第19話 追放?
『本、ありがとう』
「いつでも来るといい。君になら我らイルヘルド領主家は歓迎する」
グレイの身体は度重なるルーンの使用でボロボロになっており、しばらく領主邸の世話になっていた。その間、領主家秘蔵の蔵書を読み漁っていたのだ。流石に魔法に関する本は無かったが非常に良い体験だったとグレイは満足した。
別れの挨拶をしたグレイはその足で居住区に向かう。目的地に向かう途中、街を見る。祭りの時の騒がしい雰囲気は無くなったものの、子供たちが外に出て遊び、朝の支度をする匂い、世間話をする主婦たち。日常に戻った様子を所々で見られる。
そういった景色を見てグレイは安心と共にもう一つの感情も湧き上がってしまう。
頭をブンブンと振って思考を散らせていると目的地についていた。
ゆっくりとドアを開けて中に入る。良い匂いが漂って腹の虫を刺激する。
「おかえり、グレイ。ご飯できてるよ」
「おかえり、グレイ。ご飯食べよう」
双子の息のあった挨拶に笑顔でグレイも返す。
『ただいま』
朝食の並べられたテーブルに座る。少し待っているとジークが外から帰って来た。
「おっ美味そ〜!」
身体中汚れだらけで外で何かをしていたらしいことは見ればわかる。そんな状態でやって来るのだからまぁ当然………
「身体洗って来なさい!!」
レイラに怒られる訳である。「………はい」と項垂れながら風呂場に向かうジークを眺めながら日常に戻って来たのだと実感する。
身体を洗って綺麗になったジークを迎えて朝食を食べる。意外にもジークは食べる所作は綺麗だ。たまにグレイに教えるくらいにはテーブルマナーがしっかりしている。
そんな時、ジークがグレイに話しかける。
「俺もさ、リハビリ終わったしそろそろ依頼再開するんだけど……グレイも一緒に行こうぜ!なぁ?」
「はぁ?何言ってるの、グレイは戦え……るんだったわね。どうしょうかな」
「グレイに聞いてみよう」
三人の視線がグレイに集まる。グレイは基本的に好戦的な性格ではない。どちらかと言うと学者気質な性格だ。誰かを傷つけたり傷つけられたりするのには慣れていない。
だが、ルーンを全力で使っていた時は楽しかった。
「知らないことを知る」それがグレイのやりたい事。きっとレイラ達と共に行けばそれは少し遠のく。だがまだ恩を返しきれていない。
だからグレイは首を縦に振る。
喜ぶ三人の顔を見ればそれで正解だと思った。
「よーし!なら早速パーティー加入の届けを出しに行こう」
ジークの提案でギルドに向かう途中に冒険者の仕組みについてグレイは教えてもらう。
冒険者に実質的な階級は無いこと。依頼の達成率や実力などをギルドが判断して直接依頼を持って来る以外にはどの冒険者も依頼板を見て決める。
パーティーという冒険者の集まりは書類で管理していること。昔、悪質な冒険者が新人潰しをしていた事で生まれた制度だ。
説明を聞きながらギルドに入ったグレイは中にいる冒険者達の視線を感じた。もちろん、ジークに向けたものもあるがグレイに向けられたものも少なく無い。
(いつもより……見られてる?)
受付に向かう途中、酒場を見たジークはいつも居るロベドが居ないことに驚く。
そんな様子のジークを置いてレイラは受付嬢に話しかける。
「パーティーの加入申請をお願いします」
「はい、えぇと……あっ皆さんが来たらギルドマスターのお部屋に通すようにと言われています。グレイさんも一緒にとのことです」
「私たちを?」
◇◇◇
「失礼します」
中に入るとギルドマスターのシオ、だけではなくロベドがいた。
「良く来てくれたね。まずは座って?」
シオに促されソファーに座るグレイ達。
「まずは魔獣討伐感謝する。君たちが居なければ今の平穏はないからね。特にグレイ、君には逃げることも出来た。それでも魔獣の討伐に貢献してくれたことに感謝するよ」
『ジーク達を助けるためだったから気にしないで』
グレイは白い板で筆談することを選んだ。ダイムやジーク達、ロベドはともかくとしてシオにはまだ見せてないからだ。
「それでも、さ。だからこそ、これから言うことを申し訳ないと思う」
(?)
何のことかわからないグレイは首を傾げる。同じようにレイラ達もシオの言動がどうも感謝を伝えることが目的でないことに疑問を抱く。
申し訳なさそうに顔を俯きながらシオは告げる。
「グレイ、君にはこの街から出て行ってもらう」
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