元・名探偵の憂鬱

渡貫とゐち

元・名探偵の憂鬱


「――せっかくの旅行なのに、行く先々で殺人事件が起こるのはなんで!?!? 起こるだけならまだしも、どうして巻き込まれるのよぉっっ!!」


 昨夜、偶然にもキャンセルが入り、なんとか夜中に滑り込みで旅館に宿泊できたカップルがいたが……例のごとく、殺人事件に巻き込まれ、今は観光もできずに旅館にカンヅメ状態だ。

 窓を開けることはできるが、外を見ると周囲を見張る警察の人と目が合った……、完全に犯人を逃がさない包囲網が作られている。


「うぅ……やっと取れた休みで色々といきたいところがあったのに……。今のところ滞在日数ばかりが過ぎて、目星をつけていた観光地に、予定の半分ほどしかいけてない……はぁ、どうしてこうなった? どうしてわたしがこんな目に!!」

「どうしてって……そりゃあ――」


 昔から、彼女のことを知っている青年からすれば、旅行をすればきっとこうなるだろうことは分かっていた。それでも、時間経過がさすがに解決しているだろう、とも期待していたが……、やはりなくならないものらしい……。


 たとえ看板を下ろしても。

 その体質だけは消えてはくれないようだ。


 ……まるで過去に犯した罪みたいだが、彼女は罪を犯したわけではない。

 どちらかと言えば、罪を暴いてきた方だ。

 そう、彼女は――元・名探偵。

 ゆえに、殺人事件が、彼女を追いかけ、発生する――。


「まあまあ、こういうことは慣れてるでしょ? 俺はもう慣れたよ」

「……わたしはもう探偵じゃないんだから、事件解決のためには動かないからね?」


 しかし。

 顔が知られている彼女が現場にいて、さて、警察は放っておくだろうか……?

 否、だった。


 部屋を訪ねてきたのは――顔見知りの刑事だ。

 刑事は嫌ーな微笑を浮かべながら…………、


「さて、出番だぞ、名探偵。早く解放されたいなら解決をすることだ。行く先々で事件を起こして解決する……結局、君のマッチポンプだったわけだな」

「わたしが事件を起こしたわけじゃないしッッ!!」


 事件を起こしたのは犯人だ……だけど。

 事件が起こったから名探偵がいくのではなく、名探偵がいるところに事件が起こった、と考えなければ、毎回のように彼女が現場に居合わせることは、説明できない。


 できなくはないが……説明しても、納得はできないだろう……。

 これが一番、しっくりくる。

 偶然では片づけられない。

 彼女はなんにも悪くはない――かつて、名探偵だった、というだけなのだから。


「……過去にトリックを暴かれ、捕まった犯人たちの怨念なのかな?」


 だとすれば。

 その復讐の仕方は、効果てきめんと言えた。


 ……まあ、被害者という加害者が増え続けていくことにはなるけれど。




 ―― 了 ――

 ※初出:monogatary.com「どうしてこうなった」

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