転生した聖女の自動配信ダンジョン生活

桜井正宗

転生聖女

「アルメリア……。そうだ。お前の名前はアルメリアだ」


 暗闇の中で声がした。

 歓喜にあふれる声だ。おっさんらしき声と若い女性が喜んで何かを祝福していた。誰かの為に喜んで泣いているようだ。

 誰の為に?

 それに、俺の体がゆりかごのように揺れている。なぜ。


 ぼやっとする視界の中、俺はまた眠りについた。体が勝手に睡眠を欲しがったからだ。

 ――時が経ち、俺はまた目覚めた。


 気づくと立てるようになっていた。……まて、なんだこの低い視線は。まるで子供じゃないか。


「おぉ、アルメリア! ようやく立てるようになったか」

(え……)


 おっさんが俺を抱き上げた。

 な、なんだこの人……気色悪い!

 驚きの中、若い女性が現れた。

 まさか、この二人は夫婦なのか。

 女性の方は凄く美人で若いけど、犯罪じゃないだろうか。てか、変わった服を着ているな。まるで中世ヨーロッパみたいな。建物の中も実にそれっぽい。


 俺はいったいどうして、こんな場所に。それに俺は……あ。


 ちょうど鏡があった。

 そこには幼女の姿が……って、アレが俺!? あんな銀髪で可愛くて、緑の瞳でパッチリしていて……女の子ぉ!? 嘘でしょ……信じられねえ。


「母さん、アルメリアは将来有望かもしれんぞ」

「ええ、お父さん。アルメリアはきっと立派な女の子になることでしょう」


 なんか期待されちゃってるし……。けど、俺は男であり、つい最近までサラリーマンしていたんだぞ。それがなぜ、こんな幼女になってしまったんだ。誰の陰謀だ? それとも神の悪戯とでもいうのか?


 いや、これは二度目のチャンスだ。


 誰がくれた新しい人生なんだ。きっとそうに違いない。


 しかも可愛い女の子。……ああ、そうだ。俺は生まれ変わったら女の子になりたい願望があった。それがこんな形で叶うなんて。


 だから、これからはこのアルメリアとして俺は生きる。楽しい人生にしてみせるさ!



 ……それから十数年後。



 俺は十六歳の誕生日を目前にしていた。

 ここまで紆余曲折あったような、なかったような。いや、あんまりなかったな。女とは、異世界でもイージーなものだった。

 男が勝手に寄ってきて、いろいろ貢いでくれたから不便はなかった。


 そんな俺は両親のススメもあって、教会へ通っていた。


 ゼフィランサス教会は、帝国の中心に置かれている最大にして最高の権威を持つ教会だ。百年に一度しか現れないという『聖女』を熱心に育成しているようで、俺もなる為に日々努力をしていた。


 教会へ向かうと、いつものように貴族のプロテアが挨拶をしてきた。


「アルメリア様、ご機嫌麗しゅうございます。今日もお美しい」

「だからって抱きついてくるな、プロテア!」

「相変わらず乱暴な言葉をお使いなさる。もう少しお淑やかになるべきですよ」

「お前みたいなヤツが付き纏ってくるから、俺はこんな狂暴になっちまったんだよ」


 そう、俺は口調を変えなかった。

 父親には何度も注意されたが、やがて向こうが折れた。一人称も“俺”のままだ。この方が楽だし、変な男も寄り付かないからだ。

 それに元々俺は男だからな。隠す必要なんてないし、堂々としていればいい。どうせ、俺は可愛いからな!(自画自賛)


「神々しいシスター見習いなのにもったいないです。ですが、そんな君も良い!!」


 そう言って、プロテアは抱きついてきた――ので、俺はブン殴った。


「気安く触れるな気色悪い」

「――ぐほッ。そんな君も好きだ……」


 地面に倒れるプロテア。

 毎日毎日、鬱陶しいったらありゃしない。告白も百五十回は超えただろうか。いい加減にうんざりしているが、このゼフィランサス教会を支援しているとか何とか。だから無碍に出来ないんだよなー。


 そんなことを考えながらも、俺は教会内へ。


 祭壇には、先生であり、帝国一番の“ビショップ”とも謳われているクフェア様がいた。俺を待ち構えていたようで、こちらに歩み寄ってきた。



「待っていたよ、アルメリア。さっそくだが、話がある」

「お、おう。なんだよ、改まって」


 先生は、神聖な教会の中にも関わらず長いパイプタバコを取り出し、火をつけて咥えた。聖職者にあるまじき行為なのだが……いいのだろうか。もしかしたら、この世界では問題なのかもしれないが。


「お前、聖女にならないか?」

「はい!?」


 突然そんなことを言われ、俺は動揺した。

 先生は今なんと言った?


『お前、聖女にならないか?』


 マジかよ!

 そんな簡単になれるものなのかよ。確かに、俺が目指している最終地点でもあった。聖女になれれば、この堅苦しい教会と、先生からのパワハラにも似た訓練から解放されるのだから……!


「驚いただろう。だが、アルメリア……お前にはその資格があるのだ」

「俺に資格?」

「素行は悪いが、お前は長い銀髪の髪、宝石のように美しいエメラルドグリーンの瞳、それに無駄のないボディを持ち合わせている」


「それだけ?」


「あと魔力だ。お前は気づいておらんだろうが、聖女としての魔力が覚醒しているのだ。アルメリア、これから自動配信をし、魔物を成敗して稼ぐのだ」


 そういえば、この教会は世界のあちらこちらで跋扈ばっこする魔物を倒すために存在するらしい。特に聖女にはその使命が一生与えられるという。それが聖女としての務めなのだとか。


「って、自動配信?」

「なんだ、知らんのか。この世には冒険者のライブ配信を楽しむ者達がいるのだよ。無論、中にはファンがついて多額の日銭を稼ぐ者もいる」


「な、なんだそりゃ!?」

「そこでだ。アルメリア、お前は聖女になり、自動配信をしてみんか?」


 な、な、なんだそれ~~~!!

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