついているのか……? 君と練習試合をしようと思ったが、これでは、きちんとした試合になりそうにないね」
そうか、さっきドルガーが言っていた、「新しいお友達」っていうのは、こいつか!
「でもまあ、私と勝負してみるかい? ドルガー君に、君をたたきのめせと頼まれてね」
パトリシアは、短い髪の毛をさらっとなでつけながら言った。
「絶対に、私には勝てないけど」
ドルガーの
僕は周囲を見回した。道場生たちが、心配そうに僕を見ている。そ、そうか。僕はもう、
「パトリシア! この勝負、受けさせてもらう!」
僕はパトリシアに言った。
松葉杖の僕と、学生魔法剣術大会優勝者!
突如、試合をすることになってしまった!
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