第4話 ルーン起動
ひとまず全ての頁の文字をなぞってみた。
最初の四頁は簡単に使うことができた。
火のルーン、風のルーン、土のルーンそして水のルーンだ。
特に水のルーンに関しては身近に水の魔法を使ってくる人間がいたこともあって自分も使えたことを喜んだ。
その他の頁は浮かんだ文字が上手く書けなかったり書けても欠けたりして発動しない物が多く全てを使いこなすのは難航した。
文字通り寝食を忘れ書の内容に没頭すること一週間。グレイは外に出た。
◇◇◇
「娘が……会いに来た?」
領主邸の執務室、書類が積まれた机に座る背の高い男が中に報告に来た老執事の言葉で静かに驚く。
領主であるこの男、【アルベルト・オフェーリア】には子供が三人いる。一人はライル。
そして、娘は二人。グレイと病弱であまり部屋から出られないリリィだ。
「はい、グレイお嬢様が」
「その名で呼ぶな」
「し、失礼しました。お通しした方がよろしいですか?」
逡巡したあと「会う、通せ」と短く伝えた。
◇◇◇
「お連れしました」
グレイは老執事に連れられて父の待つ執務室に入った。中には青い髪を束ね中性的な顔立ちのアルベルトが待っていた。不機嫌なのか顔が怖い。
手に持っていた櫛を引き出しにしまったアルベルトは「何のようだ?」と一言言い黙る。
しかし、喋ることのできないグレイはどうにか伝えようとするが手段がなく沈黙が執務室に広がった。
見かねた老執事がグレイに紙とペンを持ってきた。
その紙に父に伝えたいことを書き記したグレイはそれを父親に渡した。
「魔法が見たい、だと?お前が?」
不機嫌な顔に困惑の表情が加わった。
アルベルトからすれば魔法が全く使えない娘が急に魔法に興味を持ち始めたのだ、困惑もする。
亡き妻に似たグレイの姿はアルベルトにとって苦痛であった為にローズがグレイを小屋に住ませることを黙認した。
それが今になって罪悪感となって断りづらくなっていた。
「………お前が見たいと言うなら良いだろう。良い経験など無いと思うがな」
そう突き放したように話しグレイを執務室から連れ出すように老執事に伝える。
グレイとしても用は済んだのでさっさと小屋への帰路についた。
残ったアルベルトと老執事はグレイの去った後、
「良い加減彼女のことを見たらどうですか?魔法が使えなくとも彼女は聡い。レティシア様の事を思うのならば余計今のままでは……」
「わかっている……だがどうしても思ってしまう。俺と居なければ彼女は、と」
グレイの母、【レティシア】
彼女はグレイを産んだその後に死亡した。体力的に限界であったレティシアだが頑固としてグレイを産むことを諦めなかった。
その結果、グレイは生を受けたがアルベルトは自分が妻にしなければと思っていた。
そうした理由もあってかグレイを遠ざける事につながっていた。
「小屋にも何度か行っているのでしょう?」
「う……」
老執事は屋敷から度々無くなっているものがある事に気がついていたがそれを黙認してきた。
それが何処に行ったのか把握もしていた。
「これが好機です」
「………」
◇◇◇
後日
「アルがどういうつもりで
「はい、お母様」
屋敷にある訓練場に来たグレイは自身に物凄い敵意を持つローズの視線を全く気にせずライルだけを見ていた。
対するライルはローズでもなく、グレイでもなく更にはアルベルトすら気にはしていなかった。
彼の視線の先にいたのは屋敷のバルコニーから顔を覗かせる妹【リリィ】だった。
病弱な彼女だが今日は調子が良く兄の姿を見る為に出てきていた。
「頑張って!」と小さく声を出し応援する彼女をちらりとみたライルは良いところを見せようと気合が入る。
「それでは中級魔法の試験をしましょう。唱える魔法は【ウォーターサーペント】。詠唱は」
「『
「素晴らしい!ではお願いします」
家庭教師の言葉を先取りしてライルは答える。さっさと魔法を使って妹を喜ばせたかったからだ。これを逃せばいつリリィが外に出られるかわからない。その一心で詠唱を始める。
「
ライルの詠唱は完璧に成功した。それをもって水の蛇が出現しあらかじめ家庭教師が設置した的に狙いを定める。
「行けッ」
ライルの指示で蛇はまるでビームのように飛び的を噛みちぎった。
その光景をグレイはつぶさに観察しその度に目を輝かせた。
どうやった?魔力は?詠唱と魔法の関係は?蛇とはあの水のことか?
色々な思考が高速回転した結果、グレイは魔法とは関係ないことに目がいった。
屋敷から身を乗り出して同じく目を輝かせている赤い髪の少女……………では無い。
その下、彼女が立っている屋敷から突き出た床からぱらぱらと土埃が落ちていた。
「凄いわ、ライル!」
ローズの褒め言葉を無視してリリィの方をライルは向いた。「どうだ、兄様凄いだろ」という為に。
「どうだリリ……リリィ下がれ!!」
そうしてライルもリリィが立っている場所の異変に気がついた。が、すでに時は遅かった。
病弱で軽いリリィの身体ですら支えられなくなったバルコニーは身を乗り出して兄に手を振るリリィの身体と共に手すりを切り離した。
落下する妹を必死に助けようと走るが遠く間に合わない。
そう、ライルは。
(風のルーン起動、俊敏のルーン起動)
落下するリリィを
速度を落とす為にスライディングの態勢になって止まったグレイは丁度お姫様抱っこのような状態になっていた。
救世主を見た者たちの視線はさまざまだった。
驚愕、憧れ、困惑そして、敵意。
そんな視線を向けられた当人は、
(凄い、見てる。話したいのかな)
なんて脳天気に考えていた。そして、仲良くなる方法その1を思い出し一番近くにいたライルを見る。が、スッと視線を外されたので抱えていた少女を置いて小屋に戻った。
その後何度か蛇という物を作ろうとしてみたが言葉が見つからなかったので紐状の何かしかできなくてまた、徹夜した。
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