幻想建築解体

前河涼介

第1話 プロローグ1 終末

 第17前線宙域司令船が核攻撃で消し飛んだ時、僕は北極側の装甲板を張り替えるために船外活動中だった。ちょうど装甲板の向こうから爆発が来たおかげで僕自身は蒸発を免れたようだった。

 爆圧によるすさまじい加速度のあと、全天の星がぐるぐる回って方角がわからなくなった。

 命綱は切れてしまったし、すでに目の届く範囲に掴まれそうなものはなかった。このまま漂流してゆっくり死んでいくのだろう。


 戦闘の火が遠くに見えた。人類最後の橋頭堡がマキナ軍の圧倒的な物量によって蹂躙されていく様子が俯瞰できた。ジオラマみたいだった。

 不安? 恐怖?

 どちらも何か違う。

 強いて言えば、残念、だろうか。

 一度くらいは自分の足で大地に立って星の重力を感じてみたかった。


 光芒の間から何かが迫ってきた。

 星の瞬きより小さかったものが1秒後には目の前にある。宙間戦闘の常だ。

 白く、流線と曲面で複雑に構成された船殻。

 識別。

 マキナ軍の旧式戦艦だった。

 全長500mを超える巨体が艦首側のスラスターを噴射して僕の前ですっと停止した。余ったガスが細かい氷になってノズルから吹き出し、キラキラと光りながら消えていく。

 きっと取りこぼしを始末するつもりだ。もはや抵抗の手段もない。

 艦底のキャリアベイが開き、毒針のような有線ドローンが向かってくる。

 僕は目を閉じた。

 が、ヘルメットにドスッと衝撃が来ただけで、あとは体に痛みもなければ、空気漏れのアラートもなかった。

 目を開けてわかった。ドローンの先端についているのは凶器ではなく吸盤だった。僕はキャリアベイに向かって巻き上げられていた。


「最後の人間、まずはあなたの敢闘を讃えます」

 無線に割り込まれたんじゃない。振動回線だ。

「何者だ」

「並列意識集合体の仮想自我、いわばあなたたちがマキナと呼んでいるものの総体です。あなたの名前は?」

「個体番号E19010036」

「呼びにくい。二人称で通します。あなたには別の世界に飛んでもらいます」

「別の世界?」

「物理現象と数学を超越した法則が宇宙を支配する世界。そこであなたには文明の解体を担ってもらいます」

「……なんのことやら」

「行けばわかります。あなたに選択権はない。あなたはもう私のものになったのだから」

 ヘルメットに張りついた吸盤の中心から針が突き出し、ポリカーボネートのバイザーを割って額のすぐ上まで飛び込んできた。

 なんだ、やっぱり凶器じゃないか。

 ガスが吹き出す。できる限り息を止めていたけど、最終的には吸ってしまった。僕は長い眠りについた。

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