第27話 シャルルside
それに社交界を生き抜いていくのは本当に大変だ。
理想の婚約者を手に入れるのはもっと大変。
ここではじめてシャルルは自分の思い通りにならないという現実を知ることになる。
サシャバル伯爵邸でシャルルは女王様だった。
全てが思い通りで何もかもが楽しかったのに……。
(……どうしてわたくしの思い通りにならないの?アイツもアイツも、全部消えちゃえばいいのに)
シャルルは伯爵家。子爵家、男爵家の令嬢達は敵じゃない。
問題なのは、侯爵家と公爵家の令嬢達は脅しも虐めも権力も通用しない。
外見ではシャルルが勝っていても、生まれた家の差はどうにもならない。
カトリーナとシャルルの関係と同じだと理解すると、イライラが更に増していく。
(あーあ、わたくしが公爵家に生まれていたら全てを手に入れられたのに……)
成長して社交界に出るにつれて、シャルルは令息達にもてはやされるようになる。
シャルルが努力しているのは、この国の第二王子オリバーを手に入れるため。
しかしそれには大きな壁がある。
シャルルの邪魔をしてくるアリーリエ・ベル。ベル公爵の次女でオリバーの幼馴染。
そしてオリバーの婚約者候補筆頭で、完璧な令嬢だと憧れの的らしい。
(あんなブスのどこがいいのかしら?みんな目が腐っているのね……わたくしの方が絶対に可愛いのに)
オリバーのためにお金を使って自分を磨いていた。
幸い、母はシャルルをオリバーの婚約者にするために協力的。
『あなたは絶対に王妃になるの』
母の執念を感じていたがシャルルは気づかないふりをしていた。
いつの間にかオリバーの婚約者を目指すことが当然になっていた。
だけどシャルルもそれでいいと思っていた。
(わたくしが王妃になったら目障りなあの女も、わたくしの悪口を言ったあの女も全員、消してやるんだから……!)
しかしシャルルがいくら頑張ってもオリバーには届かない。
ちょっと腕を組んで胸を寄せれば、大抵の令息は鼻を伸ばしてシャルルを褒め称えたし、可愛くお願いすれば言うことを聞いてくれる。
そうやってシャルルは欲しいものを手に入れてきたのに、オリバーはシャルルがそうしても靡かない。
今までシャルルが成功してきた方法がまったく通じない。
それがシャルルをはじめて本気にさせた。
(オリバー殿下は恥ずかしがって気づけないだけ……!わたくしの魅力にまだ気づけないお子様なのよ!次こそは絶対にっ)
ドレスだってアリーリエに負けないように最高級のものを着用した。
プレゼントだってカトリーナを使って、誰よりも早く用意した。
なのに一度もシャルルをエスコートしてくれないし、他の令嬢達と同じように扱うだけ。
オリバーが唯一、違う対応を見せるのはアリーリエの前というのが更に気に入らない。
けれどシャルルは大きな期待を背負っている。
年々大きくなる圧力に無意識にその重圧に耐えきれなくなっていく。
シャルルにはそれ以外の道は用意されていなかった。
オリバー以外選ぶことは許されていない。
(どうしよう……!今日もまたお母様に何の報告もできない。わたくしのためにあんなに頑張ってくれているお母様のためにオリバー殿下に気に入られないといけないのにっ)
シャルルは次第にオリバーとの仲がうまくいかないのはアリーリエのせいだと思い込むようになっていった。
アリーリエが邪魔で邪魔で仕方なかった。
(自分がオリバー殿下の幼馴染ってだけで何よ……!それがなかったら絶対にわたくしをえらんでいたはずなのにっ)
心の中でいくら毒を吐いたとしても、状況は何も変わらない。
こんなにもシャルルは苦しんでいるのに、アリーリエは余裕の笑みを浮かべている。
アリーリエに文句を言いにいってもアリーリエは何を言っても動じない。
それが目障りであると同時に腹立たしいと思った。
アリーリエの取り巻きは、いつもシャルルを「はしたない」と笑う。
「シャルル様ったら……身の程知らずとはこのことね」
「本当ね、烏滸がましいわ。もう少し周りを見たほうがいいわよ?」
「わたくしに嫉妬しないでくださいますかぁ?そんな風に負け惜しみばかり言って恥ずかしくないのかしら?」
「あははっ、恥ずかしいのはどちらかしら」
「そう言うなら殿方にプレゼントする刺繍くらいご自分でなさったら?」
「なっ……!」
「ほら、そうやってすぐにボロを出す」
シャルルは令嬢達の指摘に顔を真っ赤にして俯いていた。
どうやらお茶会に出ながら大量の刺繍を配っていたため、自分で作っていないことがバレてしまっていたらしい。
シャルルは暫く顔を上げられなかった。
クスクスと耳障りな笑い声に怒りが込み上げてくる。
「皆様、おやめなさい」
「アリーリエ様……!」
「申し訳ございません。アリーリエ様。シャルル様がアリーリエ様を悪く言うから許せなくて」
「い、言いがかりはやめてくださる?」
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