第4話「隠し事しないで」

 夕食後、ミアに呼び出しをくらった。場所は寝室だ。ここ最近では珍しい。なにかあったのでは、と勘繰ってしまう。以前はミアの寝かしつけに入ることもあったが、今ではすっかりなくなっている。

 このところ、入られるの嫌がっていたのにどういう心境の変化なのだろう……。特に夜はダメだったのに。

 部屋の扉をノックすると、眠たそうな声が返ってくる。それを確認して、ロルフは中に入った。


「いらっしゃい……、そこ座って」


 ミアはベッドに女の子座りでおり、おなじみの竜の人形を抱いていた。

 さて、一体なんの話なんだか……。少し怖いな。ロルフがベッド近くの丸椅子を引き寄せ座ると、ミアがすっと口を開いた。


「ねぇ、ロルフ。あなた、私の執事になって何年目?」

「……そうですね、五歳の頃からなので、かれこれ今年で十一年ですね」


 なんだ今さら。なにを聞きたいのだろう。


「そうよね、もう十年以上経つのよね、私たち。普通に考えれば長い付き合いになるわ」

「そうですけど……。なにを聞きたいのですか?」


 これ以上話を聞いても結末は同じだろうと、先に切り込んでみる。すると、ミアはビクッと肩を震わせて黙ってしまった。しばし無言の時間が流れる。辛抱強く待っていると、ミアは話し出した。竜の人形を強く抱き締めて。


「ロルフ、私になにか隠してない?」


 ……なんだ、そっちか。勘違いした自分をぶん殴りたい。

 ルーシーがなにか入れ知恵したのか? でも自分の執事の体調一つ、こういってはなんだが、わざわざ夜に呼び出して聞く内容だろうか?


「なにか、とは?」

「質問に質問で返さないで。ねぇ、なにを隠しているの?」

「んー、別に隠してたというか、大したことでは無いんですが――まぁ、今日は夢見が少々悪かったですね。なので、体調が優れない部分はありましたが……、それ以外はピンピンしていますよ」


 ミアは顔を俯かせて、なにか考え込んでしまう。そんな、引っ掛かるようなことを言っただろうか?


「そうなの……。他にはある?」

「いえ、特には……」

「……ルーシーが心配してたわ。なにかあったら、すぐに言いなさいよ」


 やっぱりルーシーか。確かに少しばかり心配されたような気がするが……。そんなに分かりやすいのだろうか。


「心配されるほどでは無かったと思うんですが……。まあ、体調には気を付けます」

「そうするといいわ。……ねえ、あなたもだけど、周りでなにか変わったことはない? 大丈夫?」

「え、ええ。特になにも変わりはないですけど……。どうしたんですか?」

「ないなら、いいわ。少し気になっただけだから」

「そう、ですか……」


 突然どうしたんだろう。変わったこと……、別になにもないと思うけどな。

 ミアはこほん、と一つ咳をすると、話を戻した。


「……今度から体調が優れないときはすぐに言いなさい。黙ってたら、ぶっ殺すわよ。私は自分を管理できない奴は嫌い。あと、隠し事はなしよ」


 随分、過保護だな。それに手厳しい。でも、ありがたく受け取っておこう。きっと心配の裏返しなのだろうから。少々口は悪いが。


「ありがとうございます。その時には必ず言いますね。……あー、あと一つ隠し事がありました」

「なにっ?」


 おおう。思ったよりも食いつきが良いな。ただ、からかうつもりだったのに。ちょっと失敗したかもしれない。


「俺が常日頃、思っていることですよ。一人で起きれるようになって欲しいなーって」

「……余計なお世話よ。大体、隠し事でもなんでもないじゃない」


 ミアはからかわれたことに気付くと、ぷいっと顔をあらぬ方向を見て、耳を真っ赤にした。

 彼女が眠るまで、と夜話が続く。淡い間接照明で照らされたミアは可愛らしく、これは誰にも見せたくないと思うほどだった。

 いつもこうだと、周りに誤解されないんだけどな。しかし、そんなことはありえない。ロルフはありもしない想像を巡らせ、ミアとの話に花を咲かせる。今日は少し変わった一日だったような気がした。



「ロルフくん、お願いがあるの」

 ミアと夜に寝室で話してから一週間後。いつも通りミアを学校まで見送って出勤したロルフに、ギルドの上司からかけられた第一声はそれだった。

 いや~な予感がするなぁ……。もっともここ最近の王国内の噂は知ってるので、おおよその見当はつく。


「なんでしょう? まぁ、大体の想像はつきますが……」


 このタイミングでのお願い……、大方「炎狼」関係だろう。具体的になにをするのかは知らないが。

 ギルドの方でも対処には困っていたのは知っている。しかし、話が大きくなりすぎたのかもしれない。いくら元犯罪者たちを殺しているとはいえ、相手は人間。殺人者には変わらない。王国上層部から圧力がかかってもおかしくはなかった。「どうにかしろ」という名の無茶ぶりが。

 冒険者ギルドは基本的に完全中立。とはいえ、王国内に施設を構える以上、ある程度王国の事情を汲み取ること、もあるのだろう、きっと。


「ちょうど昨日。ロルフくんが帰った後なんだけど、上から依頼が来てねぇ……、えーと、たしかこの辺に――」


 困ったわー、とその上司の女性はガサガサとデスクを漁り出す。

 あー、やっぱり。でも、どう対処する気なのか。捕縛も難しいだろうに。

 上司はようやく目的の物を探り当てたのか、顔を輝かせた。デスクから一枚の紙を取り出し、ロルフに見せる。そこには少々過激な内容が書かれていた。もっとも最近の王国内の状況を鑑みれば、しょうがないのかもしれないのが。


「炎狼の討伐依頼……」

「ええ、王国冒険者ギルドはこれを承認。ついては、狩人を集めることになったんだけど……、職員からも何人か出す必要があるのよ」


 困ったわよねぇー、とまったくそうは見えない様子で溜息を吐く。どうせ、依頼に出る人間は決まっているのだ。

 それにしても捕縛ではなく、討伐。上は余程腹に据えかねていたらしい。捕まえて、正体がなんなのか探る方法もあるというのに。他国の工作という可能性もあるのだから。


「構いませんが、なにをするんですか?」

「当分は夜の見回りね。三人一組で行って、見つけ次第、討伐。シンプルだけど、王国内全部の元犯罪者たちに見張りをつけるわけにもいかないしねー、しょうがないわ」

「夜の見回り……。殺害が起きているのは、全部夜。加えて被害者には元犯罪者以外に共通点はなく、殺害場所はすべて街道の上、だからですか?」

「そうよ。殺害時期の周期も決まっているわけでもないみたいだし。……沈静化するか、討伐するまで当分行うことになると思うわね。頑張って」


 まったく心の籠ってないエールがロルフに送られる。

 随分大掛かりになったな。しかし、夜に出歩くことになると、ミアに言っておかないと。


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